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エフェメラルなアートから, サスティナブルなアートへ

藤川

藤川靖彦(一般社団法人花絵文化協会 代表理事/花絵師)

 400年の歴史を誇る,イタリア発祥のフラワーアート インフィオラータ.

 街を“キャンバス”に,さまざまな花びらや自然の素材を“絵具”として,繊細な描写から広範囲な色彩まで,多彩なテクニックを駆使して描きます.しかしこのアートのつくり手は,市民参加者なのです.

 2000年6月,イタリアのGenzano市で,教会へと続く250メートルの坂道一面に描かれたインフィオラータを初めて目にしました.細かい描写までもが花びらで再現され,すべて街の人たちによる“手づくり”作品! このアートを日本でやりたいと心に決め帰国しました.

 当時,2001年4月に開業を予定していた晴海トリトンスクエアの開業プロデュースを担当しており,新しく生まれる街のブランドとなる文化イベントをつくりたいと考えていました.新旧の住民やオフィスワーカーたちが一緒につくるインフィオラータは,まさに晴海トリトンスクエアならではの文化イベントになると確信していました.

 2001年10月,Genzano市にもご協力をいただき,日本で初めてのインフィオラータが晴海で開催されました.あれから21年,インフィオラータという日本の花絵文化は,国内のみならず世界各地に広がり,これまでに350を超える会場で行われてきました.まだまだ21年と歴史は浅い日本ですが,開催実績350というのは,世界一と言っても過言ではありません.そんな日本が世界から注目されているのは,伝統や宗教,風習に縛られず,常に新しい手法や作品をつくりだしていることです.生花を使い,人の手によってつくりだされるインフィオラータは,究極のアナログなアートです.完成した作品のクオリティだけではなく,その“場”で生まれる“会話”や“協働”といったコミュニケーションも作品の大切な要素です.これこそがデジタルアートにはない最大の魅力だと考えます.しかしアナログとデジタルのコラボレーションには大きな可能性があり,少しずつチャレンジを始めています.インフィオラータは”静”なる作品であり,これにプロジェクションマッピングやARを加えることで,動きのある作品として表現することが可能になります.また今後はホログラフィ技術の進歩により,たとえば花絵で描かれた歌舞伎役者が立体的に浮かび上がり,作品の上を舞うことも可能になるでしょう.伝統や風習を頑なに守るだけではなく,時代をつまみ食いしながら,常に脱皮し進化していく.これからの時代,そんな柔軟さが必要になってくるのではないでしょうか.アナログなアートから脱皮し続ける,これこそが日本オリジナルだと自負しています.

 今,作品で使用した花材は,再資源化を行い再生紙による「お花のスケッチブック」として生まれ変わります.エフェメラルなアートから,サスティナブルなアートへ.限りある命のアートと呼ばれてきたインフィオラータは,持続可能なアートへと進化しています.

 これからもたくさんの人たちと,花でサスティナブルな未来を描いていきたいと思います.

藤川-写真2

写真:イタリア発祥のフラワーアート「インフィオラータ」(撮影:著者)

(「情報処理」2022年6月号掲載)

■ 藤川靖彦
大地をキャンバスに花びらで描く花絵「インフィオラータ」の日本の第一人者.世界各地で歌舞伎絵を花で再現する「花歌舞伎」を創作する.2015年,スペインでの創作を,毎日放送「情熱大陸」が密着取材.InterFM897にて番組DJとしても活動.