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Lee Organick et al : Random Access in Large-Scale DNA Data Storage

Nature Biotechnology, Vol.36, pp.242-248(2018)

阪本哲郎(東京工業大学)
瀧ノ上正浩(東京工業大学)

※本記事のPDFは情報処理学会電子図書館に掲載されており、情報処理学会会員は無料で閲覧できます。(http://id.nii.ac.jp/1001/00204814/

遺伝子だけではないDNA

 DNA は我々生物の細胞の中に存在し,遺伝情報を担っていることは皆さんご存知の通りである.しかし,遺伝子とはまったく無関係に,DNAをマテリアルとして,さらには情報処理媒体として利用しようと考えている人々がいることをご存知だろうか.計算機科学者Adleman(RSA 暗号の開発者の一人)によるDNA 分子を用いたハミルトン閉路問題を解く並列計算の研究(DNA コンピューティング)や,DNA オリガミといったDNA ナノテクノロジーの研究など,DNA が「情報を持った分子である」という特徴を巧みに用いた斬新な研究が多くなされてきている1),2).

 そして今日,DNA は情報の長期記憶媒体(ストレージ)としても注目され始めている.本来,DNA は生物の持つ膨大な遺伝情報を記憶するメディアであり,ストレージとしての利用を考えるのは当然といえば当然である.実際,DNA は非常に安定な分子であり,永久凍土から回収された70 万年前のウマの骨からDNA を取り出し,全ゲノムの解析に成功した事例もある.さらに注目すべき点はその情報密度である.仮に1 塩基2 ビット換算をすると,1 グラムのDNA分子で230 エクサバイト(230× 106 テラバイト)の容量がある.もちろん,冗長性を持たせる必要やその他の技術的制約から実際にはこの値よりも小さくなるが,それでもメディアとしての可能性を秘めていることは想像にかたくない.

DNA ストレージの基本的なアイディア

 まず,一般的なDNA ストレージがどのような原理で動作するか説明する.DNA ストレージであってもその動作の流れはHDD などの通常のストレージと同じであり,符号化,書き込み,読み出し,復号化の4 段階に分けて考えることができる(図-1(a)).

図a

図-1(a)DNA ストレージの仕組み

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