見出し画像

詐害行為取消権の知識まとめ

1 趣旨
 責任財産の保全(回復),強制執行の準備

2 要件(自分は以下のように把握してます)
強制執行で実現できる被保全債権が存在すること(424条4項)
②被保全債権が詐害行為より「前の原因」に基づいて生じたこと(3項)
③債務者が「債権者を害することを知って」詐害行為をしたこと(1項)
④債務者の無資力
財産権を目的とした行為であること(2項)
⑥受益者が詐害行為時に債権者を害することを知っていたこと(1項但書)

【転得者に対して取消請求する場合】
⑦ ①~⑥すべて満たすこと(424条の5柱書)
⑧-1 「受益者から転得した者」を被告にするとき
 転得者が転得時,債務者がした行為が「債権者を害する」と知っていたこと
⑧-2 「他の転得者から転得した者」を被告にするとき
 すべての転得者がそれぞれの転得時,債務者がした行為が「債権者を害する」と知っていたこと

3 要件を細かく検討
①強制執行で実現できる被保全債権が存在すること(424条4項)
・特定物の引渡しを目的とする債権(特定物債権)は,究極的には損害賠償請求権に変容し得るため,金銭債権と同視することができる。よって,被保全債権となり得る(判例)。
 ただ,行使時点において特定物債権の内容が損賠賠償請求権になっていないといけない。

②被保全債権が詐害行為の「前の原因」に基づいて生じたこと(3項)
・被保全債権の主たる原因が詐害行為より前にあればよい。
 詐害行為→被担保債権が発生 という事例であっても,詐害行為取消権を行使できる可能性がある。

③債務者が「債権者を害することを知って」詐害行為をしたこと
・その認識さえあればよく,害意までは必要ない。
(cf「悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とした相殺不可」の「悪意」は害意まで必要)
・詐害行為の例:廉価による譲渡など。弁済も場合によってはあり得る(判例)。

④債務者の無資力
・詐害行為時と取消権行使時の両時点で無資力でないといけない。
→事実審口頭弁論終結時(既判力の基準時)において資力が回復していたら,取消権行使の必要性がないため。
→原告(取消権者)は,詐害行為時の無資力を主張立証し,被告(受益者,転得者)は,資力の回復を抗弁として提出できる。

⑤⑤財産権を目的とした行為であること(2項)
・相続承認,放棄→×
・婚姻,養子縁組→×
離婚に伴う財産分与(768条)
→原則×。ただ,財産分与に仮託してなされ,不相当に過大な部分が認められるのであれば,この部分のみ取り消せる(この部分については単なる財産の移転に過ぎないため)
・離婚に伴う慰謝料請求権
→一方の配偶者が負担すべき賠償額を超えた金額について支払うとの合意があれば,その超えた部分のみ取り消せる。
・遺産分割協議→〇(財産権を目的とした行為といえるため(判例))
・催告,時効更新を狙った債務の承認→〇
・会社の新設分割→〇(判例)
・債権譲渡の通知
→債権譲渡そのものが詐害行為として取り消せないのであれば,この通知だけ詐害行為として取り消すことはできない(判例)

⑥受益者が詐害行為時に債権者を害することを知っていたこと(受益者の悪意)
・この事実は,受益者側が主張立証責任を負う(取消権者の原告ではない)。転得者に対する請求における転得者の悪意については,取消権者の原告に主張立証責任があるため注意。
詐害行為時に知っていないと認められない。詐害行為より後になって債権者をすることになった場合は,取消権行使は不可。

【転得者に対して取消請求する場合】
⑦ ①~⑥すべて満たすこと(424条の5柱書)

⑧-1 「受益者から転得した者」を被告にするとき
 転得者が転得時,債務者の行為が「債権者を害する」と知っていたこと
⑧-2 「他の転得者から転得した者」を被告にするとき
 すべての転得者がそれぞれの転得時,債務者の行為が「債権者を害する」と知っていたこと
・「受益者の悪意」や「前の転得者の悪意」を知っていたことではない。
・この要件は,原告たる取消請求権者が主張立証責任を負う。受益者に対する請求における受益者の悪意は,受益者に主張立証責任があるので注意する。

★検討の順序
 転得者がいる場合であっても,まずは要件①~⑥を検討し,その後,すべて転得者の悪意(債務者の行為が債権者を害することを知っていたかどうか)を検討する。

4 効果
・認容確定判決の効果(既判力・形成力)は,債務者そのすべての債権者に対して「も」及ぶ(425条)。
→受益者を被告とした場合,転得者には及ばない。
→転得者を被告とした場合,債務者,そのすべての債権者,当該転得者に対して及ぶが,それより前に登場した受益者・転得者には及ばない。そのため,当該転得者が現物返還,価格償還をすることになっても,当該転得者が受益者・前の転得者に返還を求めることはできなくなる。

5 その他(方法など)
・被告は受益者または転得者であり,債務者に対しては必ず訴訟告知を行う(424条の7)。
・詐害行為の取消主体は,債権者ではなく裁判所である(424条1項本文)。必ず訴え提起(または反訴提起)の形式で行う。
抗弁で詐害行為取消権を主張することは不可(判例)。判決主文により明確に特定の行為が取り消されたことを明記すべきだから。
・出訴期間
→①債権者が「債務者が債権者を害することを知って行為をしたこと」を知った時から2年,②行為の時から10年が経過したら,訴え提起できない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?