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スタートアップの上場準備①~特許侵害調査(FTO調査)~

随分ご無沙汰となってしまいました。

上場準備中のスタートアップさんに関与させていただいた経験も溜まってきたので、上場準備にまつわるテーマで少しずつ筆を進められればと考えています。

スタートアップの上場準備シリーズの第1回は、他社の特許権侵害についての調査(FTO調査)です!

1.なぜFTO調査が上場準備と関係するのか

上場準備に入ったところ、または入るところで他社の特許権を侵害していないかどうかの調査をすることを検討し始めるスタートアップさんも少なくなく、具体的な特許権について侵害リスクの懸念がある場合には、知財弁護士の意見書を取ることも珍しいことではありません。

なぜ上場を見据えたタイミングでFTO調査に目が向くかというと、スタートアップの自社主要製品・サービスは、1または少数になることが多いところ、この1または少数の主要製品・サービスの製造販売等が他社の特許権を侵害するとなると、差止請求によりスタートアップのビジネスの大部分が止まってしまうリスクがあり、上場への大きな支障になりかねないためです。

例えば、マザーズの事前チェックリスト(9)において、「最近3年間及び申請期において、解決済み及び未解決の事件について、事件発生の経緯及び事件の内容等を説明してください。特に、特許、実用新案関係等のビジネスモデルに影響を与えると考えられる係争事件については、弁護士や弁理士の見解を踏まえたうえで説明してください。」と記載されているように 、上場準備期間中に、第三者から知的財産権を侵害することを理由に差止や損害賠償を求めて訴訟を提起されたり、警告を受けることは、上場との関係で極めてリスクの大きいことといえるでしょう。

2.スタートアップのFTO調査の問題点

しかし、スタートアップのFTO調査には、次のような問題点があります。

すなわち、リーンスタートアップを実践し、必要最小限度の機能でまず製品/サービスをローンチし、その後のユーザーのフィードバックを受けて製品/サービスを改良していく、というスタイルを採用する場合、最初のローンチ時と改良後の製品/サービスの構成が大きく異なる可能性があります。これを前提に考えると、ステージの若いスタートアップが、製品/サービスのローンチ前後において、国内だけでも100万円以上かかることも珍しくはない第三者の特許権の侵害調査をすることが費用対効果の面で必ずしも合理的な判断とはいいきれないでしょう。

3.FTO調査のタイミング及び内容

他方で、上述のように、他社の特許権を侵害していた場合の自社事業への影響力の大きさを考えると、どこかのタイミングで何らかのFTO調査をすることは避けられません。

では、いつ・どこまでやるべきかという点が問題になりますが、まず、FTO調査の実施を検討する場合に留意・検討すべき点として、例えば以下の点が挙げられます。

①製品リリースする国(国内のみか、海外も含むか)
②リリースする製品の数量・価格(大きいと侵害時の影響大)
③製品リリース後の設計変更の容易性(設計変更が困難であるとすると、リリース前のFTO調査の必要性が高い)
④費用対効果(予想される製品の売上や利益に見合ったものか否か)
⑤製品のライフサイクル(ライフサイクルが長ければFT調査の必要性が高い)
⑥特許が重視される業界か否か(例えば、創薬・バイオ・モノづくりなどの業界は特許への取り組みが積極的なので、FTO調査の必要性が高い)
⑦レピュテーションリスク(特にtoCビジネスにおいて、特許侵害の警告や訴訟を受けている事実が公になった場合にはレピュテーションリスク大⇒FTO調査の必要性が高い)
⑧その他特許権侵害を主張された場合の不利益等(e.g.,上場準備中)

そして、いつ調査すべきかという点について、一般論としては、以下の段階のいずれか又は複数回実施することが考えられます。

①市場調査段階
②新規事業・新製品の企画時
③製品開発初期段階
④製品の仕様が固まった段階
⑤製品の量産前段階
⑥製品の販売前段階
⑦製品の改良前段階
⑧第三者からの警告を受けた時、アライアンス先からの調査要求があった時等、その他FTO調査を行う必要に迫られた段階


