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小説|君の音
エピローグ
目が覚めると、雪が降り出していた。
「雪だ、」
寝ぼけた声で呟く。
真っ白な世界。思い出すのは、あの日のこと。
冬の奇跡の物語。
第一章 日常
キーンコーンカーンコーン
「起立、例。」
「ありがと〜ございました。」
だらだらの挨拶、いつもの日常。
「みどり〜、帰ろ!」
教室の後ろのドアから声がした。この声は、ゆかちゃんだ!隣のクラスからわざわざ来てくれたんだ!
佐々木紫、通称「ゆかちゃん」。小学校からの親友。中学校に上がっても一緒のクラスだと思っていたのに入学式に配られたクラス分け表を見て絶望したのを昨日のことのように覚えている。
「うん、帰ろっか!」
「あ、ところでさ〜、音楽祭近いじゃん。ゆかちゃん、伴奏者やるの?」
さりげなく聞く私。私たちの学校の音楽祭は、クリスマス、つまり12月25日にある。
「うん、やろうかな。ピアノ習ってるし。」
「いいと思う!ゆかちゃんめっちゃ上手いし、私たちの優勝は決まりだね!」
「みどり、私たちクラス違うじゃん。何言ってるの〜!」
二人で笑いながら昇降口へ行くと違和感を覚えた。
あれ?私、宿題を入れたファイル、カバンに入れたっけ?
焦って鞄の中を確認してみたが、入っているのは教科書数冊だけ。いつもならゆかちゃんに昇降内で待っていてもらい、
忘れ物を取りに行く。でも今日はゆかちゃん、習い事があるみたいだからしょうがなく先に帰ってもらうことにした。
一人で放課後の肌寒い学校の中を歩くのはなんだか不気味で寂しい。トボトボと教室まで行き机の中を覗いた。
「あれ?」
誰もいない教室でぼそっとつぶやいた。ファイルが、ない。
どこにやったっけ?
少しパニック気味になったが六時間目の音楽で、音楽室にファイルを持って行ったのを思い出し取りに行くことにした。
第二章 呪いの音楽室
普段、この時間は吹奏楽部が練習をしている時間。でも今日はコンクール練習のために体育館にいる。
とりあえず、音楽室まで行ってみて鍵がかかっていたら職員室に行って開けてもらうか。
脳内で計画を立てていると、ピアノの音が聞こえた。とっても上手とは言えないけど、心地の良い音。
音楽室のドアを押すと、扉が開いた。
開くのと同時にあのピアノの音が止まった。考えてみれば吹奏楽部の活動場所は体育館なはず。ここでピアノの音が聞こえるのはおかしい。
も、もしかして、お化け!?
心臓の音が聞こえそう。勇気を出して一歩、音楽室に足を踏み入れた。周りを見ても誰もいな……
「わ、わ〜!?」
目の前に人影が見えた私は驚いて声を出した。も、もしかして音楽家の肖像画から音楽家の一人が出てきたの?それても、誰も居ない音楽室で音楽家たちの幽霊がパーティーを開いていたとか!?
怖くてしゃがみ込んでいる私の方を誰かが触った。
「きゃ〜!私を呪わないで〜!助けて神様〜!」
怖くて体に力が入らない。どうしよう!
「わ~、誰が入ってきたのかと思ったらみどりか~。よかった。」
あれ、この声どこかで聞き覚えが……
そっと顔を上げるとそこには 冬樹君がいた。
「あ、 冬樹君か〜。びっくりした!お化けが出たかと思ったよ。」
「ごめんって。でもみどり、面白かったよ。『のろわないで〜』って。」
冬樹君がいたずらな笑顔で微笑む。
体に力が入らなくて立ち上がれない私に 冬樹君は右手を差し出してくれた。
「ほら、つかんで。引っ張って起こしてあげる。」
「あ、ありがとう。」
冬樹君の手につかまって立ち上がった。
「それよりどうしたの?放課後に音楽室来るなんて。吹部じゃないだろ。」
冬樹君が不思議そうに聞いた。
「ちょっとファイルを忘れちゃって。てゆうか、 冬樹君だって吹部じゃないでしょ。なんでここに?」
「僕は……」
ガシャん!
ドアが開くとそこには驚いた様子の音楽の先生がいた。話し声は音楽室の防音の壁で外までは聞こえなかったのだと思う。
「冬樹君とみどりさん、どうしてここに?先生から許可もらってないでしょ!」
急に入ってきた先生によって私たちの会話はさえぎられた。
「全く、冬樹君もみどりさんももっとまじめな生徒だと思っていたのに!このことは担任の 先生に……」
「先生、ごめん!でも、みどりは今来たたばかりだって。だから、みどりには怒らないで。」
冬樹君がかばってくれたおかげで私は怒られずに済んだ。音楽の先生にちょこっと注意された後、音楽室を追い出された。急いで昇降口に行き小走りで家に帰る。
あっ、忘れた。
怒られそうになった時、助けてくれた 冬樹君に、「ありがとう。」って言うの、忘れた!
第三章 音楽祭準備
「それでは、音楽祭の指揮者と伴奏者を決めていきます。では、最初に伴奏者、やりたい人いますか?推薦でもいいです。」
音楽祭まであと2ヶ月。音楽の授業で、本格的に準備が始まった。音楽祭実行委員が周りを見渡す。
このクラスに、伴奏者に向いている人いるかな?ゆかちゃんがいればいいのにな、ピアノ習っているし。
「あ! 冬樹君!」
昨日の出来事を思い出し、とっさに叫んでしまった。周りの人はこっちをみている。
あ〜、恥ずかしい!
