雨柳イオ

SF小説を書いています 科学の本と文房具と鉱石について

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最近の記事

『Phosphene』|短編SF小説 

Phosphene 2024年2月21日 雨柳イオ  逃げ水が揺れる向こうに、少女が立っている。夏の強過ぎる日差しのせいで、風景は白く霞み、音すら蒸発して消えていた。少女はくるりと背を向け、——長い黒髪が揺れて一瞬前の残像と重なる。少女の服は白だったり水色だったり黄色だったりした——遠ざかってゆく。そちらへ行ってはいけない、そう呼びかけようとしたが、躊躇った。少女に声をかけることが怖かった。少女の体は白い光を放つ靄に包まれるようにして消えた。光が目に染みて、目を閉じる。光は

    • 『MEMΦRIES』第1話「惑星博物館」|長編SF小説 

      「千年後が現在の状態を決定する」未知のエネルギーと遥か未来の記憶の物語『MEMΦRIES』(長編SF小説)『MEMΦRIES』第1話「惑星博物館」作:雨柳ヰヲ 翠色の波が細かな白泡を吹きながら打ち寄せ、音も立てずに砂浜を濡らす。  真昼の太陽の光が空全体を覆う白っぽい靄の中で飛散する。  ずっと遠くの方の水平線はうっすらと紫がかっている。ちょうどその上を飛行機が飛んでいて、気流が霧状の雲を碧空ごと割いていく。  空に開いた隙間の中に銀色の街が見えた。幾何学模様を描く建

      • 「宇宙帝国軍のスパイ」短編小説(1話完結)

        「宇宙」「地上」「海底」に分断された世界。国一番の農家の息子フィトロンはある日、宇宙帝国軍のスパイ容疑で捕まってしまう。SF短編小説。あらすじ 宇宙帝国軍のスパイ作 雨柳ヰヲ  朝陽に輝く黄金色の海の上を、エアカーが滑るように飛んでいる。  収穫を待つ稲穂ははち切れんばかりに実をつけて首を重く垂れ、風が吹くたびに夕立の降り始めのような音を立てて波打つ。  深緑色の制服に映える、赤褐色の髪の青年フィトロン・オーレオムはエアカーの後部座席にもたれた姿勢で遥か地平線まで続く金色

        • 「光るクジラは水の歌を歌う」短編小説(1話完結)

          宇宙に水の歌が響き渡る時、進化したヒトの運命は大きく変わる─新作SF小説『光るクジラは水の歌を歌う』あらすじ 『光るクジラは水の歌を歌う』 作 雨柳ヰヲ  濃い瓦斯の霧を抜けると巨大な壁に囲まれたビル群が見える。大きく口を開けた扉の中へ乗合バスは滑るように進んでいく。透明のロードチュゥブがいくつもの道に分かれており、中央の道は市場の中を通り抜ける。色とりどりの天幕が張られ、あちこちで屋台から煙が昇る。食用金属を辛く煮詰めたスゥプ、宝石のように美しく光るクリスタルの炭素菓

        『Phosphene』|短編SF小説 

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          短編SF小説3作品を公開しました

           今年書いた短編小説を公開しました。  読んでくださった方に是非お願いしたいことがあります。直した方がいいところを教えてもらえると嬉しいです。 「コピープラネット」  建設中の<空中都市>が暴走し、親友とNYを飲み込んで消えた。 ▼https://kakuyomu.jp/works/16817330651268249513 「宇宙帝国軍のスパイ」  率直に言おう。君には宇宙帝国軍のスパイ容疑がかかっている。 ▼https://kakuyomu.jp/works/16

          短編SF小説3作品を公開しました

          文藝を識る4作。「少年万華鏡」シリーズ 長野まゆみ おすすめ作品紹介-1

          文・写真/雨柳ヰヲ 作家・長野まゆみの初期作品、デビュー10周年記念として1998年に発売された特装函入版「少年万華鏡」シリーズ全4巻長野まゆみさんの小説を中学生の頃から愛読している。裕福でない家庭で育った私にとって本は高価な代物だった。自分で稼げるようになってからは長野まゆみの新刊が発売されるたびに必ず購入している。出版年が古く現在重版がされていないものは古書店やネットフリマで探す。1998年に発売された特装函入版「少年万華鏡」シリーズ(河出書房新社)は高額取引されること

          文藝を識る4作。「少年万華鏡」シリーズ 長野まゆみ おすすめ作品紹介-1

          【試し読み】新刊『Cryogenics』より第1話「Her Awakening」

          11/20(日)文学フリマ東京35  新刊『Cryogenics』より第1話「Her Awakening」試し読みを公開しました。 ▼こちら 『Cryogenics』 誰かが読んでくれるといいなあと思います。 表紙は久しぶりに漫画絵を描きました。80年代な雰囲気で描いたつもりなのですが、伝わりますでしょうか。うーん。精進します!! 裏側は可愛い感じです。 レトロポップなSF小説、これからももっと頑張ります! では文学フリマ東京35でお会いしましょう! 雨柳ヰヲ 1

          【試し読み】新刊『Cryogenics』より第1話「Her Awakening」

          <今日のおすすめの本>『鏡の中の鏡 迷宮』『EDNE (エドネ)』

          『鏡の中の鏡 迷宮』原題 Der Spiegel im Spiegel 著 ミヒャエル・エンデ Michael Ende 画 エトガル・エンデ 訳 丘沢静也 解説 新宮一成 岩波書店 内容(書誌ページより引用) 私にとって人生と思考の基礎となる本。 11歳の時、図書館で手に取った『鏡の中の鏡』。エトガル・エンデの奇妙な絵が怖かった。話しの意味はよくわからなかったけど、それ以来私の頭の中は存在しない世界の外側や、捻れて入り組んだ街の永久に続く階段なんかを彷徨うようになった

