前世の約束7

1996年秋。バドミントンの秋の大会の前日、泉は高熱をだしてしまった。いつも病気の時は泉の母親は看病してくれないと言っていたので僕の家にこさせた。
伊緒「明日の大会は無理だね。」
泉 「ううん。熱が何度でようと大会にはでる。」
女子部の副部長をしていた泉は大会にはどうしても出たかったらしい。それとも皆に迷惑かけるのが嫌だったのか?僕は寝ずに泉の看病をした。深夜2時、最初は39度あった泉の熱は37度まで下がっていた。
伊緒「熱下がったよ。明日試合大丈夫かも。」
泉 「伊緒君ありがとう。」
だが熱が下がったのは一時的なものだった。明け方4時にはまた39度に戻ってしまったのだ。大会は9時から。8時には学校に行かないと間に合わない。僕はあろう事か、7時に寝てしまったのだ。泉は当然起きる訳がない。午前10時。
泉「最悪。」
僕は泉の最悪という言葉で目が覚めた。
伊緒「ごめん泉。大会俺のせいで行けなかった・・・・。」
泉 「・・・・。」
まさに最悪だ。あれだけ泉が行きたがっていた大会を僕が寝てしまったばっかりに、寝過ごしてしまったのだ。当然無断欠席。しかも僕もだ。
泉 「しょうがないね。でも部員には二人一緒にいたなんて絶対思われたくない。」
伊緒「そうだね。」
泉の熱はやはり39度ある。どうしたものか。午後3時。泉の熱は下がらない。僕は泉の為にと思い部長に電話してしまった。
伊緒「伊緒だけど。」
部長「今日どうしたの?」
伊緒「ちょっと大変な事になってね。」
部長「泉も来てないんだけど、知らないよね?」
伊緒「今一緒にいるよ。」
部長「どうしたの?」
伊緒「泉、昨日から高熱だして今も全然熱下がらないんだ。」
泉が一緒にいた事絶対知られたくない。と言っていたにもかかわらず、僕は部長に言ってしまった。僕は泉の大会に出たくて皆に迷惑かけたくないという気持ちを部長に知らせたかったからだ。
部長「でもどうして伊緒君と一緒にいるの?」
伊緒「泉の家、昨日看病してくれる人誰もいなかったから、俺が看病した。」
部長「そうなんだ・・・・。」
伊緒「でも泉はどうしても最後まで大会行きたがってたけど俺が止めた。」
部長「分かった。泉は大丈夫?」
伊緒「熱が下がらないから病院連れてくよ。」
部長「宜しくね。」
部長は物わかり良くてよかった。そして僕は泉に、
伊緒「部長に言ったから。」
泉 「何で言うの?」
泉のためによかれと思ってやった事でも、泉はその行動に対して酷く怒ってしまった。
伊緒「ごめん。でも今日の大会の事、泉はどうしても出たがっていた事を知らせたかった。」
泉 「余計な事しないでよ・・・・。」
泉は泣きそうになってしまった。僕は本当に余計な事をしてしまったと自分の不甲斐なさを知った。午後四時やはり泉の熱は下がらない、病院につれて行きたいけど立つことも出来ない泉をどうやって連れて行こうか。僕は父親に電話した。何年ぶりだろうか。
伊緒「伊緒だけど。」
父親「おう、どうした?」
久しぶりに聞いた父親の声は頼りがいのある声だった。
伊緒「彼女が熱出して大変なんだ。車で病院連れて行ってくれない?」
父親「分かった。」
父親はあっさり了解してくれた。今思えば父も母も僕の事を思ってくれていた。なぜあんなにも嫌いだったのだろう?離婚したから?でも父も母もいろいろな事情があったのだろう。僕はこの時、困った時だけ親に頼る自分が嫌で嫌でしょうがなかった。自分の無力さを知った。
伊緒「もうすぐ親父くるから、車に乗って病院行こう。」
泉 「うん。ありがとう。」
僕らは病院に行った。泉はただの風邪ではなくインフルエンザだった。熱が下がらない訳だ。泉は即入院した。
伊緒「まさか入院だとはね。」
泉 「そうだね。」
伊緒「それで大会でようとしてた泉は凄いよ。」
泉は久しぶりに笑った。泉はこの時すでに口に出さなかったが僕の事を好きになってくれていたらしい。部員はもちろんいろんな人がお見舞いに来てくれた。皆なぜ僕がいるのか不思議そうに思っていたみたいだが誰もその事にはふれなかった。そして、二年女子全員と拓が見舞いに来た。
拓 「大変だったね。」
泉 「うん。」
拓「何で伊緒がいるの?」
拓は皆のいる前で確信にせまった。何て言えばいいのだろうか?
伊緒「たまたまね。」
拓「何がたまたまなの?」
部長「まぁいいじゃん拓。」
拓 「まぁいいけど。」
事の成り行きを知っている部長が僕と泉を助けてくれた。その後たわいもないことを喋って部員達は帰って行った。とその時中年の女性が来た。
泉 「お母さん!」
お母さん?この人が泉のお母さん?目の前にたっている女性は僕に軽く会釈をし、丁寧な言葉使いで
泉の母親「この度はお世話になりました。」
目の前にいる女性はとても綺麗で、すごく優しそうな感じだ、泉の話では、母親は凄く男嫌いで、交際はもちろん男友達も許してくれないし、泉のことが大嫌いなどと聞かされていた。見た目では僕の想像とまったく正反対だった。昨日僕の父親が泉の母親に電話したらしく、内容は息子のバドミントンの大会を見に行っていたら泉が具合悪そうだから病院に連れて行ったという内容だった。
伊緒「いいえ。たまたま僕の父がいただけです。」
泉の母親「同じ部活の子でしょ?」
泉 「そう伊緒君。」
泉の母親「バドミントン強そうね。」
泉 「滅茶苦茶強いんだから!」
伊緒「そんな事ないですよ。」
泉の母親はすぐに帰って行った。
伊緒「話と全く違うんですけど?」
泉 「そうだね。そう見えるね・・・・。」
泉はそれ以上何も言わなかった。僕は泉が入院している間は毎日学校帰りに見舞いに行った。この出来事のおかげで泉との距離が少し縮んだ気がした。

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