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何でもない空

会社員の頃、流れ星をよく見た。
残業で、はたまた飲み会で、日付が変わる時刻に歩く夜の道。
考えてるのか考えてないのか定かでなくなった頭で、足はテンポよく家に向かう。
静まった住宅街を一人歩いていると、突然、すーっと光が筋を描いて目線の空を流れていく。それが2~3個続くときもあった。

大概は「はッ」と見つめたまま、星に願いをかける間もなく消えてしまう。でもたまに、焦りつつも立ち止まって願いごとができるときもあった。
何をお願いしたっけかな?
とっさのことだから、細々したことは思いつかない。
「いいことありますように!」
大雑把なそんな願いごとだったと思う。

「流れ星をよく見る」と同僚に話すと、「へえ……」と怪訝な顔をされた。
と、ひらめいたかに訊ねられた。
「それって、いつも空を見ながら歩いてる?」
「……そうだね」
「おれ、下向いて歩いてるからなあ。
 そうか、上を見て歩けばいいのか!
 そうか、そうか」
その人は、ちょっとした発見をしたようで嬉しそうだった。

最近は流れ星を見ていない。
夜道を疲れにまかせてぼっーと歩くことがなくなったせいだろう。
でも相変わらず、一人で歩いていると思わず空に目線がいっている。

市ヶ谷から飯田橋に向かう道。
ふと立ち止まり、まだ明るい夕方の空を眺めた。
何のことはない、ただの空。
気がつくと、道端に車を止めて休憩中のタクシーの運転手さんに不思議そうな視線を送られていた。


≪🐟10*0706📒220706≫


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