【条項解説】 共同研究開発相手方の倒産リスクと相手方特許権の処遇

共同研究開発案件において倒産相手方の知財権の処遇は、プロジェクトの座組み策定時に検討すべきポイントの一つである。とりわけスタートアップとの共同研究開発事案においては、資金繰りに窮したスタートアップ 側の特許権をはじめとした知的財産権の散逸を意識した契約条項を作成しておく必要がある。

経済産業省および特許庁による研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書の共同研究開発契約書v1.0(「モデル共同研究開発契約書」)では、第7条6項が次の規定をおき、逐条解説にて次のように説明する。

6 本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。ただし、甲が本契約14条〔原文ママ〕1項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、当該知的財産権を乙または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。 

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→ まず、「本契約14条1項2号および3号」は「本契約16条1項2号および3号」の誤字と思われる。【追記:現行版では16条に修正されている。】

→ 逐条解説は、通常実施権の当然対抗(特許法99条)につき「現時点では、判例の蓄積が存在しない。よって、差止請求権の不行使およびその対価という、通常実施権に関する主たる法律関係はともかく、独占特約、実施報告義務などの付随的な法律関係についてまで当然に対抗できるかどうかは、議論の余地がある。」と説明する。スタートアップの特許権が仮に第三者に移転したとしても当該特許権に基づく差止請求権の不行使はモデル共同研究開発契約書7条と特許法99条によって確保できていることから、スタートアップ 破綻時の必要最低限な処置がとれていることを逐条解説では強調されるべきである。

→ にもかかわらず、否認権が行使される可能性のあるモデル共同研究開発契約書7条6項につき、オプション条項ではなくモデル条項とした点は何か背景があったのだろうか。破綻時の特許権の無償譲渡請求権に依拠するぐらいなら、最初から必要な特許発明の権利帰属について事業会社側に帰属させておくことも明示できなかったのだろうか。
 本条の逐条解説がスタートアップ破綻時のリスクについて言及しながら、逐条解説が他所において(第5条逐条解説、以下抜粋)、“共同研究開発における特許発明は事業会社に帰属させずとも事業会社の事業戦略上支障はないはずである”としていることとも平仄があっていないように思える(スタートアップ破綻時に無償譲渡請求権を行使して否認されるぐらいなら、研究成果のうち必要な特許権については当初から事業会社に譲渡される処置をおいておかなければ事業会社の事業戦略に支障をきたす場面もあろう)。

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特許ライセンスの当然対抗は、各国で制度が異なり、この点については次のTweetおよびブログが実務的には参考になる。


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