怪異 六角ナット男
春が過ぎ、日によっては夏の様な夜風も感じる日も多くなってきたこの頃
ある日の丑三つ時、喉が渇き炭酸飲料が飲みたくなった
しかし冷蔵庫を見ても何もなく、丁度飲料という飲料はすべて切らしていた
仕方なく自宅から徒歩5分のコンビニまで行くことにした
自宅を出てすぐ、人通りの少ない路地に出る
その通りは道は細いとはいえ、右には分譲マンション、左はどこかの会社の大きな倉庫の敷地になっている
明かりは街灯だけで夜ともなると薄暗く寂しい通りだ
いつも通る道なのでなんともなくボケーーーーーーーーーーーっと
コンビニ方面へゆらゆらと歩いていた
会社の倉庫へ繋がる門の前、その少し先に電柱があり、電灯の明かりでそこだけが妙に明るくなっているのだが、何故かその下に一人の男が倉庫側を向いて道路を背にして立っていた
その男の側には自転車が一台止めてあった
おそらくはその男の物だろう
男は自転車の周辺をウロウロ
時々、地面を眺めそして顔を上げて辺りの様子を伺ったりしている
えぇ・・・なんかきもいなあ
こんな深夜に何してるんや?
そう思いながらもその男を避ける様に、私は道のマンション側を歩いて通り過ぎた
通り過ぎてからもあまりに不審だった男が気になった
振り返ろうともしたが、やっぱり気持ちが悪かったのでやめた
男のことが頭に過ぎりつつ、いつものコンビニに辿り着いた
そうだ、私は喉が乾いていたのだ
適当に冷蔵庫棚を流し見していると
あ!ゲータレードだ!
おお!ええやんええやん!
でそれを1本買うことにした
レジ、ピー
あ!買い物袋持ってくんの忘れた!
ちっめんどくっさいなあ・・・!もおおお!!
まあペットボトル1本くらいやから今回は許したるけど、もし俺が他に欲しいもんあったらどないしてくれんねん!
クソが!進次郎!お前、絶対許さんから!ぜんぶ晒すから!何で俺から連絡せなあかんねん、ええんやな?
気いつけやほんまに、みんな聞こえますかぁー?え?声聞こえてますかー?はい、それもまたやります、全部言います
と心のなかで怒鳴りつけた
そう、私は最近になってやっとガーシーちゃんねるを見たのだ
そしてまたトボトボと来た道を帰る
あの場所に近づいた
まだ男がいた
さっきと全く同じ動き、顔を地面に近づけたかと思えば辺りを警戒してウロウロしている
ええ・・あのおっさんまだおるやん、きもー
こんな深夜に何してんねん
暗いし、不気味やなー ^^;
しかしなぜか私はその不審者に近づき声を掛けた
「どないしはったんですか?」
近くでみると日に焼けたような浅黒い顔
白目に光る眼光、ますます気色が悪い
すると男はギョロッとした大きな目でこちらを向いてこう答えた
「え・・あ・・いえ、いや、なんでも・・・ああ・・」
なんやこのおっさん・・・やばいなあ・・完全に変なおっさんやん
聞こえてへんかったんか??
「いや、どないしはったんですか??なんか落とし物ですか?」
すると
「え!?あ、いや、あの、あれですわ、あれ。あれあのその~・・・六角!
六角ナット落としたんですわ!」
まあ大体検討はついてたけども、なんや・・・普通やった
けどなんでこんな夜中に?それはまだちょっとキモい
「さっきもずっとなんかしてはりましたよね?こんな夜中に・・・わかりました、ほなまあ、スマホあるしライト付けるんでちょっと探しましょか?」
そう言って、すぐ見つかるだろうと思いライトを付けて地面に目を凝らした
「六角ナットってどんなやつですか?大きさとか色は?」
おっさん「あー六角ナットって分かります?」
分かるわい!
