マガジンのカバー画像

蛮族のためのアニメ月評

40
毎月第4月曜の19:00にアップしている声優/アニメに関する評論集です。
運営しているクリエイター

#アイドル

映画『トラペジウム』におけるエゴイズムの再評価:客観的指標の不在と横溢する自意識の肯定

※本記事は映画『トラペジウム』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。 はじめに 究極的に、アイドルはエゴイストでなければならない。エゴイスト同士がぶつかり合い、しのぎを削るアリーナ、それこそがアイドルの世界である。この異種格闘技戦によって育まれるのが、多様性と呼ばれる水平的な散らばりである。その意味で、アイドルの世界は外界への準用の可能性を秘めている。  2024年5月10日に劇場公開されたアニメ映画『トラペジウム』は、高校生のアイドル活動の蹉跌を題材にとり、

TVアニメ『シャインポスト』と『Extreme Hearts』の明暗:アイドルアニメから見えてくる才能・努力・自己肯定感の連関

はじめに 2022年7月期に放送されたTVアニメ『シャインポスト』と『Extreme Hearts』は、どちらも女性アイドルグループの奮闘を描くことを通じて、ありのままの自分を受け入れることの尊さを謳い上げた作品だった。しかし、視聴者に投げかけられたメッセージの表層とは裏腹に、この二作品は人間の才能について対照的な理解を示しており、結果的にアイドルアニメとしての巧拙が際立つことになった。  『シャインポスト』は、株式会社コナミデジタルエンタテインメントが手掛けるメディアミック

高咲侑と伝道する12人の使徒:TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第2期が示したアイドルアニメの新常態

※本記事は2020年12月28日に公開した『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第1期評の続編です。前回記事も併せてお読みください。 はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、『ニジガク』と略称)は「アイドルアニメ」ではない――筆者はそのように『ニジガク』第1期評を書き出した。しかし、筆者は『ニジガク』の真の実力を見誤っていたのかもしれない。2022年4月から6月にかけて放送された『ニジガク』第2期は「アイドルアニメ」の新常態を示

TVアニメ『ラブライブ!スーパースター!!』が曝け出す対立のメルトダウン:「沼地」のスクールアイドル・序論

はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第1期は「アイドルアニメ」ではなかった。それに比べて、TVアニメ『ラブライブ!スーパースター!!』(以下、『スーパースター』と略称)は「アイドルアニメ」ではあった。ただし、「アイドルアニメ」としては、どうしようもなくダラクしていた(*)。  東京オリンピック・パラリンピックの中継の影響で、NHK教育テレビ(Eテレ)での放送終了が2021年10月17日にずれこんだ『スーパースター』は、『ラブライブ!』シリーズ

TVアニメ『かげきしょうじょ!!』が照らし出す「僕たち」の後ろめたさ:歌舞伎・アイドル文化の蠱毒を制するためのレッスン

はじめに 2021年9月に放送が終了したTVアニメ『かげきしょうじょ!!』は、宝塚音楽学校をモデルにした「紅華歌劇音楽学校」を舞台として、「東大に並ぶ」とも言われる難関の入学試験を突破した100期生(予科生)の少女たちが繰り広げる切磋琢磨、友情、衝突、苦悩などを多角的に描いた傑作である。本作では、身長178cmで15歳、歌舞伎俳優の血を引く規格外の天然少女・渡辺さらさ(CV: 千本木彩花)と、有名女優を母に持つ「笑わない」元国民的アイドル・奈良田愛(CV: 花守ゆみり)の二人

TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』が描いた侑と9人の絆:ある僭主の「百日天下」とその手口

はじめに TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、『ニジガク』と略称)は「アイドルアニメ」ではない。  2020年10月期のTVアニメにおける二大「勝ち組」コンテンツは、間違いなく『ニジガク』と『D4DJ First Mix』だ。株式会社ブシロードの創業者である木谷高明は、日経クロストレンドのインタビュー記事(2020年10月23日公開)の中で、「SNS時代、消費者は勝ち組にしかくみしない」というマーケティング戦略を打ち出している。木谷は次のように言