嘘ばかりついてる色弱デザイナーはもう亡くなりました。
ずっと嘘ばかりついてました。
色が見えるフリをして。
冷や汗かきながら。
それでも、それでも…。
嘘をついてでも。
誰かを騙しても。
その世界でしか生きることができなくて。
けど、いつか限界はやってくるんだ。
絵が描きたかったなぁ。
綺麗な色が塗りたかったなぁ。
色が見えたらどんなものでも表現できるんだろうなぁ。
ずっと、そんな想いを抱えている僕に、その人は、ある日、あなたの目はどうなってるの?と不思議そうに聞いてきた。
見えてないのに、どうしてこんな綺麗な絵を作ることができるの?と聞いてきた。
わからない。
見えていないから。
綺麗かどうかもわからない。
もし見えていたら、僕はなにを表現しようとしただろう。
絵を描ける人が羨ましい。
本能で色を選んで、
本能で夢中で色を落としていく。
そんな陶酔を味わったことが無い。
いつも自信がなくて。
気持ち悪い絵になっていないかと、いつもビクビクしながら描きあげた絵は、いつも苦役でしか無い産物だった。
あなたは、何故色が見えてる人よりもこんな綺麗な色で絵を作れるの?
その人の声に、喉が嗚咽を漏らしそうに動くのを制しながら、感情を凍らせながら、知らない。おれ、見えてないから。
そう、言うのが精一杯だった。
その人の柔らかい指がそっとほおを撫でていた。
色を見たかったのか、褒められたのが嬉しかったのか。自分の気持ちもわからない。
ただ、泣きたかった。
絵を描ける人が羨ましかった。
世界に、こんな特別な能力を与えられている人がいることが、奇跡としか思えない。
足がない人が、陸上競技のアスリートを嫉ましく思わないように。
翼がない人間が、空を飛ぶ鳥に嫉しさを抱かないように。
私も、色が見える人たち。
絵を描ける人たちを別の世界の人たちのように仰ぎ見た。
ねぇ、枕をさ、食い千切るくらい噛み締めながら、叫ぶように泣いたことはある?
自分の大好きな事で、震える手を抑えながら断罪される声を聞く、血の気の引くような徹夜明けを味わったことがある?
もしかしたら、そこに行けるかもしれないと、微かな希望を抱いたこともある。
今思うのは、全然無理だったなと。
それだけ褒められても。
どんな眼をしてるの?と訊かれても。
僕の茶色がかった弱々しい瞳孔を、綺麗な強い力を持ったその人の瞳で覗き込まれた記憶が、生々しく意味がわからない痛みを伴ってやってきても。
この歳になって、ようやくだ。
もう、絵描きにはなれないんだなぁと。
頽れるような気分で、嘘をつく眼が映す青い空を見上げていた。全部虚構。
こんな僕が、誰かを助けようと偽善を働く。
全部嘘ばかりの屑のような人間が。
偽善でも、誰かの夢を叶えたい。
だめなのか?
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