ありがとう、そしてさようなら


およそ1年9ヶ月。
この部屋とも、いよいよおさらばだ。

思えば引越してきた当初、この部屋では不思議なことが多かった。
角部屋なのに壁の向こうから物音がしたり、
金縛りにも悩まされた。

部屋の中が真っ暗なのに、確かに誰かがそこにいる。
視線は動かせるのに身体は全く動かない。
とても怖かった。
得体の知れない何者かが棲みついてる部屋だと思っていた。

だけど僕はそんな何者かと仲良くなるために
寝るときは「おやすみ〜」
起きたら「おはよ!」
出かけるときは「行ってきます!」
帰ってきたら「ただいま!」
当たり前の挨拶を欠かさずした。

するとやがて物音はしなくなり、金縛りに苦しむこともなくなった。
なんだかとても寂しい部屋になってしまった気がする。
いつしか僕は挨拶することをやめていた。



時は経ち、引越しが決まった。
平日は仕事で疲弊し、週末は引越しの準備に追われ
電気をつけたまま寝落ちしてしまったある日。

身体が、動かないっ!!
金縛りがしたのだ。

誰かがそこにいる。怖い。
挨拶を怠ってしまっていたからだろうか。
もうこの部屋からは退去することはお前もわかってるんだろ。やめてくれ!

「お、、い、、、かz、、、、よ」

なんだっ、お前の要求は何なんだ!
意を決して、金縛りに抗うことをやめ
目を閉じて耳を澄ませた。すると…

「おい、○○○(僕の名前)
  カゼ、引くなよ。」

ま、まさか…

オーナーゼフ!!!!!
長い間、クソお世話になりました!!!
この御恩は一生忘れません!!!


あなたは最後に別れを伝えてくれたんですね。
また会おう。
そしてきっと今度は語り合おう。
2人の夢について…


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