マガジンのカバー画像

蛮族のためのアニメ月評

40
毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
運営しているクリエイター

#声優

映画『トラペジウム』におけるエゴイズムの再評価:客観的指標の不在と横溢する自意識の肯定

※本記事は映画『トラペジウム』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。 はじめに 究極的に、アイドルはエゴイストでなければならない。エゴイスト同士がぶつかり合い、しのぎを削るアリーナ、それこそがアイドルの世界である。この異種格闘技戦によって育まれるのが、多様性と呼ばれる水平的な散らばりである。その意味で、アイドルの世界は外界への準用の可能性を秘めている。  2024年5月10日に劇場公開されたアニメ映画『トラペジウム』は、高校生のアイドル活動の蹉跌を題材にとり、

『映画 窓ぎわのトットちゃん』短評:「新しい戦前」に響く大野りりあなの声

はじめに 2023年12月8日、テレビ朝日開局65周年記念作品として『映画 窓ぎわのトットちゃん』が封切られた。本作は女優・司会者・エッセイストの黒柳徹子が自身の小学校時代を回顧して著したエッセイ『窓ぎわのトットちゃん』(1981年)を原作としたアニメ映画である。黒柳の手になる原作は日本国内だけでシリーズ累計800万部を売り上げ、世界35か国で翻訳されている日本の戦後最大のベストセラー書籍であるが、黒柳はこの著作の映像化や舞台化のオファーを長らく断ってきたことで知られている

『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』における虚構と擬制の交錯:資本の自己増殖のキャラクター化から「お仕事アニメ」の欺瞞を考える

(2023年12月6日追記:エピグラフを追加しました。) ※本記事は『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  人間にとって働くことが良いことか、それとも悪いことかという話題は、繰り返し再燃しては鎮火する、消えない火種である。この話題は、ときに世代間ギャップの指摘や老害/若者相互の指弾に派生し、ときに資本主義批判とそれに対する反共思想のバックラッシュとして顕現し、ひいては雇われ人の悲哀を強調しつつ、そこから脱出する

『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』における惑星地球化の想像力について:大地への固執、技術への陶酔、歴史への対峙

※本記事はアニメ映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。  まずは、己の不明を恥じなければならない。TVアニメ『大雪海のカイナ』(2023年1月期)が完結編にあたる劇場版で大化けするとは、正直なところ思いも寄らなかった。本作は漫画家の弐瓶勉を原作者に迎え、ポリゴン・ピクチュアズ設立40周年記念作品として制作されたポスト・アポカリプス作品である。本作は文明が衰退し、雪海と呼ばれる白い堆積物に沈んだ惑星を舞台に、人類が軌道樹と呼ば

TVアニメ『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』について:現代の貴種流離譚における女性の排除

(2023年7月11日追記:過去に執筆した文章を読み返し、一部の表現に反省すべき箇所があったと判断したため、本文に修正を加えました。)  2023年3月に放送が終了したTVアニメ『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』は遅咲きの作品だった。物語が大きく動き、タイトルに掲げられた「スローなセカンドライフ」の真意が明らかになるには、第10話を待たなければならなかった。しかも、本作の描き出す「スローなセカンドライフ」は一般的にイメージされがちな「スローライフ」――

TVアニメ『アキバ冥途戦争』におけるアキバブームの刻印:メイドに関する偽史的想像力をどのように考えるべきか

※Twitterでの指摘を受けて、本稿の文末に追記を加えました。  2022年12月に放送が終了したTVアニメ『アキバ冥途戦争』は、加藤智大による無差別殺傷事件(2008年6月8日)を生むような秋葉原の都市構造の変容を前提とした、マッチポンプ的な作品だった。  本作は「萌えと暴力について」というキャッチコピーを引っ提げて、秋葉原でメイドとして働く女たちがヤクザ映画さながらの殺し合いを演じる様子を余すところなく描き出す。1999年の秋葉原を舞台に繰り広げられるのは、メイドカフ

『ONI ~ 神々山のおなり』が描く現代日本の差別と分断:馬場あき子『鬼の研究』に寄せて

はじめに 2022年10月21日に配信が開始されたNetflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』(英題は“ONI: Thunder God’s Tale”)は、神々山に住まう「神」と神々山を脅かす「ONI」との衝突を物語の主軸として、鬼にまつわるクリシェに現代的な再解釈を加えた全4話(計154分)の3DCGアニメーション作品である。本作は、神々山で暮らすおてんばな少女・おなりの成長を描きながら、人間の心に潜む恐怖が差別を生み出すことを洞察した労作と言える。  本作の舞

