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絶品三つ星映画紹介〜壊れゆく世界を予言した怪作〜『ファイト・クラブ』

兼ねてからずっと名作映画を紹介する記事を書きたいと思っていたのですが、タイトルが決まらず、なかなか書けずにいました。「名作紹介」だと味気ないし、「これ見ずに死ぬな!」は既になんかの連載であった気がするし。。。
結局タイトルが決まらずに書けてなかったんですけど、ミシュランにちなんで絶品三つ星映画なんてどうだろうと思い、今回初めて書き始めました。悩んだ割には微妙なタイトルだな、グルメ紹介するみたいだなとなりましたが、埒が明かないのでこれで進めます!

初回はデヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』です!
ネタバレありでも楽しめる作品ですので、ネタバレありで進めていきたいと思います!


あらすじ
エリートながらも空虚な日々を送る男性(エドワード・ノートン)が、ある日出会った派手な出で立ちの男にいざなわれ、異質の世界に足を踏み入れる。そこは男たちが己の拳のみを武器に闘いを繰り広げる、壮絶で危険な空間だった。そのファイト・クラブで、彼は自己を開放していく。

『セブン』『ソーシャル・ネットワーク』『ゴーン・ガール』などで知られるデヴィッド・フィンチャー監督が1999年に製作した映画です。
フィンチャーの実験作の一つで「この映画にこんな製作費を出す20世紀 FOXはどうかしてるぜ!」って言ったとか、言わないとか。。。

実際この映画は公開当初製作費を回収できずに、FOXの重役が何人も解雇される事態に。批評面でも評論家から「暴力的で危険」「マッチョポルノ」など酷評されていました。

現在では映画雑誌『エンパイア』の「歴代最高の映画ランキング500」で10位に選ばれています。
なぜ公開当初見向きもされなかった作品が評価を得ることになったのでしょうか。
その理由はこの映画が時代を先取りし過ぎていたからです。

不眠症に悩まされている男の前に、ある日現れた一人の男。名前はタイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)。二人は男同士で殴り合うクラブ「ファイト・クラブ」を結成します。徐々に参加者は増え、「スペース・モンキー」と名前を変え、「プロジェクト・メイへム」というテロ計画を実行に移すようになります。

男たちが殴り合う理由、それは彼らの生活が空虚だからです。主人公が不眠症なのは生が実感できないからです。タワマンに住み、高級家具に囲まれた生活をしていても、それは人生の価値を実感することにはなりません。いくら収入があるとか、高級家具を揃えているとか、高い衣服に身を包んでいるとか、そんなことは元々人生において何の価値もないことであり、資本主義社会に植え付けられた新しい欲望の一つにすぎません。
資本主義に植え付けられた欲望を満たしてるうちに本来の生きる意味を見失った彼らは、殴り合うことで生の実感を得ようとするのです。

「暴力」はマッチョイズム(男らしさを重んじる思想)ですが、同様に高い収入や社会的地位のある職業を志向することもマッチョイズムなのです。良い大学を出て、社会的地位の高い職業に就いて、高収入を得るということは実際に男性が求められている(必要と思わされている)ことであり、高収入・高学歴は実際に「モテる男」のステータスという(馬鹿げた)固定観念は実際に存在しており、広義のマッチョイズムと取れます。
※余談ですが、男の収入、女の容姿なんてその人の価値をこれっっっぽっちも決めませんからね!

この映画はマッチョイズムの暴走が引き起こす災厄を描いており、マッチョイズムの暴走はすなわちアメリカが主導するグローバル資本主義を象徴しています。

公開当初、アメリカを含め先進諸国に住む人々はこの映画が意味していることを読み取ることができませんでした。それが、この映画が公開当時受け入れられなかった理由です。
しかし、その「意味」に強制的に向きあわなければならない時が来ます。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロです。

あの悲惨なテロはアメリカが自らの欲求のために中東諸国を暴力で踏み躙り、グローバル資本主義を拡張していったことが原因の一つです。確かに反グローバル資本主義がテロの根底にはありました。

映画のラストでビル群が爆破され倒壊していくシーンは、2001年のテロの予見でしたが、実際に悲惨なテロが起こるまで、誰も同じことがアメリカで起きるなんて想像もしていなかったのです。

ラストシーンでのビルの倒壊と共に流れるピクシーズのWhere Is My Mind?は、9.11のテロ後国家としての資本主義世界の覇者としてのアイデンティティが傷付けられ、泥沼化するイラク戦争に向かっていくアメリカを歌っているようでした。


映像的にもかなり実験的なことがなされており、タイラーが登場する前にタイラーを数フレーム映すサブリミナル効果を利用している点です。これはイングマール・ベルイマン監督が『仮面/ペルソナ』(1967)でほんの一瞬画面にチ◯ポを映すという謎演出のオマージュなのですが、今作ではタイラー登場前にタイラーへの既視感を与えるという効果をもたらしています。

日本の『真夜中乙女戦争』など多くの映画がこの映画をパクっており、後の映画界に与えた影響は計り知れません。

NetflixやAmazonプライムでも見られますので、是非ご覧ください!


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