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報道の現場を変えたプログラミングスキル

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三輪 誠司(NHK解説委員)

 2021年の8月,Webサービスの「note」に「記者に『プログラミングのスキル』って必要なの?ちなみにNHKニュースの画像生成も記者がコードを書いてます」という記事を書きました(https://note.com/nhk_syuzai/n/n9ccbd599da50).普段の仕事では「お年寄りや子どもにも分かりやすい原稿」を心がけているのですが,今回はあえて技術用語も入れようということで,表現をデフォルメせずに書きました.

 記事の内容は,自分が「新型コロナウイルス感染者の全国地図」など複数の業務改善ツールを開発していること,プログラミングは,取材知識として学んだこと,そして「内製」に挑戦する意義などです.この記事に対しては,多くのエンジニアの方から反響がありました.その多くは「自分もこのような開発をしたい」とか「DXはこうあるべき」など,非常に好意的なものでした.

 ユーザ企業の中では,自分の手を動かしてモノを作ることが評価されないと感じていたときだったので,自分と同じマインドを持っている方が多いことを実感でき,とても嬉しい気持ちになりました.

 ユーザ企業にはITとは別の「本来業務」があります.しかし今の時代,ITが苦手というのは自慢になりませんし,業務のつまずきになります.また「DX」が流行語になる中「デジタルで何を変革するべきか」は「何ができるのか」を知らないと想像もつきません.そう確信したことから,職場内でプログラミングの勉強会を開くことを決め,今は職員など数百人を対象に,初歩的なITスキルを伝えているところです.

 noteの記事にも書きましたが,自分はプログラミングを独学し,夜や土日には,エンジニアが集まる交流会に出かけ,情報収集しました.しかし,スキルは初級レベルにとどまっていると思います.

 それでも,自分にはプロのエンジニアよりも秀でていることがあると感じています.それは,報道を30年間やって身についた業務知識です.ITスキルは,それに付け加える特技の程度です.ただ,今はIDE(統合開発環境),フレームワーク,ローコードツールなどが進化し,初級レベルでも簡単なアプリを開発できます.一定の業務スキルがある人が使う内部ツールならば,全機能を作り込む必要もありません.現場が求める業務改善は何か,業務知識がある人だからピンポイントで考えることができるのです.

 プログラミングを含めたITスキルは,ユーザ企業では人事評価に結びつきにくいのですが,それは主役のスキルにはならないからだと思います.ただ,そのスキルは業務を変え,会社のサービスを変える力があります.命じられるまま働くのではなく,自らの手で環境を変革できるスキルなのです.

(「情報処理」2022年5月号掲載)

■三輪誠司
愛知県出身.北海道大学法学部卒業.1991年NHK入局.報道局科学・文化部でITの専門記者となり,2014年より解説委員(担当はIT・DX・個人情報).開発で主に使うプログラミング言語はJavaとRuby.趣味はマジックと水泳.

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