「あ、分かりますよ。ナットでしょ六角の。大きさとか色は?」
「いやライトの、自転車のライトのあれ、あれあるでしょ?あれの部品やと思うんですわ、ナットの、六角ナットなんですわ」
全然こちらの質問に答えてくれない
「自転車のライトが外れたんですか?」
おっさん「あーいや、ライトのかは分からないんですけど、とにかく六角ナットが無いんですわ!」
わからへんのかい!!
なんやねんこのおっさん、もうええわ、めんどくさいし探すふりしてさっさと帰ろ
「うーん・・・この辺も見ました?」(探すふり)
おっさん「そこは見た!そこはもう見たから」
っつ・・・なんやねーん!!
おっさんもう敬語使うの忘れてもうてるやんけ!
わしゃはツレけ?わしゃお前のツレかえ!
「いやーないですねー暗いしまた明るくなってから見たらよろしいんちゃいまs?」
おっさん「ああああああああ!!!あった!!あったあったあったあああああ!これ!!!これですわ!ありました!これですわ!!!」
急に大きい声出すなやボケぇ!!!!
ビックリするやんけ・・・何時や思てんねん、もう深夜2時半過ぎやぞ
あほちゃうかこいつキチガイやろ
「あー良かったですねぇ・・・で、どんな六角ナットやったんすか?」
(それはなんか気になってたから確認した)
おっさんが差し出した手の平を見ると人差し指の先っちょにミニ四駆で使うくらい小さい2mmくらいの六角ナットが乗っていた
「えぇ!?こんなちっさいのよう見つけましたね。どこあったんすか?」(もうどうでもいいけど何となく聞いた)
おっさん「ここっ!!!!ここに!!!ここにあったんですわ!ほんまに!ここにありましたわー!あーよかったー!道の端っこやと思てずっとここ探してたんよ。ほなこーんな道の真ん中に!そない飛ぶとは思いもよらなんだー・・・・あぁあっ」
最後の「あぁあっ」って何?
おっさん特有の語尾につける嗚呼、たまにおるよな
てか、このおっさん
ちっちゃい六角ナット見つかってめちゃテンション上がってもうてるやん
おっさんやのに、深夜やのに、ダイヤの指輪でも、高給ブランド腕時計でもない
ただの六角ナットでめっちゃ声上げてアガってる
おっさんにしてはアガりすぎやろ
恐いねん・・・・w
帰ろ帰ろっ
「よかったですねー、んじゃ私これで」
おっさん「あーほんますんません。いやー助かりましたわ、ほんまありがとうおおきにね。おおきに。」
なんも助けてへん
”おっさんが物無くして自分で勝手に見つけた祭り”見せられただけや
ゲータレードちょっとぬるなってもうたやん・・・あーあ
実はこの話にはまだ続きがある
次の日だった
黄昏時、自宅へ帰る途中、同じ場所でまーたあのおっさんが居た
動き方も夜中と全く同じ
落とし物を探している様な、周囲を警戒している様な・・・。
さすがに不審者かも?と思ったので、一応いつものコンビニの若い女性店員に噂話のように教えてあげた
「ここの裏手の通りあるじゃないですか?あそこに最近変なおっちゃんいるらしいんで、気をつけた方がいいかもです」
女性店員「え?」
「昨日の夜中も知り合いが全く同じ場所で見かけたらしいんですけど、変なおっちゃんがずっとおるらしいんですわ、なんか落とし物を探してる風で、よくわからないんですけど、さっきもそのおっちゃんちょっとだけ見ちゃって・・・、いや、けど見た様な気がしただけかもしれません。気のせいかも・・・とにかく変なおっちゃん出没するらしいんで気をつけてくださいねー」
マスク越しだったが女性店員は少し怯えたような怪訝な表情を浮かべていた
この頃はインターネッツという情報化社会のやつせいで何でもかんでも大ぴらになるらしい
しかし今でもこうして地域に残る変な話のやつやら怪談のやつが残るやつのやつだ
ちなみに
何故かゲータレードと勘違いして買っていたのはライフガードだった
ゲータレードはもう日本では販売していないし抑々炭酸飲料でもない
今一番飲みたいのはアンバサだ
おしまい
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