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司法試験平成19年(著作権)答案作成

 1 設問1
(1)小説Aは小説の著作物(10条1項1号)にあたり、その著作者(2条1項2号)は小説Aを創作した甲である。
(2)脚本Bは、小説Aを演劇として上演するために作成された脚本の著作物(10条1項11号)にあたる。そして、脚本Bは、小説Aの本質的特徴を直接感得できるものであって、小説Aに新たな創作的表現を付加したものであるから、二次的著作物(2条1項11号)にあたる。
 また、脚本Bは、乙と丙とが「共同」して創作的に関与したものであり、「その各人の寄与を分離して個別的に利用することできないもの」であるから、共同著作物(2条1項12号)にあたる。よって、乙と丙とが著作権を共有する(65条)。
(3)甲の承諾の要否
 脚本Bに基づいて演劇Eを演じさせることは上演権(22条、2条1項16号)、これを録音録画することは複製権(21条、2条1項15号イ)、DVDの販売は譲渡権(26条の2第1項)の行使にあたる。よって、原著作物(小説A)の著作者甲の同意を要する(28条)。
(4)丙の承諾の要否
 ア 脚本Bは共同著作物にあたるから、その利用にあたっては丙の「合意」(65条2項)が必要となる。しかし、乙が予定している脚本Bの上記利用行為は丙に不利益を与えるものとは考えられない。そこで、同3項の「正当な理由」がないことを理由として、丙の同意が不要であると解することができるか。
 イ 同2項の趣旨は、①一部の共有者の利用行為によって他の共有者が不利益を受けることを防止するとともに、②共有者らに合意に向けた協議を促すことで、利害対立の自律的解決を図ることにある。そうすると、共有者らによって十分に協議されたといえる事情がない限り、同3項の「正当な理由」がないことを理由に「合意」が不要であると解することは、②の趣旨を潜脱することになって許されない。
 ウ 乙と丙とで十分に協議したといった事情はない。よって、同2項により、丙の承諾を要する。
 2 設問2
(1)甲は、丁に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(114条3項、民法709条)をすることが考えられる。
(2)小説Cは、小説Aを基にして、ストーリー展開や登場人物の性格設定を同様なものとしつつ、舞台を日本、主人公を日本人の若い男女に置き換えたものである。よって、小説Cは、小説Aの本質的特徴を直接感得できるものであって、小説Aに新たな創作的表現を付加したものであるから二次的著作物にあたる。そして、その著作者は小説Cを創作した丁である。
(3)小説Cを公の場で朗読することは、原著作物(小説A)の口述権(24条、2条1項18号、28条)の侵害に当たりうる。
 また、小説Cは、丁が小説の書き方の勉強のため執筆したものであるから小説Aの私的使用(30条1項柱書)にあたる。しかし、これを無料朗読会で朗読したため、目的外使用として「公衆に提示」(49条2項1号)されたといえ、原著作物(小説A)を翻案したとみなされる。よって、丁の朗読行為は翻案権(27条)の侵害に当たりうる。
(4)しかし、営利を目的としない口述(38条1項本文)であれば、原著作物の著作権者に経済的打撃を与えず、むしろ文化の発展(1条)に寄与することになるため、著作権侵害は成立しない。
(5)丁は、ボランティアでしている無料の朗読会で小説Cを朗読した。よって、丁の朗読行為は営利を目的とせず、これに「報酬」(同項ただし書)も支払われていない。よって、営利を目的としない口述として著作権侵害は成立せず、甲の請求は認められない。
 3 設問3
(1)甲は、戊に対して、ホームページ上に小説Dを掲載することの差止請求(112条1項)のほか、小説Dの原本の廃棄請求(同2項)をすることが考えられる。
(2)小説Dは小説Aの続編であって、主な登場人物がそのまま登場する。小説Dを読むことで小説Aの内容を把握することはある程度可能であるし、登場人物は小説A,Dとで共通している。よって、小説Dは、小説Aの本質的特徴を直接感得できるものであって、小説Aに新たな創作的表現を付加したものであるから二次的著作物にあたる。そして、その著作者は小説Cを創作した戊である。
(3)小説Dをホームページ上に掲載することは、小説Aの複製権(27条、28条)、公衆送信権(23条1項、28条)の侵害に当たりうる。
 また、戊は、小説の書き方の勉強のため小説Dを執筆し、この行為は小説Aの私的利用(30条1項柱書)にあたる。しかし、これをホームページに掲載したため、目的外使用として「公衆に提示」(49条2項1号)したといえ、原著作物(小説A)を翻案したとみなされる。よって、小説Aの翻案権(27条)の侵害に当たりうる。
(4)戊の掲載行為が営利目的外の伝達(38条3項)といえるか問題となる。本件では、戊のホームページが有料版のものであり、料金を支払わないと小説Dを読むことができないといった事情はない。よって、同項が適用されて著作権侵害は成立せず、甲の請求は認められない。  以上

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