          <今日のおすすめの本>『鏡の中の鏡 迷宮』『EDNE (エドネ)』

          『電氣式少年と三日月都市』第2話(1)公開しました

          こんばんわ。こんばんわ。雨柳ヰヲです。 最近、『スプリガン』が観たすぎてNetflix登録しました。 ネトフリに登録したら延々とアニメを見続けてしまいそうなので禁じていたのですが、かっこいいSFアニメ観たい発作が抑えられず、ついに解禁です。 『スプリガン』はキャラデザもストーリーも演出も何もかもが非常にかっこいいわけですが、知的好奇心も満たされるのがとても素晴らしいのです。 ちなみに、『スプリガン』のキャラの一人、ジャンジャックモンドは現在連載中の『電氣式少年と三日月都市

          『電氣式少年と三日月都市』第2話(1)公開しました

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(3)公開しました

          2022年8月13日 00:44 こんばんわ。雨柳ヰヲです。 11月20日の「文学フリマ東京35」に申し込みしたのですが、まんまと抽選枠でした。 出遅れました。 私はよく音楽からインスピレーションを得て小説を書きます。 というか、音楽がないと小説が書けないかもしれません。 何か小説を書き始めようとしたとき、必ずテーマ曲を選びます。その曲が小説の世界観を決め、醸し出す雰囲気やキャラクターの精神性を決めます。 テーマ曲があることで一つの世界観からブレずに最後まで書き切るこ

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(3)公開しました

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(2)公開しました

          2022年8月5日 23:25 雨柳ヰヲです。 レトロポップなSF小説を書いてます。 今朝、アメリカ人の友人と話をしていて、 「宇宙飛行士になりたいと思ったことはある?」「子供の頃はなりたかったけど、宇宙兄弟を読んでから宇宙は怖いし訓練もきつすぎるから今は全然なりたくない」 という話題から、「Mt.エベレストに登りたいか?」と質問されました。 私は登山は好きではないので、もちろん答えはNO。 なぜ?と聞くと、友人は 「エベレストには、至る所に人の死体がゴミのように放置さ

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(2)公開しました

          「一万年後の進化した肉体に入れ替えるのさ。」─『電氣式少年と三日月都市』 試し読み

          「一万年後の進化した肉体に入れ替えるのさ。」幻想物理学者の未来予想SF 『電氣式少年と三日月都市』雨柳ヰヲ「カクヨム」にて連載中のSF小説『電氣式少年と三日月都市』試し読みをお届けします。(毎週金曜夜11時更新) 『電氣式少年と三日月都市』あらすじ第一章 電氣式少年─electroid─  【あらすじ】  人気映画俳優ヨシュ・シラーは、その全財産を、障害を持って生まれてきた息子エルの治療のために、軍事組織<LOTUS>が関与する再生医療開発研究所<MAJA(マヤ)>に投資す

          「一万年後の進化した肉体に入れ替えるのさ。」─『電氣式少年と三日月都市』 試し読み

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(1)公開しました

          2022年8月1日 今朝、「今、意識が注目されている」というダイヤモンドオンラインの記事を読みました。 ヒトの「意識」をめぐる議論は2500年前、哲学のはじまりからずっと繰り返されてきました。 記事にはこのような一文があります "脳科学、生物学、心理学、宗教学、哲学、ロボット工学、人工知能工学から、自己啓発やスピリチュアルやライフハックやマインドフルネスまで、本当に様々な分野で、「意識」は重要なテーマとされ、各分野で論文や書籍が出版されてきました。" 今回私が取り上げた

          『電氣式少年と三日月都市』第1話(1)公開しました

          『電氣式少年と三日月都市』プロローグを公開しました

          2022年7月30日 雨柳ヰヲです。 レトロポップなSF小説を書いてます。 物理学の新理論をあれこれ考え、小説にしています。 人はやがてコンピューターと融合し、新しい人類として進化を遂げるはず。 本作のテーマは「人の手による人類の進化」です。 ハードSFとファンタジーの中間くらいです。 Lo-Fi physics (低忠実度物理学)ストーリー。 毎週1話ずつ公開していく予定です。 フォロー、サポートいただけたら嬉しいです。 https://kakuyomu.jp/work

          『電氣式少年と三日月都市』プロローグを公開しました

          20'ハーバード美術館「江戸美術展」ー再び注目を集める日本美術

          Painting Edo: Japanese Art from the Feinberg Collection(江戸美術ファインバーグコレクション展)オンライン展覧会開催中→展覧会を見る こんにちは。雨星立夏です。 今年ハーバード美術館で開催された「Painting Edo: Japanese Art from the Feinberg Collection(江戸美術ファインバーグコレクション展)」の展示作品についてご紹介します。 「ファインバーグコレクション」には、日

          20'ハーバード美術館「江戸美術展」ー再び注目を集める日本美術

          空を泳ぐ魚たち|フォトエッセイ

          近所の川が好きで、散歩するたびに覗き込みます。 おじいちゃんおばあちゃんがのんびり散歩しながらやはり川を覗き込みます。 ただ水が流れていて、太った鯉が泳いでいるだけなのに、みんな覗き込みます。 近所の川の鯉たちは、みんなが餌をあげるので、めちゃくちゃ太っています。鳩たちも太っています。猫も太っています。 「ただそれだけ」が、真の幸せといふもの。

          空を泳ぐ魚たち|フォトエッセイ