ションベンピアノ
⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を五段階で評価しています)
最近、
Netflixで
『凶悪』という映画を見た。
山田孝之さん主演で
ピエール瀧さん演じる獄中の死刑囚が
事件の真相を告発し、
新たなる首謀者の存在が明らかになるまでの
様子を過激かつ鮮明に描いたヒット作である。
この作品では
「告発」
というのが一つのテーマになっている。
見終わって1週間ほど経ち、
僕も1つ告発をしてみたくなった。
これは3年ほど前の話である。
僕はその頃、
大学の落語研究会
に所属していた。
その活動の一環として
賛助というものがある。
簡単にいうと余興のようなものだ。
老人ホームや
敬老会、
小学校などに呼ばれ
その場で落語を披露する。
終わった後
一緒にご飯を食べたり
話を聞かれたり
多い人は
年間50回ほどこれに行く。
基本的にボランティアだ。
その日も
ある場所で落語をするため
会場に向かっていた。
今回は少し特殊な形の余興で
場所は○島
かなりの遠出だ。
(特定されるのが怖いので伏せ字にしています。)
僕と
僕の大学の同期(男)
それから他大学の同期(女)
そしてこの余興を取り仕切るおじさん
4人で
おじさんの車に乗り
○島へと向かう。
結構時間がかかった。
会場に着く。
地方の公民館のような場所だった。
のどかな町だ
空気が澄んでいる。
控室に入ると
お弁当が用意されていた。
このように賛助は
ボランティアと銘打っているため
お礼にご飯が用意されていたり
個人的な投げ銭があったりする。
弁当の蓋を開けると
中身は非常にシンプルなものだった。
白米と唐揚げ、卵焼き
以上
僕は好き嫌いが多い。
弁当なんて
こんなのでいいのだ。
シンプルイズベスト
普通の弁当は
余計なものが多すぎる。
「ここの弁当はね、
おにぎりが美味しいで有名なんだよ」
公民館の職員さんだろうか、
今回の企画に確実に携わっている
おじさんが言った。
おにぎりが美味しいで有名?
まあまあ
美味しいおにぎりは
仰山あるけど
それで有名なるとかあるか?
おにぎりだけでは
流石に厳しいやろ
米握ってるだけなんやから
疑いながら一口
美味い。
美味いのだこれが。
他のおにぎりとは
一線を画している。
他を圧倒し
一切追随を許さない旨さ
思わず唐揚げを一口
美味い
卵焼きを一口
美味い
「これ、めちゃくちゃ美味しいですね!」
「やろ?
余ってるからいっぱい食べ!」
たまにあるのだ。
僕たちのような
学生落語家のために
テレビ局くらい良い弁当を大量に用意してくれる
最高の賛助先が
ここもそうだ。
最高だ。
弁当の美味しさに浸りつつ
同期たちと談笑していると
おじさん達のある会話が聞こえてきた。
「〇〇さん到着しました。」
それはあるプロの落語家さんの
到着を告げるものだった。
賛助にはごく稀に
僕たち学生とプロを
ごちゃ混ぜにして行われるものがある。
意図はわからないが
ギャラの節約か
学生に刺激を与えようとしてくれているのか
まあ多分理由は様々だ
あまり大きい声では言えないが
プロの方達にとっては
闇営業のような形態の時もある。
(僕たちにとっては関係ない)
プロの方と一緒になるのは結構緊張する。
いくら学生間で
うまいうまいと言われていても
プロから見れば
大したことないという
評価を受けることも多々あるからだ。
気合いを入れ直す。
その日のプログラムは
①他大学の同期
②僕
③大学の同期
④プロの方
という順番だった。
時間になり
皆で袖に待機する。
大きな舞台の袖には
大きなグランドピアノがあり
その横で小さく座って
僕は自らの出番を待った。
演者4人の他に
プロの方のマネージャーだろうか
お付きの人がいた。
僕の母くらいの年齢の女性だった。
ということは
これは正規の営業なのだろう。
落語会がはじまる。
トップバッターは他大学の同期
お客さんが少なく、
反応は決して良くない。
続いて僕
割と鉄板のネタをかけたが
あまり反応が良くなかった。
あーあかんわこれ
今日誰もウケへん
パターンや。
余興は
ほぼ毎回はじめての場所でやることになる。
となると
主催者は良かれと思って呼んでいるが
お客さんは落語に全く興味がない
というパターンが少なからず訪れるのだ。
まあまあ、せっかくここまで来たし
ええ飯でも食って帰ろ
僕は完全に一仕事終わった気持ちでいた。
僕の同期が舞台上で暴れ回り、
頑張っている。
彼は僕の同期の中でも屈指の実力者だった。
その彼が舞台上で必死になっているにも関わらず
ほぼ反応がないのが
物悲しかった。
あいつは偉いなぁ。
賛助はあくまでボランティア
僕なら
あそこまで頑張れないかもしれない。
まあ弁当美味しかったから頑張ったけど。
しばらく同期の様子を眺めていると
プロの落語家さんが
口を開いた。
「おしっこ行きたいなぁ」
え?
急になんや。
「おしっこ行きたい」
なんで2回言うねん
しかも女性の前で
お付きの方は
よく一緒にいるのでまだ許されるかもしれないが
もう1人は女子大生だ。
ほぼ完全にセクハラだ。
「我慢できへん」
我慢せえよ。
同期の落語が
オチ3分前くらいに差し掛かった。
今からトイレ行ってもギリギリやろなぁ。
「我慢してくださいよ」と
言うわけにもいかないので
他大学の同期の女の子と
なるべく目が合わないように
僕は沈黙を貫いた。
「わかりました」
女性マネージャーが
当たり前のように一言いうと
鞄の中から
空のペットボトルを取り出した。
え え え
何するつもり?
「おーありがとう」
落語家はそれを受け取ると
ジョボジョボという音を立てながら
ペットボトルの中におしっこをしはじめた。
おいおいおいおい
何してんねん!
それはさすがにあかんやろ!
ジョボジョボ…ジョ…ポツ
「安心せえ、ワシが園長の野田や」
(オチのセリフ)
同期の落語が終わり、
出囃子が流れる。
おいおい!
何俺の同期の落語のオチと同時に
おしっこ終わっとんねん
落語家が意気揚々と舞台に出る。
そら気持ちいいでしょうな!
僕の
頭の中の僕のツッコミが止まらなかった。
先行っとけよ
落語家が高座に上がると
噺がはじまった。
落語会のトリの落語は
だいたい長い。
我慢できないのはわかる。
本当に我慢できなかったのだろう
しかし
その状況になることは
容易に予想できただろう。
マネージャーもマネージャーだ。
あの様子だと
相当手慣れている。
注意はしないのだろうか。
マネージャーの方を見る。
ペットボトルの蓋をきつく閉め
それをそのまま
グランドピアノの鍵盤と
椅子の間に立てかけた。
えーーーーーーーーーーーー
何してんのそれ
置き場所それであってる?
ピアニスト見たらどう思う?
今考えても
これほど刺激的で
過激な賛助はなかった。
今後もどんどん楽しく面白い記事書けるよう頑張ります! よければサポートお願いします😊