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タコ部屋 in the foot

「だいすけ かけ見てみろよ」と青野さんが言った。白線で区切られている車道と歩道その白線上を歩き傾いた上半身は車道に飛び出しフラついて前を見ていない 僕の目からは対向車のミラーにぶつかったように見えるが、かけさんも車も物質的な崩壊はないので、そのままの日常が連続している。そしてまた歩道と白線上をふらふらしてる陽炎 かけさん。

伊豆見工業の以前の土木会社から所長や青野さんと一緒に仕事をしてきた古株なのだが、年齢は伊豆見工業で僕に一番近い30歳、地方から出てきて今は伊豆見工業在籍。年間ほぼ神奈川にいることはなく清水をメインに出張が続く、故に僕がかけさんと会ったのは入社して大分時間が経ってから 人に警戒心を与えない顔で「かけ」とか「かけちゃん」とみんなに愛されていた。愛される条件を持ち合わせてる人は、仕事が出来るとか真面目とかそういう事よりも容姿と行動がより作用していると感じる。かけさんもその一人 

久しぶりに寮に帰ってきた かけさん、風呂から上がりこちらに向かってくる 襖一枚なので部屋にいることは容易にわかるし来るのもわかる。一切体の水分を取っていない状態のパンツ一丁で「だいちゃん タバコちょうだい」と入ってきた マルボロメンソールが280円の時代「一本でも二本でも」と渡した。一本くわえ そのまま僕の布団に横になって「だいちゃんって さぁ」と話だした。部屋に入ってきたときバスタオルは持っていなかったので、かけさんにとって拭き取りはフィニッシュだったとおもうが僕から見ればびちょびちょで僕の布団が吸水してる「ちょっと!!かけさん!!体びちょびちょだよ」僕が慌てて言うと「えっ」と言ってキョロキョロして辺りを見回してるびちょびちょの発生源が自分だとは思ってない

スーツのジャケットにジャージのズボン おちょぼ口でスパスパ煙草を吸い ふらふら歩く 仕事は真面目にコツコツやる 過去は知らないがここにいるなら何かある。まだ30のかけさんがどんな未来を想像していたか、未来なんて意識していない日雇い労働者だった僕は、誰にも行き先を尋ねてみる頭はなかった。

ある日の朝 作業車のアベニールがグシャグシャになって駐車場に止まっていた。事故を起こした報告もない、しかし 昨夜 かけさんがパチンコ屋に乗っていったことは 清水の寮にいた数人が知っている。所長がかけさんに「かけ お前が乗ってたんだからお前がぶつけたんだろう」かけさんは記憶にないと元々かしげてる頭をよりかしげてる 「駐車場にちゃんと止まっていたんだぞ お前どうやってかえってきたんだ」と所長、かけさんは記憶にないと正直に答えてる そう 記憶がなくなるほどだったのである。

次回「欠席の理由」


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