見出し画像

月と花火

仕事帰りに海へ行った。
夕方早々に会社を出て、
友人が運転する車で
三浦半島の荒崎へ向かった。

夏の夕方は、遅くまで空が明るい。
岩場の入り江も、
足元が危ういほど暗くはない。
腰掛けるのにちょうどよい場所を見つけて、
波が、小さく、大きく、
飛沫がかかるほど大きく、打ち寄せるのを楽しんだ。

川でも海でも、
水の動きは、どんだけ見ていても飽きない。

そのうち、水平線の間際に丸い橙(だいだい)を見つけた。
昇っているのか、降りているのか、
夕陽なのか月なのか、
橙に注目していると、
水面を照らしながら海を離れ、
しだいに景色をまあるい月夜に塗り替えた。
空の明るさはすっかり消えて、
群青色の夜に、半熟卵の黄味色ライト。

そのうち、暗い水平線の彼方に赤や黄色の光が弾けだした。
花火……?。
あれは、どこの花火だったのだろう。

月を見にきたのでもなく、花火を見にきたのでもなく、
なぜか夜の海へ行った夏の日の光景。
あんな夕刻ショーは、
あれ以来、見ていない。
あれって、特別な招待だったのかもしれない。

8月の、夏が高まる頃になると思い出す、
月と花火。
あのときの潮の香り……。
深呼吸をしてみても、 光景は浮かべど匂ひは届かず。
会社員最後の夏だった。

≪🌐05*0809*🐡15*P00📒200809≫


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?