FM 5-0 序論(1)

序論

 陸軍は、複雑、不確実かつ変化し続けることを特徴とする作戦環境において、フルスペクトラムオペレーションを指揮する。作戦中、指揮官は敵について考え、民間人の理解を変化させたり、一つの作戦地域において異なる組織が対立する等の状況に直面する。敵や市民がどう行動し、反応するのか、どのように事象が発展するのか、指揮官が確実に予測することは出来ない。作戦を成功に導くために、リーダーは作戦を通じて構築し、維持し、状況判断から学ぶことが求められる。リーダーは敵方よりも良く予期し、学び、適用し、状況の変化が有利となるよう管理しなければならない。

 このマニュアルでは、幕僚、下級指揮官、その他軍人もしくは民間協力者により支えられた指揮官が、フルスペクトラムオペレーションの指揮においてどのように指揮及び統制(Command and Control)を実行するのかということについて記述する。指揮官は図-1に示すとおり実行(Executing)と、作戦の進捗に伴う継続的な評価(Assessing)といった指揮及び統制における主要な諸活動により構成される。このとき、戦闘指揮は作戦プロセスの中央に位置する。

 FM 3-0 に記載されている作戦の原則に加えて、FM 5-0 において下記の6つの原則を規定する。

戦闘指揮において、作戦プロセスを実行する指揮官

 幕僚(スタッフ:staffs)は、作戦において戦果を拡大する極めて重要な機能を担うと共に、指揮官は戦闘指揮を通じて作戦プロセスにおける中心的な役割を担う。戦闘指揮は、任務を達成するために、作戦を理解し、見通しを立て、説明し、任務を達成する指揮、先導および評価するアートおよびサイエンスである。戦闘指揮におけるすべての行動は、計画、準備、実行および評価に基づくが、作戦プロセスにおいて決まった形式は無い。

状況の理解は、効果的な指揮及び統制を行う上での原則である

幕僚、上級司令部、下級指揮官、軍事または民間協力者により支えられた指揮官は、作戦プロセスを通じて彼らの意思決定を促進するために、状況を理解し、継続することに努める。状況の理解とは、適切な情報及び知識に対し分析および判断を適用することによる成果物である。状況の理解は、指揮官が状況の背景を理解し、効果的な計画を策定し、作戦を評価し、実行における高次の判断をする際に極めて重要となる。指揮官及び幕僚は、状況の理解を継続すると共に、状況の進展に伴う理解の不足を克服しなければならない。

作戦プロセスを通じた、理解及び意思決定における批判的かつ創造的援助

 指揮官が理解もしくは意思決定することを援助するために、指揮官もしくは幕僚は作戦プロセスを通じて批判的思考及び創造的思考法を適用する。批判的思考法(クリティカルシンキング)とはすなわち、目的志向、批判的、あるいは観察もしくは表現において意図および重要性を決心することにおいて自己規制判断の傾向のあることである。創造的思考法(クリエイティブシンキング)とはすなわち、思考において新しい、もしくは独自の発想をすることである。創造的思考法は、新しい見識、斬新なアプローチ、新鮮な視点を得る他、理解や思考において新しい視点をもたらす。

指揮官は、安定化もしくは市民に対する援助作戦において、攻勢もしくは守備作戦で敵部隊に戦力を集中するのと同じく、継続的に考察し、対象とする集団に対して戦力を集中もしくは組み合わせる

 軍事作戦は、武装した敵との戦闘以上に広範の定義を含む。戦闘に勝利し、契約を履行することは、民間人のおかれた状況をかたちづくる上で、長期的に重要な意味を持つ。なぜならば、指揮官は計画や実行において、民衆の安定化に寄与する行動、また敵に対する攻勢もしくは守備に関する行動について継続的に熟慮し、融合するからである。自国の安全保障のためには、指揮官は民間人の協力に関する作戦について注目する。

任務指揮は、指揮及び統制の行使に適した方法である

 なぜならば複雑、不確実かつ変化し続けるという作戦の本質のために、任務指揮(この反対の方法としては詳細指揮)は、指揮及び統制の行使に適した方法であるといえる。(FM 6-0 参照)。効果的な任務指揮に不可欠なことはすなわち、軍事的な指揮官の意図、相互の信頼、指揮官および下級指揮官の理解について精通している上での、任務指揮の行使である。任務指揮は作戦における順応性を育む。(陸軍指揮官及び部隊の質は、批判的思考法、多義性及び分散に対する受容性、慎重に捉えるべきリスクに対して前向きか否か、また、状況における継続的な評価に基づいて迅速に順応する能力を有するか、といった点に基づいて示される。)

継続的な評価は、組織学習や作戦指揮における順応を可能にする

 評価(Assessment)は、作戦プロセスや主要なフィードバックにおける継続的な活動であり、指揮官が全体について学習及び順応することを可能にする。計画は、指揮官がどのように状況が展開することを期待するのかという不完全な理解や想定に基づいている。継続的な評価は、作戦環境において計画の欠点及び短所や変化に対する弱点を、指揮官が理解するのに役立つ。それらの事実に基づいて、評価により指揮官の見通しとの間に微妙な差異が認められた時、指揮官は要求に従い計画の調整を行う。またそのようにして指揮官に独自の見通しとの間に重大な差異が認められた時、指揮官は問題を組み立て直し、要求に従い全く新しい計画を展開する。



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