TVアニメ『恋愛フロップス』が示唆する美少女ゲームの帰趨:東浩紀『動物化するポストモダン』の再検討を通じて

はじめに 2022年12月に放送が終了したTVアニメ『恋愛フロップス』は、「お嫁さん候補」である5人の美少女から言い寄られるという多情な状況を下敷きにして、多層的に悪趣味な構成をとったオリジナルアニメであった。本作は、新味に欠ける「美少女ゲーム」的な布置のラブコメディが展開する前半部と作中の入れ子構造の種明かしを行う後半部に分かれているが、全体を通じて徹底的にお下劣な文芸と意匠で飾り立てられており、美少女ゲームの持つ猥雑さを視聴者に再認識させてくれる。  前半部では、「聖キク

TVアニメ『Engage Kiss』が描いた合意と形式の板挟み:悪魔との契約の変遷が指し示す信頼の行方

はじめに 2022年9月に放送が終了したTVアニメ『Engage Kiss』は、人間と悪魔との契約という古典的な題材を多角関係のラブコメディに落とし込み、相手を信頼することの難しさと尊さを巧みに描いた秀作であった。  本作の舞台となるベイロンシティは、次世代のクリーンエネルギー資源「オルゴニウム」の採掘と研究のために作られた、太平洋に浮かぶメガフロート型の都市である。どこの国にも属さず、自治権を有するこの街は、奇跡の鉱石「オルゴニウム」の恩恵によって、世界中の投資家・実業家・

TVアニメ『ビルディバイド』の健全なる人間讃歌:「春のとまりを知る人ぞなき」についての一解釈

はじめに 2021年10月期と2022年4月期に全24話が放送されたTVアニメ『ビルディバイド』は、実にいぶし銀のカードバトルアニメであった。  本作は株式会社アニプレックスが初めて手掛けるTCG×オリジナルアニメーションプロジェクト「ビルディバイド」の一環として制作・放送されたオリジナルTVアニメだ。本作では、ビルディバイドの強さがすべてを決する街・新京都を舞台に、新京都を統べる「王」と呼ばれる存在にまつわる種々の因縁が描かれる。新京都はビルディバイドの優劣による秩序を社会

高咲侑と伝道する12人の使徒:TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第2期が示したアイドルアニメの新常態

※本記事は2020年12月28日に公開した『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第1期評の続編です。前回記事も併せてお読みください。 はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、『ニジガク』と略称)は「アイドルアニメ」ではない――筆者はそのように『ニジガク』第1期評を書き出した。しかし、筆者は『ニジガク』の真の実力を見誤っていたのかもしれない。2022年4月から6月にかけて放送された『ニジガク』第2期は「アイドルアニメ」の新常態を示

TVアニメ『東京24区』が謳い上げた市民的公共性の価値:前門のトロッコ問題、後門の神がかり的「美少女」礼賛

はじめに 2022年4月に放送が終了したTVアニメ『東京24区』はいまどき珍しく、熟議民主主義的な話し合いの方向を指し示す作品であった。  2022年1月期は、CloverWorksが制作するTVアニメが3タイトル同時に――『その着せ替え人形は恋をする』、『明日ちゃんのセーラー服』、そして『東京24区』――放送されていたクールであった。『着せ恋』と『明日ちゃん』が作画から心情描写にいたるまで、多くの視聴者から熱狂的な称賛を浴びた一方で、『東京24区』は冬季のCloverWor

TVアニメ『錆喰いビスコ』の菌糸的想像力:「きのこ的生き方」を媒介する声について

はじめに 2022年3月に放送が終了したTVアニメ『錆喰いビスコ』は、きのこという神出鬼没のモチーフを巧みに料理し、バディものの文脈に乗せながら、画面上で派手に咲かせた意欲作である。  本作は、有機物・無機物を問わずすべてを錆び付かせる「錆び風」が吹き荒れる近未来の日本を舞台として、がらっぱちの「キノコ守り」の少年・赤星ビスコと美貌の少年医師・猫柳ミロが繰り広げる冒険活劇だ。防衛兵器「テツジン」の暴走によって東京を爆心地とする大穴があき、それをきっかけに「錆び風」が吹き始めて

TVアニメ『異世界美少女受肉おじさんと』に見るホモソーシャルな欲望:「ボーイズクラブ」問題の表層/深層

はじめに ホモソーシャルとホモセクシュアルは紙一重の差である。2022年3月に放送が終了したTVアニメ『異世界美少女受肉おじさんと』(通称『ファ美肉おじさん』)はそんなことを改めて認識させてくれる作品だ。  本作は「おっさんと元おっさんのラブコメ」である。小学生の頃からの幼馴染である会社員の二人・神宮寺司と橘日向(ともに32歳)は合コンの帰り道、愛と美を司る女神によって魔王を打ち倒す勇者として異世界に召喚される。しかし、一つの大きな問題が二人の前に立ちはだかる。橘は合コン撃沈