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IPPUDO Singaporeで「梅酒祭」、 世界がまだ知らない“ジャパニーズクオリティ”を届けるには。

こんにちは、一風堂note編集部です。私たち一風堂は、2021年現在、世界15カ国・地域にて営業しています。一風堂は、世界においしいラーメンをお届けすることが最大のミッション。そしてさらに世界へ日本食や日本の文化を広めることに少しでも貢献出来たらと考えています。
 今回のnoteは、2021年秋に一風堂シンガポールで実施された「梅酒祭」についてをご紹介。一風堂と一緒にイベントを開催した、日本のコンテンツを世界に発信するお手伝いをしている「DOU CREATIONS PTE. LTD.(ドウ クリエイション)」代表・吉地 大(きちじ だい)さんと、一風堂アジア事業部の統括者・藤井 是輔(ふじい だいすけ)の対談をシンガポールからお届け。「Japanese contents(ジャパニーズコンテンツ)」にまつわる、ちょっとだけビジネス寄りのお話です。

対談者プロフィール

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吉地 大(きちじ だい)48歳:
https://doucreations.com
39歳でシンガポールに駐在員として赴任。2017年、44歳で独立し起業。DOU CREATIONS PTE. LTD.(本社シンガポール)はASEAN地域での事業戦略、商品戦略、マーケティング領域のコンサルティングを軸に日本から世界進出する会社を支援している。大阪を拠点とする「株式会社 梅酒屋」のシンガポール展開に2019年12月より携わり、当地での顧客拡大、販路創出を目指し、お客様が直接触れられるイベントを行う。2021年8月には、シンガポール高島屋内地下一階に期間限定ストアを出店。
藤井 是輔(ふじい だいすけ)43歳:力の源グローバルホールディングス取締役アジア事業本部長。2010年入社。同社国内営業本部にて国内店舗の運営の後、経営管理本部において経営管理業務、IPOプロジェクト等に従事。2018年より海外事業に配属、2019年渡星。現在はシンガポールからアジアオセアニアの直営4カ国、ライセンス7カ国・地域の一風堂の運営を担当。

シンガポールで「梅酒祭」

_一風堂シンガポールで行った「梅酒」のイベントについて教えていただけますか?

藤井:2021年9月21日~23日の三日間、一風堂シンガポールのSHAWCENTER店(ショーセンター)にて、「梅酒祭」を開催しました。
  一風堂シンガポールでは2020年より月ごとに「日本酒」イベントを定期開催しています。日本酒を飲みくらべできて、現地では手に入りづらい食材をつかったおつまみと一緒に、お手頃価格で提供して、料理とお酒のマリアージュを楽しんでいただいています。毎回楽しみに来て下さるお客様もいて、効果を感じてはいました。ですが、毎月開催ですので、もっと新しく、もっと楽しく、もっとおもしろくできないかと新しいネタを常に探しておりました。そこで吉地さんと出会いまして。

吉地:私たちは日本でもめずらしい希少な梅酒をシンガポールで販売していますが、「梅酒」はシンガポールで認知がない状態なんですね。「ああ、これ梅酒ね」とならず、「梅酒って何?」から始まります。
 商品の紹介時に「これは日本のワイン(果実酒)のようなものだ」と説明すると「おお~、なるほど」と興味を持っていただけるのですが、事実としてワインではありませんよね。広めていく中で、理解いただくまでの壁を感じていて、「実際に飲んで体験していただきたい」「どこか場所はないだろうか」と。コロナの影響で催事などでの試飲が規制によって禁止になってしまって…。何か新しい手法がないか模索していたところで藤井さんとお会いしました。

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_なるほど、まずは「梅酒」の知名度を上げる、そしてシンガポールで普及していく。もしかしたら、これは、一風堂がラーメンを届けたいと世界進出したときに近い状態かもしれませんね。