「みどりさんは、 冬樹君を推薦するということでいいですね。」
音楽祭実行委員が私のほうを向いたので、小さく頷き、冬樹君の席を見た。「え、僕できないです。ピアノ上手くないし、」
冬樹君がこう言ったけれど、伴奏者には他に立候補者がいなかった。結果、冬樹君が伴走者となり、その後指揮者もきまった。
第四章 音楽祭の大問題
授業が終わり、放課後。冬樹君が私の席にやってきた。
「みどり、ちょっといい?」
放課後の誰もいない教室で冬樹君に言われたこと。
それは冬樹君には、この学校に通ってない双子の兄がいること。
私は何のことだかさっぱりわからなくて、混乱した。その様子を見て、冬樹君は一から説明してくれた。
「僕の双子の兄、夏樹は成績優秀で、ピアノがとってもうまいんだ。だから、親からすごく期待されている。それに比べて僕はまったく。兄みたいに明るくて活発ってわけでもないし、勉強ができるわけでもない。」
息を一度吸って、また話し始めた。
「だからさ、親は夏樹にしか興味がないから知らないんだ。僕か少しだけだけど、ピアノを弾けること。だから僕、家で音楽祭の練習できない。ピアノを弾くことは大好きだから伴走者に選ばれたときはうれしさと、怖さが混じったような感情だった。みんなに迷惑かちゃう、このままだと。」
冬樹君の言葉に、私は何も言えなかった。ぼーっとしていて冬樹君の名前を出してしまったけど、このままじゃ、いろんな人に迷惑かけちゃう。冬樹君にも、クラスの子たちにも。
「あ!そうだ!ちょっと冬樹君来て!」
冬樹君の腕をつかみ職員室へと向かった。
考えて、思いついたこと。思い付きだけの行動だけどとにかくやってみる。
「失礼します!音楽の先生居ますか?」
職員室に向かって叫びこんだ。中にいる先生は少し驚いた様子だけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「は~い、どうしたの?」
「実はですね、音楽室を貸してほしいんです!」
のんきに事得る先生とは裏腹に、私は早口で言った。
「え!音楽室を!」
そう答えたのは先生ではなく冬樹君だった。
「そう、音楽室を。まあ、無理ならピアノのある教室ならどこでもいいけど。」
冬樹君にそう言うと先生が眉をひそめた。
「何で?何か事情があるの?」
「はい、いろいろと。全部説明すると長くなるから簡単に言うと、伴走者になった冬樹君、家で音楽祭の練習ができないみたいなんです。だから空いている日だけででもいいのでピアノのある教室を貸してください!」
「いいわよ。」
先生からは意外な返事が返ってきた。無理だと思いながらも、チャンスがあるならと思い聞いてみたこと。これで、音楽祭の大問題は解決!
第五章 音楽祭
ついに、音楽祭当日となった。クリスマスだけど、客席は生徒の家族や地域の人であふれている。
私たちのクラスの番となった。舞台に上がり指揮者の合図で冬樹君の伴奏が始まる。
音楽の先生にお願いに言ったあの日から、私たちはピアノのある空き教室で毎日のように練習した。忘れていたファイルはゆかちゃんが音楽の室に行ったときに見つけたみたいで、私に届けてくれた。
冬樹君の伴奏は練習のおかげでとってもうまくなった。伴走者ではないけど冬樹君に迷惑かけちゃったから私も冬樹君が練習する日か必ず、一緒に空き教室に行っていた。
時々音楽の先生が来て練習絵お手伝ってくれたりなんかもしてとってもいい思い出。
私たちのクラスの合唱が終わった。舞台から降りて席に座り他のクラスの合唱を聞く。どのクラスもレベルが高く優勝がだれになるのかまだわからない。
全クラスの合唱が終わり、結果発表の時間までは自由時間となった。席に座っていると少ししてから冬樹君がやってきた。
「みどり、みどり!」
冬樹君、なんだかとっても嬉しそう!
「実はさ、僕の両親が来ていたんだ!夏樹のピアノのコンクールで来られないって言っていたんだけど音楽の先生が、練習頑張っているからぜひ来てください、って家に電話してくれたんだって!」
「え~!よかったじゃん!じゃあこれからは、家でも思う存分ピアノ弾けるんじゃない?」
「夏樹のじゃまにならない程度にね。僕はコンクールとかでないから。」
少し悲しそうに喋る冬樹君。
「出ればいいじゃん。やってみたいんだったら、挑戦してみたら?」
「うん!」
「皆さん、表彰式が始まるので席についてください。」
放送が入って、冬樹君は席に戻っていった。
成功のチャンスが1%でも挑戦すること、この音楽祭を通して、私はこんなことを学べたと思う。
エピローグ
私たちのクラスは、準優勝だった。優勝はゆかちゃんのクラス。嬉しいような、悲しいような。
でも、クラスのみんなは悲しんでいない。私たちが今できる、最高の合唱にできたから。
「雪だ~!」
突然誰かが叫んだ。
窓を見ると雪が降り始めていた。だんだんと、窓の外の景色は白くなっていく。とってもきれい!
ふと冬樹君の方を見ると目が合った。
大人になってもこのことをお互い、「冬の奇跡の物語」そんな風にきっと思い出す。
あとがき
今回は大体4,000字程度の短編小説にしました。もし、何かしらの機会があれば、この物語を軸に小説を出してみたいです!
よかったら感想をコメントに書いていただければうれしいです♪
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