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自分の目にZOOM《iquotlog:天才的一般人の些細な日常》

 ZOOMで会議中にどうも自分の顔が気になる。
 美しすぎて見惚れるのではない。目が死んでいるなと思うのだ。見るのは自分の顔ではない。まして他の人の顔でもない。主に自分の目が気になるのである。自分の目をまじまじと見てしまう。一応奥二重なのだが、見かけ上一重の自分の目は、なんというか、「へら」みたいだ。鏡に向かってはこんなに自分の目を観察することはないのだが、ZOOMをしていると、ああ自分の目はこんなふうに人の目に映ってしまってるんだなあと思う。全然会議に集中できない。
 なんというか自分の目にはほっとさせる要素がない。表情がない。モノクロだ。マットだ。溌剌とした生気がまったくない。目尻に向けてオフのときのスイッチみたいな下降線を描いている。初対面でこんな人間と仲良くなりたいと誰が思うだろうか。こいつは何を考えている人間なのだろう(いや、目つきのことを考えているのだけれど)、警戒しておこう、きっとそう思うだろう。
 会議をしながら、娘の目のことを考えた。
 娘は保育園の全学年の誰よりもかわいいと客観的に見て思うし、将来美人になることは間違いないが、ぼくは彼女の目が一重なのがそういえば気になっていたな。彼女の目には、女神へのはしごの一段目が欠けているような、そんな気がしていたのである。放っておけば天の羽衣に包まれて天女になるところを、一重まぶたの重力が彼女を地上にとどめている。そしてテレビを観ている。
 ZOOMをしながらさらに思ったのは、自分の目は娘の目とそっくりだということ。この目は知っている。毎日見ている。真剣にテレビ画面を観ているときの娘の目にそっくりだ。
 なんというものを受け継がせてしまったのだろうと、悔いても詮無いことをこころの中で嘆いた。
 そのとき、ふと話しかけられている気がして、自分の目から目を離すと、会議の主催者がぼくに話しかけていた。
「事務所の電話の音とか入ってくるから、マイクをミュートにしてくれる?」
自分の目にZOOMし過ぎていて、まったく気づいていなかった。
マイクをオフにしてから
「すみませーん!」
と順序を間違って喋った。不気味な目の男が画面の向こうで口パクしているの図である。一応それがそっとウケていたようではあるけれど、狙ったつもりはない。
 娘は女神や天女にならなくてもいい。ただただ将来も人の社会で良い目を見ていてほしいと心から思う。

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