藤井:はい、10年前に一風堂が「ラーメン」を持って世界に進出したときに似ています。私たちは、「日本のラーメンは世界の麺文化のどれとも違っていて、世界に広める価値がある。そこにはビジネスチャンスがある。」と考えていました。
 進出した当時のシンガポールでは、ラーメンとは「中華料理の中にある麺料理」や「地元の麺料理」です。「日本の、日本文化でのラーメン。そして一風堂のラーメンはこういうものだ」と理解していただくための高い壁がありました。本当に難しくて。まず「白く濁ったスープ、これは何だ?」の驚きから始まりましたので。
 シンガポールでは、日本のように、カウンターに座って一人でさっとラーメンを食べる、お酒を飲んで最後に締めのラーメンを食べる文化がほぼありません。進出当初は、ご家族やお友達などグループで来店できるようにテーブルを広くしてみたり、ディナーにご利用いただけるようサイドメニューも充実させたりして、ラーメンを食べていただく環境作りから始めました。そして、「日本」の、「九州」の、「豚骨スープ」である「一風堂のラーメン」を紹介しました。ローカルの麺料理との差別化を保つこと、それも重要なテーマでしたから。いまでも、日々の一杯に向き合っています。

吉地:私も日本から離れて海外に暫くおりますが、シンガポールに関わらず、日本食レストランが日本の味を海外で保ち続けることはなかなか難しいと感じています。
 どうしても、その地域の人が思う「日本食」へのローカライズが始まりやすく、本来届けたい日本発の日本食とは離れていってしまいます。お客さまは現地の方ですし、シェフも現地の方が増えていきますからね。ローカライズが進むと、日本人が来店したときに、「あれ?これは日本食とは違うなあ。」とずれてきます。一方で現地のお客さまも、常に日本らしい日本食を求めていて・・・。
 日本食ビジネスを続けていくには、日本人にも、現地のお客さまにも満足いただける微妙なバランスが必要であって、そこをうまくコントロールされているところが一風堂さんへの信頼なのだと思います。

_当日のイベントでは、どのように「梅酒」を提供したのですか?

吉地:まずは弊社で取り扱いのある、日本全国から集めた個性豊かな梅酒を27種類ほどボトルで用意しました。それらをずらっと一風堂さんの店のカウンターテーブルに並べて、「知らないお酒だけど、日本ではこんなに種類があるものなのか」と思っていただけるように演出をしました。そして梅酒が日本で定番の飲み物であること、そして、よく知られている日本酒と同じかそれ以上に種類や味の幅があることを紹介しながら、お酒を体験いただく演出をしました。

当日の梅酒リスト

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吉地:お客さまへの梅酒の提供方法は、3種類を飲み比べるスタイルにしました。梅酒を3つ選んでいただき、ワイングラスに注いてセットで販売します。一風堂の皆さんと、「こうしたほうがもっと楽しん頂けるのではないか」と調整しながら準備をいたしました。
 日本でも、レストランで好きな梅酒を30種類から選んで飲めるイベントが開催されるなんて、かなり珍しいですよね。一風堂さんとの協力もあって、皆さまへリーズナブルな値段でご提供できました。

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吉地:「日本食」や「日本のお酒」など日本の食材への注目・信頼・期待・関心の高さでしょうか。一般に、シンガポールのお客さまは「日本の物を試してみたい」という興味関心がすごく高いです。当日の反応も良く、イベントを知らずにたまたまお店に来店したお客さまも、はじけるような笑顔で梅酒を購入いただけました。一部のお客さまは、両手に5本~6本とかをお買い上げいただけて、私自身も反響に改めてびっくりしました。

藤井:シンガポールでは、レストランであまり飲酒はしないという客層がそれなりに多い印象ありますね。酒税も高いですし、お店で飲んだら結構高くつく(笑)…。きっと、お持ち帰りやプレゼントの需要もあったのでしょう。

吉地:一般的には、梅酒の香りを保つために、ボトルを開けたら飲み切ってしまうのが理想です。ご自宅で少しずつ飲まれる方には、今回の商品の中で、開封後も比較的長く楽しめるウィスキーやブランデーベースの梅酒をお勧めしています。たくさんの種類の梅酒を集め、お店で料理とゆっくり梅酒の説明も含めた、おしゃべりをしていただきながら、梅酒を飲んで頂けたことで、このような販売成果につながったと思っています。

