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ただ、しぶといばかりの広告《zaccanto》

 どうも、おれは世の中に不平不満ばかり持っているのかと自問自答中の非生産的なクリエイターです。
 さて、みなさんそうかもしれませんが、乗り物に乗るとつい広告に目がいきます。
 きょう子どもを膝に抱きながら地下鉄に乗っていて(水族館帰りでたいがい疲れていた)、ふと前を見ると、「レトロ婚フェス」を謳った広告が目に入りました。最近何かとレトロなものが尊ばれているようですが、ついに冠婚葬祭業界にもレトロが、と思いました。「レトルト」ではないですよ、「レトロ」です。
 最初はちょっと「レトロ婚フェス」の文字列がなんのことを言っているのかわからなくて、「レトロ・コンフェス(retro-confess)」、回顧して告解? 新婦ではなくもしかして神父? の洒落かと思いましたが、どうもそこまでしゃれのめしているつもりはないらしく、直球勝負で昔懐かしいテイストの婚礼の体験型フェスティバル、の広告でした。確かに、昭和、大正、明治くらいの、木造洋館で舞踏会風の披露宴をして、賓客が歓談しているところをそっとバルコニーに出て、花火を見上げ、
「われわれ自身のvieのやうな」(©芥川龍之介)
とか言ってみたい、気がします。
 が、ぼくには親の結婚式の写真が特に意図せずとも自動的にレトロに思えるのに、レトロを意識して挙式したその記録たる写真が、その子らの世代にはいったいどのように映るのだろうか、ということが少し気になります。やはりシンプルにレトロ、「あ、長髪、ベルボトム履いてるー」と同じ感覚で見返されるのでしょうか。
 なかなか想像をかき立てるよい広告でした。
 聞かれていませんが、嫌いなタイプの広告があります。
 なかでも嫌いなのは、「あほがみる ぶたのけつ」式の無礼な広告です。ぼくら1980年代生まれの世代は、必ず経験したであろう、「あ」と指さされ、はっとしてそちらを向くと、「あほー、だまされてやんのー」と、直訳すると「あなたが見るのは豚の肛門です」という意味のことを言われるイタズラ。あほがみる ぶたのけつ。非常にばかばかしいです。いまは、レトロですか。それとも今でもやりますか。
 では、具体例をあげましょう。
 神戸市バスで頻繁に見る広告ですが、運転席の背後のパネルにいつも見かけます。神戸市民として、市の交通局に進言したほうがいいかなと思っています。
 その広告は、一見するとただの葉っぱの模様のプリントです(じつは一見しただけでネタバレしているのですが、ここは一度見えなかったことにします)。工事現場など、自然を破壊しているイメージのつきまとう場所にありがちな、一見すると葉っぱの模様のプリント。その上部には、「目が疲れていますか、緑を見て目を癒やしてください」みたいなことが書いてあります。そしてそれに続けて、「ほら、何か見えてきましたか?」とあり、緑の真ん中に浮き出る3Dアート風の文字で、

 広告募集

と。これには脈打ちます。
 最初から見えてるんです、Windows95の時代、いやそれ以前から標準でインストールされているようなやる気のないフォントの、「広告募集」。ちょっと読みにくいな、からの、疲れ目ですか誘導、で緑を見せられ、さも自分が目を癒やした体での、ほら見えてきましたか。
 もう見え透いているというか、既に物故者か定年退職者かもしれない人の、魂胆しか見えなくて。逆効果しかないです。そしてやっぱり、いつまでもそこはしぶとく、疲れ目誘導緑カムフラージュ広告募集のまま。
 ちなみにこちらは地下鉄三宮駅で見たものですが、北神急行線も市営地下鉄になって、北区へどうか来てほしいという思いがあったのでしょう、ホームから改札へ上がったところの目の前に、

「ほら、いま目が合いましたね」

というコピー。
「合ってへんわ」
と、反射的に思ってから目に入るのが、よく思い出せないけど、「どうぞ北区へ」的な文句。もう反感が用意されたところに「お誘い」が来たら人間頑なにもなります。たとえ親戚が住んでいても「北区へは行くまい」とか、行かざるを得なくても、「CO2を排出してでも、車で、西区経由で」とか。
 このように安すぎて事故物件かと思われている広告スペースが多いような気がして残念なのです。ちょっと目立ったかと思ったら、「明石ってどこって言われるくらいやったら、神戸に住まへん」とかいう他所様をdisった広告で。つい先日も「神戸って異国情緒あっていいですよねー」と言われましたが、少なくとも広告のセンスに関しては「異人さんに連れられて」どこかへ行っちゃったままかもしれません。
 バスや地下鉄の事故物件広告スペースが、「重度歓迎」を謳う怪しい大阪の歯科医の広告に覆われる前に、やめてもいい悪しき慣習はやめてはどうかと思います。
 広告募集のスペースには、もういさぎよく市立の小中学生が「広告」と「募集」を毛筆で書いたのを貼ったらどうでしょうか。その次は、「北区」とか「西区」とか。それから、「神戸」「製鋼」とか。毎月お題を変えるんです。
 いやいや、だめだ。子どもを餌に使ったそんなやらしいことをするとますますだめです。神戸市には広告の救い主はいないのでしょうか。自分が神戸市の広告担当になったら、
「重度」
「専門」
と毛筆で書いた半紙があちこちに貼られる事故物件を超えた惨憺たる有様が市中に現出してしまうことでしょう。

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