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選定にあたって

松原 仁
(情報処理技術研究開発賞選定委員会/京都橘大学)

 2023年度の「情報処理技術研究開発賞」は日本IBMの木村大毅さんに授与されました.本賞は企業所属の若手研究者を対象として2018年度に創立され,今回で第6回目となります.以前は本会第20代会長の故長尾真先生からご寄贈いただいた資金によって2005年に設立され若手研究者を顕彰してきた「長尾真記念特別賞」というものがありました.2015年度までの11年間にわたって続けられてきましたが,「情報処理技術研究開発賞」はもう1つの国内の大学および公的研究機関所属の若手研究者を対象とする「マイクロソフト情報学研究賞」とともにその賞の精神を引き継いでいます.「長尾真記念特別賞」は毎年3人以内の選考だったのに対して本賞は1名以内,「マイクロソフト情報学研究賞」は2名以内の合計3名以内となっています.

 本賞は,情報学の主要分野でその研究・開発において国際的に顕著な貢献が認められ,今後もその発展が見込まれる企業(大学および公的研究機関以外)所属の若手研究者(共同研究・開発の場合はその代表者)1名を顕彰するものです.受賞対象者は応募推薦の時期までに39歳までの本会正会員としています.2023年度は推薦公募を行ったところ2件の推薦があり,表彰規定ならびに決定手続きに基づき慎重に審議を行った結果,以下の研究業績に関して上記1名の受賞が決定しました.

木村大毅さん:「エンタープライズ向けAIの学習方式に関する研究開発」
 木村さんの受賞の対象は,エンタープライズを対象としたAIの新しい学習方式です.AIでよく用いられるディープラーニングは性能はいいものの大量のデータが学習に必要であることや,結果に対する説明がないなども問題点があります.そこでディープラーニングと従来の記号推論のAIを組み合わせたニューロシンボリックAIが考えられています.木村さんの提案した新しいニューロシンボリックAIは従来のニューロシンボリックAIと比較して効率がよく,学習も用意で説明能力が高いという優れた特徴を持っています.木村さんはさまざまな領域にこの手法を応用して大きな成果をあげています.

 「情報処理」note(https://note.com/ipsj)にある木村さん自身の記事では本人の立場から研究内容が詳しく述べられています.

 日本国内の大学と公的研究機関に所属する研究者を対象としている「マイクロソフト情報学研究賞」に対してこの「情報処理技術研究開発賞」では今回の受賞がそうであるように,企業における技術・製品等の開発や社会貢献を積極的に評価しています.本賞を通してこれからも情報学の分野で国際的に活躍する企業所属の優秀な若手研究者を応援してまいりますので,企業からの積極的な応募をお願い申し上げます.

(2024年5月26日受付)
(2024年7月16日note公開)