_レストランでボトルを複数購入されるのですね!やはり日本の食への期待感が高いのでしょうか。

藤井:シンガポールにおいては、食に関しては、国土も狭く、自国での食品の生産はほとんどできない。つまり食料は「輸入メインの国」なんですよね。そして経済力も近年は世界トップクラス。なので、この国には、国外からでも「いい物を探しだす層」が形成されてきています。その中で、工業製品で信頼を得た高品質の"Japanese Quality(ジャパニーズクオリティ)"が食の分野にも存在することを、理解してくれる人たちがたくさん存在していると思います。

吉地:そうですね。まず日本の生産品へのリスペクトがベースにあると思います。また、これまでは、日本に旅行にでかけていた富裕層が、コロナ禍で旅行に行けなくなってしまって、シンガポールで各国や日本の良いものを探していたりします。そして、最近は、富裕層だけではなくて一般の人たちにもその楽しみ方が広がってきていると感じます。
 元々、日本の商品への期待度がかなり高いので、梅酒は飲んで体験いただくと、ぐっと購入度合いが変わります。冒頭でお話ししたラーメンについてもそうですが、日本で認知がある商品でも、海外の方にとっては、初めてとなることがほとんどです。ビジネスとして展開していくために、日本の良さと商品の成り立ちをしっかりストーリー立てて伝えながら、販売につなげていくことが課題です。
 認知を広げることへの難しさはもちろんありますが、やりがいと楽しさは抜群です。コロナ禍でもあり、今は難しい時期が続きますが、商品の良さをより知っていただくために、今後の試飲会の際には、酒蔵さんや生産者の方と一緒にイベントが開催出来たらと考えています。出来上がるまでのストーリーに関心を持つ方も、今のシンガポールにはかなりいらっしゃいます。これからも”Japanese Quality”への好奇心を満たしつつ、お客さまの手元に届くまでのストーリーを伝えていきたいです。

イベントができたきっかけ。吉地さんと一風堂の出会いとは。

_吉地さんと一風堂の出会いはいつだったのでしょうか?

吉地:私が前職に日本で仕事をしていたころ、日本各地を出張で巡業するようなことが多々ありました。実は1998年ごろは福岡に出張に行くたびに「一風堂」の本店に行っていて(笑)。そのために近くのホテルに泊まってと、かなりのファンでした。
 その後、シンガポールに駐在となってからも、一風堂さんには、ランチや締めの一杯として頻繁にお邪魔していました。今回の梅酒イベントが開催できたのは、いろんな偶然が重なったからかもしれません。私も、本来は仕事の性質上、アジア各地を転々とすることが多くてシンガポールに滞在している時間はあまり多くありませんでした。今回、コロナ発生によるロックダウンによって、海外渡航が難しくなり、シンガポール国内から動けなくなりました。そのため、シンガポール国内でできる仕事の時間が増えました。そのなかの一つで、ビジネスセミナーの講師をさせていただいた際に、藤井さんと出会いまして。そこから、この梅酒イベントの実施につながることになりました。

藤井:もし、コロナのロックダウンがなかったら、お互い出会えなかったかもしれないですね。僕もロックダウンになる前はシンガポール以外の国を行き来することが多かったですから。

_梅酒のイベントをなぜ一風堂で行おうと思ったのでしょうか?

吉地:以前に、ワインバーでの提供も試しましたが、ワインバーに来店されるお客さまには、ワインとの差別化の説明が難しいなと感じていました。ワインを飲みにいらした方々なので試飲量にも限界があります。「もっと梅酒の普及に適した場所はないかな?」と考えていたのです。
 そんな時に、藤井さんから「一風堂で日本酒イベントを行っている」「梅酒も面白いのでは?」とお声がけいただいて、ワインバーより梅酒の本領が発揮できるフードとのコラボができるカジュアルな場所であること。一風堂のローカルのお客さまにも、目新しいお酒を楽しんでいただける機会が作れること。更には、一風堂さんには、ずらっと一列でボトルをおけるテーブルをお持ちだとのことで、最適な場所かもしれないと思いました。そんなお店って、実はありそうで、なかなかなくて。

藤井:こちらこそおかげさまで、大成功のイベントになりました。予想以上に予約もいただけて、お客様にとても楽しんでいただけました。いつもの日本酒のイベントに比べると、女性のお客さまの反応が良かったと思います。これは女性のほうが梅酒を好む傾向があるのでしょうか。そこは日本と一緒で面白いと感じました。

吉地:そうですね。男性は、どちらかというと、ウィスキーやブランデーベースの甘さ控えめのものを選ばれる傾向が強かった。このような梅酒を紹介できたのも、3種類を比べてティスティングできるイベントだったからこそ、わかったことかもしれませんね。

_今後、このイベントの次の計画はあるのでしょうか?