また、いかなる調査を実行すべきかという点については、大きく分けて侵害予防調査(自社の製品・サービスの構成が第三者の特許権の権利の範囲内なのか否かの調査)と無効資料調査(自社が侵害する危険のある第三者の特許権の無効資料の調査)があります。

まず、これらの調査を行う際の留意・検討すべき点は以下のとおりです。

①解決すべき課題・調査目的を明確化する
②対象製品(第三者の権利侵害を回避したい自社の製品)の構成を特定し、自社の発明のポイントを把握しておく
③何を調査対象とし、何を調査対象にしないのか、という点の明確化
④非充足の調査と無効資料調査の双方のバランスを考える
⑤当該調査の目的に照らし、合理的と考えられる調査方法を策定し、その検討過程と調査方法・結果を記録しておく(合理的な調査プロセスを経たことの証拠化)
⑥実施国の特定(製造国・販売国)
⑦特許侵害訴訟の経験が豊富な者を関与させる(均等論を含む充足論の判断は難しい)
⑧外部専門家の意見書や鑑定書の要否

そして、侵害予防調査を行う際の留意点としては、例えば、以下のものが挙げられます。

①請求の範囲の記載の内容が重要であること(ただし、公開公報に注意)
②販売方法に特徴がある場合には、ビジネスモデル特許にも注意
③設計変更が難しい製品の本質的な構成に係る部分の特定
④特許侵害訴訟の経験が豊富な者を関与させる(均等論を含む充足論の判断は難しい)
⑤特に危険な競合事業者の有無(権利主体で調査範囲を絞ることは調査の漏れを発生させかねないので、調査を広く(厚く)する方向で考慮する)
⑥機能的な形状等について意匠権の侵害調査の必要性があるか否か
⑦パテントファミリー単位の調査の要否

また、無効資料調査を行う場合については、例えば以下の留意点が挙げられます。

①目的を明確化する(他社の特許の無効を主張するためなのか、自社の権利行使に自社特許の無効理由の有無を確認するためなのか)
②できるだけ早期に着手する(無効資料調査は相当の期間を要する場合が多い ∵国外の特許文献や、非特許文献等も調査対象となる)
③調査結果を踏まえ、どこまでのアクションをとる予定なのか(他社特許出願に対する情報提供、他社特許権について異議申立や無効審判の請求、侵害訴訟を提起された場合のカウンター用等)
④調査結果の資料について、公開日等が特定できるか否か(できない場合に何らかの形で特定できないか)(e.g., Wayback Machineの活用等)
⑤進歩性欠如の主張のために必要な資料を意識する(動機付けに関する情報・設計変更等や技術の寄せ集めにすぎないことを示す情報、技術常識や周知技術にあたることを示す情報等)


4.終わりに

以上、色々挙げてきましたが、留意すべきは、その主張の当否を措けば、特許権者が自社に警告や訴訟提起をすることを止めることはできないので、①「警告や訴訟を受けるリスクを0にするFTO調査は不可能であること」です。また、そうであるがゆえに、第三者から特許権侵害を理由に警告等を受けた際、そこまでの各フェーズごとに、スタートアップとしてやるべきことをやっていた(から仕方ないことなのだ)と説明できることが望ましいです。そのため、②「侵害警告等を受けるまでの間に、第三者の特許権侵害を回避するためにいかなる検討を行い、いかなる方策をとっていたのかという検討のプロセスを言語化・記録化しておくこと」も重要となります。

そのため、攻めのための知財戦略のディスカッションもかねて、定期的に知財にまつわる社内検討会やミーティングを開催し、その記録を残していくことも重要と言えるでしょう。

今回は簡単ですがこのくらいにさせていただきます。

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