【条項解説】 共同研究開発における費用負担条項

会社が複数集まりプロジェクトを遂行する以上、プロジェクト成果物(技術成果、知的財産権)に関する対価支払いとは別に費用負担、費用精算の取り決めが必要となる。費用負担については、認識の齟齬が生まれやすいため(負担してもらえると思っていた、そこまで負担するつもりはなかった)、契約締結時に契約条項において負担内容、精算メカニズムを明確にしておくべきである。

経済産業省および特許庁による研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書の共同研究開発契約書v1.0(「モデル共同研究開発契約書」)では、第5条が次の規定をおき、逐条解説にて次のように説明する。

第5条 乙は、本研究を行うにあたって生じた経費(甲が費消した研究開発にかかる実費および人件費を含む。)を、書面によって別途合意されない限り、全て負担しなければならない。

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→  上記モデル条項には、上限額の設定がないため、実務上そのまま採用することは難しいと思われる。
   会社規模の大小にかかわらず、自らのポケットマネーではなく会社のお金を取り扱う以上、プロジェクト参加に伴う支出額について、一定の上限を設定しておくことのほうが一般的である。逐条解説の「資金力の豊かな当事者が費用を負担するというケースも散見される」という記載自体は否定しないが、だからといって費用を負担する側が無尽蔵に支出することが合意される事案は多くないものと想像する。

→  実務的には、次のような修正が考えられる。
・ 「乙は、本研究を行うにあたって生じた経費(甲が費消した研究開発にかかる実費および人件費を含む。)を、月額○円を上限として、負担しなければならない。」
・ 「乙は、本研究を行うにあたって生じた経費(甲が費消した研究開発にかかる実費および人件費を含む。)のうち次の各号に該当するものを、全て負担しなければならない。【費用項目を具体的に列挙】」

スタートアップ に限らず技術提供者側においては、上記モデル条項のような一見なんでも請求できるようにみえて、いざ蓋を開けてみたら資金提供者側から「そんなものまで請求されるとは思ってもいなかった」と支払いを渋られ、場合によっては「思った協業パートナーではなかった」と提携関係解消の原因となりうるような条項に拠るべきではない。

むしろ、共同研究開発相手方の資金拠出を要する項目については、事前に当該項目を列挙したうえで、相手方の費用負担内容について明確に交渉しておく必要がある。提携後に発覚するより、交渉時点で支払いを渋られたほうが手の打ちようがあるからである。

また、とりわけ重要なものについては、相手方の費用負担義務としての構成に加え、技術提供者側が共同研究開発を遂行するための前提条件としておくことも一案である(条件が成就しない場合、技術提供者側の義務履行も免れるようにしておく、技術提供者側の解除トリガーとしておく)。

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