藤井:お客様からの反応が良かったので、次の企画も考えたいですね。今回は、ショーセンターのお店ですが、コロナによる飲食店の入場者数制限が緩和されたら、例えばマリーナベイサンズとかラッフルシティーなどの、前回よりも広いお店で開催することもできるかと思います。もっと多くのお客さまに、一風堂の店舗から日本の文化の一つである梅酒を紹介することができると思いますし、より日本食の魅力が伝わっていくことは、お店をする上でとても意義ある活動だと思っています。
(※2021年11月時点シンガポールでは、COVID-19の規制として、レストランは1グループ2名までの入場制限)

IPPUDO Raffles City

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吉地:お店で常設での販売や、定期開催などが見込めるようになれば、もっといろんな種類の梅酒をシンガポールの方に紹介できますね。梅酒は、製法に加え、ベースとなるお酒の種類によっても味が変わるので、やりがいがありますね。柚子とか、桃の果実酒も紹介していきたいですね。

藤井:楽しそうですね。でも、30種類のボトルの封をきると、どうしても、一部のボトルは使いきれないので…!吉地さん、どうか売り切っていただいて!よろしくお願いします(笑)

IPPUDO Singaporeのこれから

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_今後のお二人のシンガポールのビジネス展望についてもお伺いしていいですか?

藤井:一風堂としては、今後もこのような取り組みを続けながら、出店を進めていきたいと思っています。シンガポールでも一風堂の新規出店の計画はあります。このようなイベントも開催できるような、日本酒や梅酒を50から100種類くらい展示できるコンセプトのお店にすることも考えたいですね。
一風堂が、シンガポール及びアジアに進出して、10年が過ぎようとしています。店舗数も、シンガポール単独で10店舗を越え、アジア全体では100店舗まで拡大してきています。
 一風堂が、ここまでたどり着けたのは、私たちだけの力ではなく、「日本文化」という支えが強くあり、かつシンガポール、アジアの皆様にご支援していただいたおかげだと思っています。10年を振り返ると、そして今後を考えても、一風堂が発信源となって日本・日本文化ファンを今後も増やしていくために活動することが、我々のビジネスに限らない大切で意義あることと私は感じています。一風堂は、これからも、主軸は「とんこつラーメン」であることに変わりはありませんが、日本、日本文化を紹介し、日本の産業の拡大や、日本とシンガポール、そしてアジアの文化の交流にも貢献出来たら、それはとても素晴らしいことなのではないかと。まだまだ微力ではありますが、想いは大きく(笑)!

吉地:日本の商品は、国内市場が豊かすぎるがゆえに海外にまで手が届いていないものがまだまだたくさんあると感じています。それらひとつひとつを丁寧に海外の方に伝わる形に落とし込み、広めていくにはたくさんの時間と労力がかかると思っていますが、それをやるのが自分のライフワークだと。 ほんとにたくさんの商品や、サービスが世の中にはあるので、やり切ることはきっとないと思います。また日本のアニメコンテンツや映画、ゲームなどの海外展開も弊社の独自領域として強化していきたいと思っています。最近は勢いのある作品が多いのでここも楽しみにしていてください。日本にいけない現状だからこそ、「日本」の今を伝えることが少しでも出来たら嬉しい限りですね。

藤井:全てがうまくいったら…。次はジャカルタはじめ、各国へ広げましょうかね!
吉地:望むところですね。

_吉地さん、藤井さん、ありがとうございました!

一風堂シンガポールの最新情報はInstagramからご確認いただけます。
https://www.instagram.com/ippudosg/


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