覚え書き 21情緒不安定
愛犬を失う前から、すでに情緒不安定。
食べる気もない。自力で水を飲む様子が見られない。
もう数えるばかりしか生きられないとわかる。
わかっていても持ち直して欲しい。
犬はぐったりしたまま。
いきなり凶暴な思いに駆られて、うちの犬が亡くなってしまうなら、この世の全ての犬も一緒に亡くなってしまえ、って思う。
1秒後、そんな不遜で不吉なことを考えた自分に嫌気がさして、ごめんなさい、ごめんなさい、この世の全ての犬が健やかで長生きができますように、と祈る。この世の全ての犬に謝る。
多分もうそんなに待ってはくれない。
冷静な自分と、情緒不安定な自分。
以前、もし愛犬が亡くなったら、畑に条例規定の墓を掘ってそこに葬りたい。樹を植えたい、とツレアイが言っていた。穴を掘って置いた方がいいのか、と、ツレアイに問いかけたい自分。
そんなことを聞いて愛犬の死期が早まったらどうしよう、と、言葉にできない自分。
愛犬が亡くなって、ようやく相談ができる。相談しながら最寄りのペットの火葬場をネットで調べる。
土葬にするから、と、ツレアイが言う。
検索、削除。
検索履歴も削除する。
相当深く掘らなければいけないから、手伝うよ。と伝えると、ツレアイは一人で大丈夫、犬のためだから。だから、ワタシはそれまで犬についててあげて、って言ってくれる。
待っててね、ちょっと行ってくる、って声かけてお墓掘る手伝いをするつもりだったけど、ツレアイの言葉に甘える。おかけで、最後の最後は愛犬にお留守番させずに済んでよかった。
さ、行こう、おそと大好きだね、って、ツレアイと二入で犬を土葬する。
すごく深く掘ってくれてありがとう。一人で大変だったね。
犬を横たえて、オヤツを入れてあげよう、とツレアイが言う。
そうだね。
うっかりしてた。気が付かなかった。
すごくいいこと言う。
大好きな骨型のガムも、ドッグフードも入れてあげなきゃ。
ツレアイと二人で土をかける。
秋になったら、桜を植える、ってツレアイが言う。
お水だよ、って、お墓にお水をかける。
喉が乾いたよね。
ワタシはどちらかというとスピリチュアルなものを信じている。
だから、遺体は抜け殻だっていう思いがある。
乱雑に不敬に扱っていいという意味ではなく、芯にあった本質的な存在はどこかに行ってしまったという気持ちが強い。
それでも、火葬ではなくて、土葬にしてもらってよかった。
愛犬がいなくて、すごく苦しい時、そこに愛犬が安らかに横たわっている、と思うと、少しほっとする。もちろん腐敗、とか、分解してとか承知している。でも、ワタシの心のイメージは最後に見た眠るように横たわる愛犬の姿だもの。
呼吸を荒くして愛犬の墓の前に佇む。
気持ちが少し安らぐまで、強い日差しと蝉の声の中にいる。
二日が過ぎて、目に飛び込む筆で伸ばしてような雲のある八月の空がやたらに蒼く美しい。
くそ
うちの犬がいなくなったんだよ。
そんな綺麗な空を見せつけるな。
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