【条項解説】 スタートアップの共同研究開発契約に競業避止義務条項は必要か?

共同開発や業務提携案件において、競業避止義務を盛り込むべきかが検討ポイントとしてあがる。条項集にもよく挙げられる。

しかし、雛形にある競業避止義務条項を盛り込んでしまったがために、契約管理コスト膨大となり、その後の弁護士費用が膨らんでしまった事例も相当数のあるのではなかろうか。例えば、

・競業避止義務を受けたがため、その後の新規案件の都度、競業避止義務の範囲を確認する必要が生じ、契約管理が煩雑になる(または色々な部署が競業避止義務を盛り込んだ契約を締結した結果、現時点における自社の競業避止義務を把握するのが極めて困難となってしまう)

・競業避止義務の範囲を外部弁護士に照会したところ、弁護士費用がかかったわりに「究極的には裁判してみないと答えはわからない」という回答しかない

・競業避止義務違反の検討には、独禁法観点からの検討も必要と言われて、弁護士費用だけがますます積み上がっていく等

経済産業省および特許庁による研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書の共同研究開発契約書v1.0(「モデル共同研究開発契約書」)は、競業避止義務を次のように規定する。

第13条 甲および乙は、本契約の期間中、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本素材を配合した樹脂組成物からなる自動車用のライトカバーを含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。

経済産業省および特許庁による研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書の共同研究開発契約書v1.0

→ 上記モデル条項によれば「本製品と同一または類似の製品」につき、「本研究以外に独自に研究開発」も「第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託」も禁止されることとなる。オープンイノベーションを志向しながらも、わりと古典的な条項がモデル条項として提示されている。しかも逐条解説によると、このような競業避止義務条項が必要な理由として「第三者に特許出願させないため」という。ほかに特許出願させないためだけに競業避止を受けることの必要性まであったのか、逐条解説はこのあたりについて説明はない。

→ 逐条解説には、類否の判断が難しいことから「類似」の範囲につき別紙での詳細化を提案している。しかし「同一または類似」の外縁はどこまで書いても不明瞭さが残る。その判断は最終的には裁判によることとなり、競業避止義務条項は契約書に盛り込むことは、紛争解決コストを増大させることを意味する。

→ しかもモデル共同研究開発契約では、期間の自動更新を前提としている。これでは競業避止義務の終期が把握できない。当事会社をどこまでも悩ませる条項構造となっている。

競業避止義務に頼るのではなく、協業相手が他に走らない(自社を裏切らない)ための仕組みを準備しておく必要がある。お互いに儲かっており、相手に対するネガティブな思考もないのであれば、わざわざ工数をかけて他に走るインセンティブが乏しい。とはいえ、良好な双方の関係に割って入ってくるような第三者が将来現れないとも限らない。その場合、当該第三者に対する対抗手段を準備しておくのが筋で競業避止義務条項に頼るのは心もとない。

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