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22. プラハのブルーオニオン、ヨーロッパの磁器の話

1.ブルーオニオン、グリーンオニオン

お正月に実家に行ったら、以前、プラハでお土産に買ってきた「ブルーオニオン」ならぬ「グリーンオニオン」のマグを発見。実家では、気に入ってはいるものの、ハンドルが小さくて持ちづらくて、あまり使っていないらしいので、貸して、といって引き取ってきた(笑)。いつだったっけと調べたら2011年の6月だった。。。懐かしいなあ。
ということで、「ブルーオニオン」のこと。

白磁にブルーで描かれた玉葱などをモチーフとした、280年を経て今なお、洋食器を代表するデザインのひとつ「ブルーオニオン」。
1739年、マイセンの絵付け師J.D.クレッチマーが、染付の技法も文様も中国の磁器に倣って、白磁の上に酸化コバルトのブルーで模様を描き完成させた。
お手本の中国の磁器では、ザクロだった文様が、当時のヨーロッパではザクロがあまり知られていなくて、タマネギと間違えられて「ブルーオニオン」と言われるようになったらしい。そして、もともとは、ちゃんとザクロを真似て描いていたのが、いつのまにか本当に玉葱になっちゃったという(笑)。ドイツ語のシリーズ名は「Zwiebelmusterツヴィーベルムスター(オニオンパターン)」。
タマネギ(ザクロ)の他にも、桃、竹、蓮など、東洋のおめでたいモチーフが描かれていて、ザクロは「子孫繁栄」、桃は「延命長寿」、竹は「節操」、蓮は「聖性」を象徴しているとか。

2.世界三大ブルーオニオン

本家は、マイセンだけど、人気があって現在世界中には約 50 種類のブルーオニオンがあるとか。 その中で、世界三大ブルーオニオンと言われているのが、
•マイセン(MEISSEN)
•フッチェンロイター(HUTSCHENREUTHER)
•カールスバード(Carlsbad)

本家本元のマイセンは、もちろん、1点1点職人さんの手描き。類似品が増え過ぎたため、1985年頃から竹の根元にマイセンの双剣マークを描くように。
マイセンと同じくドイツのフッチェンロイターは、1926年にマイセン窯から正式にパターンを譲り受け、独自の銅版転写とハンドペイントで1点1点制作。パッと見の雰囲気はそっくりだけど、よく見比べると差異があって面白い。ブルーオニオンをベースに金彩を加えた「ブルーオニオン プレミアム」というオリジナルシリーズも。
カールスバードのブルーオニオンは、丸みを帯びたフォルムと濃いブルーが特徴で、マイセンの10分の一程度という、三大ブルーオニオンの中では最も安い価格帯で、電子レンジや食洗機の使用もOK。
チェコのボヘミア地方(カルロヴィ・ヴァリ)にあるチェスキー・ポルツェラン社のドゥビー工場で作られていて「BOHEMIA」とドゥビーの「D」の刻印。
プラハに行ったときに、これを買ってきたのだけれど、お店には、基本のブルーのほかに派生形もけっこうあって、父親がグリーン好きだし、ちょっと変わっていていいかな、ということでこのグリーンオニオン。マイセンだったら、ブルーにしたけど。

ガールズバード版の刻印

ちなみに、日本にも、日本古来の染付技法でブルーオニオンを再現した和製ブルーオニオンを作っているところがある。

3.ヨーロッパの磁器のはじまり、マイセン

マイセンもブルーオニオンも、ヨーロッパの磁器の歴史のはじまりそのもの、東西が融合したベストセラーといえる。
磁器は、16世紀に中国からヨーロッパに伝わったといわれ(それで今でも磁器は英語で“china”ともいうわけだけど)、17世紀には、ヨーロッパで中国の磁器や日本の伊万里などが盛んにもてはやされていた。真っ白で薄く硬く艶やかな硬質磁器の製法を、列国の王侯貴族、事業家たちがやっきになって解明しようとした中、東洋磁器の屈指の蒐集家だったドイツのザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト強王(1670-1733年)のもと、錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーが自然科学者エーレンフリート・ヴァルター・フォン・チルンハウス伯爵の協力により、1708年 磁器に近いものを作り上げ、1709年には白磁製法を解明。 1710年 アウグスト強王によりドレスデンに磁器工房設立が布告され、工房は、マイセンのアルブレヒツブルク城に移され、ここにヨーロッパ初の硬質磁器窯「マイセン」が誕生した。ちなみに、アウグスト強王の居城であったツヴィンガー宮殿には、王の膨大な磁器のコレクションが収蔵され、その中には古伊万里1000点、柿右衛門200点が含まれていたとか。

工房が、自然の要塞に守られたマイセンの堅牢な城に移されたのは、磁器の製法の秘密を守るため。ここにベドガーを幽閉までして、製造は分離生産で管理したけれども、職人の逃亡などにより外部に持ち出されて、結局は、あちこちで見分けがつかない類似品が製品されることになる。
そして、今でも、マイセンの類似品が最も多いものの一つが「ブルーオニオン」かもしれない。

4.Blue and White 染付

ブルーオニオンは、染付と呼ばれる「下絵付」の技法で描かれている。
陶磁器の表面に絵や紋様を描く「絵付け」は、下絵付と上絵付の2種類にわかれる。
釉薬をかけた後に絵付けをするため焼成前であれば修正が可能な「上絵付」に対し、下絵付は、陶土を型に固めて乾燥させたのち約900度で素焼きを行った後に顔料を用いて絵付けをする。磁器の下絵付の代表的なものが、呉須と言われる酸化コバルトを主成分とする顔料で絵付けを行う「染付」。染付の技法は中国で唐の時代(618年~907年)に生まれ、日本では、17世紀、江戸時代初期の伊万里焼が初めらしい。
素焼きの素地は、砂地が水を吸い込むように顔料を吸いやすく、一気に描き上げて描き損じは修正がきかない一発勝負。焼成前には灰色の模様が、火をくぐると真っ白に美しい藍色となる磁器がヨーロッパを魅了し、その後ヨーロッパで世界を魅了するいくつもの磁器ブランドが発展した。Blue and Whiteは、やっぱり美しい。

・・・って、マイセンはもとより、いかなるブルーオニオンも持っていないので、写真はグリーンオニオンだけですが。。。

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