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神社レポ:縁切り神社とラブホテル、共存共栄する京都の歴史を体験

 田口ランディ氏の小説「縁切り神社」で、神社の絵馬について生々しい記述があり、あぜんとさせられた。そのモデルとなった神社が実在する。おどろおどろしい世界をのぞいてきた。


絵馬に実名で「別れろ」

 浮気されて別れたばかりの主人公。傷心旅行で京都へ。そこで縁切り神社に出くわす。何気なく眺めた絵馬の一つに自分の名前を見つけてしまう。

はじめの鳥居

 本来、神社に吊るす絵馬には「◯◯大学に合格しますように」や「家族が健康でいられますように」などと書かれるのが一般的だ。が、縁切り神社の絵馬には「工藤麻衣子が村田芳樹と早く別れてくれますように」(*)などと書かれているらしい。 小説ではこう推測されている、「村田芳樹に片思いしているのだろうか。そして、工藤麻衣子を恨んでいるのだろうか。いや、もしかしたら工藤麻衣子に村田芳樹を取られたのだ。恋人が心移りした腹いせに、縁切り神社に願いをかけているのかもしれない」(*)

 この神社、京都市の東山に実在することに驚き、実際の絵馬を見れば、日本をとりまく昨今の現状およびその実態を探るキッカケになる、というまことに高尚な目的意識を持ったのだが、内心は「怖いけどチラッと覗いてみたい」というのが本音であった。
 自分のなかにある、いやしい出歯亀根性を恥じつつ、カメラを持って出かけることにした。

どうしてそんな神社があるのか

 そもそも、縁切りは男女関係だけでなく、病気や酒にタバコから、悪癖や依存症にいたるまで、自分が断ち切りたいと思うあらゆる悪縁に対応してるんだとか。
 悪縁を切り良縁を結ぶご利益をえられる神社は昔からあるらしい。なかでも私が取材した縁切り神社「安井金比羅宮」、その筋では有名らしい。

 京都観光で有名な、八坂神社から400メートルほどの場所。辺りはスターバックスや土産物屋さんが立ち並ぶ。
 祇園の石畳を歩く。ほんの数百メートルしか離れていない場所に、ひっそりと佇んでいる縁切り神社。どんよりと曇ってきた。

奥の鳥居が「縁切り神社」

なぜかラブホテル

 すぐそばに、崇徳天皇廟(供養塔)がある。歴史学者の磯田道史氏いわく、日本史に怨霊ランキングがあるとすれば、その頂点は崇徳天皇であり、最強最恐だとおっしゃっていた。
 その前を失礼して縁切り神社へ。神社の鳥居が見える。手前に、ラブホテルがある。
 もうひとつ鳥居があるらしいが、その奥にもラブホテルらしき建物が見える。
 うん? えっと、この場所にあっていいのだろうか。

 この地には崇徳天皇の寵姫が住んでおられたらしい。白河法皇の妾宅があったのも、このあたり。

 つまり、この地にラブホテルがあるのは必然であり、千年近くの歴史があるらしい。グーグル・マップで調べると、ホテルだらけだ。

歪んでいる

 鳥居をくぐって境内に入ると、それほど広くはなさそうだが、人が多い。外国からの観光客らしき人や、友人であろうグループ、もちろんカップルの姿も。
 本殿まで歩くと、目にとまるのはギッシリ掛けられた絵馬。「写真はご遠慮ください」の文字。

 絵馬を読んでみたくて来たのに、読むのはもちろん、写真で撮るのもマナー違反だぞと空気感で悟る。でも、気になる。
 何か焼いているんだろうか。何も見えないが、金属のような匂いがする。

 仕方なく、カメラを片付け、お参りだけで済まそうとする。参拝者の列。並んでいると、真横にかかった絵馬の圧がすごい。つい読んでしまう。

 病気などの縁を切るように願う絵馬もあるにはあるが、カップルを別れさせたい意志で書かれたものが多い。さらに、強い殺意を感じさせるものもある。
 本当に実名で書かれている。
 絵馬に体が触れないように気をつけつつ、読み続ける。

「この境内全体が『縁切り』を望む念でぐわんぐわんと歪んでいるのだと思った。」(*)

参拝方法

 縁切り神社は、悪縁を切り、良縁を結ぶ道を自分が動いて体験する。

 まず本殿にお参りし、形代という身代わりのお札に願い事を書く。
 そして「縁切り縁結び碑」の穴を表から裏へくぐって悪縁を切り、裏から表へくぐって良縁を結ぶ。
 最後に形代を碑に貼り付ける。

 穴をくぐる動線で願いを結ぶわけだ。
 狭い穴のため、四つん這いになってしまう。そこまでしてやりたくない気もするが、人気の体験らしく、行列ができている。

 「縁切り縁結び碑」は大きな石なのだが、形代が全面に貼り付けられており、石の部分はもはや見えそうにない。

形代が層になっており、ブラックホールを連想してしまう

歴史あり

 真横に立ち並ぶラブホテルがどうしてもひっかかった。
 昭和37年代に出版された『新選京都名所図会4』(白川書院)によると、この辺りは「安井旅館街」という記述があった。安井旅館街を調べると「連込み旅館」「アベック旅館」と書かれている。
 ホテルと神社は長い歴史をもって、共存共栄してきたのだ。

 縁切り神社の由来を紐解くと、崇徳天皇が流刑された際、香川県の金刀比羅宮で一切の欲を断ち切って参籠したことに始まるらしい。
 崇徳天皇は愛する人と離ればなれにさせられた。そこでこの神社にお参りすれば、縁を妨げる悪縁を絶ってくれると信じられた。

 小説の終盤では、主人公が悪縁を自分のなかに見つけ、涙する。絵馬を燃やすシーンがある。 
 リセットしたい何かがあるなら、キッカケになるかもしれない。
 パワースポットかどうかはわからないが、空間が歪むような体験であった。



上記(*)は、田口ランディ『縁切り神社』(幻冬舎文庫)より引用させていただいた。

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