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僕は自転車で旅をする59

たんぽぽとシロツメクサと、シロツメクサの赤いヤツを見かけたら、花を摘もう。シロツメクサの赤いヤツは、アカツメクサとかムラサキツメクサっていう。ぼくは知ってる。母がスマホで調べてくれたから。誰にいうわけでもないけど、けっこうそんなこと知ってんじゃん、な自分にぼくは気を良くする。
 母と明日香と散歩してた頃、薔薇が綺麗だね、という母に、薔薇を取ってあげたくて手を伸ばした。
 ダメダメ、慌てて母がぼくを止める。
 ほら、コウちゃん、ここはヒトのおうち。ヒトのお庭のお花はとっちゃだめ。それに、薔薇には棘があるの。刺すと痛いよ。すごーく。
 ヒトのお庭の花は取らない。
 薔薇には棘がある。
 公園の花壇を見つけて母に聞く。
 ここの花はいいの?
 公園の花壇の花も撮っちゃダメ。
 山で見つけた花をお土産にしたいと思った時にも、ぼくは取っていい花とダメな花があるのを知っていたから、取っていい?とじいちゃんに聞けた。
 山の花はとっちゃダメ。
 山のモノは何もとっちゃダメ。撮っていいのは写真だけ、と、じいちゃんは笑った。
 野原なら大丈夫。
 川の両側の草地とか。公園の端にある木の生えてるところとか。
 幼稚園の時は園庭の端っこも大丈夫。
 母が嬉しい顔をするのはたんぽぽ シロツメクサ アカツメクサ つくしはいっぱいだとちょっと困った眉になる。だから、つくしは取ってもちょっとだけ。イチョウの葉っぱも紅葉の葉っぱもドングリも、少しだけ。
 白い小さな花が咲くハルジオンもヒメジョオンは、なぜかあんまり嬉しそうじゃない。
 母が好きな花は向日葵。
 だから夏の散歩で、向日葵を見つけると、明日香とぼくは、母にほら向日葵があるよ、向日葵があるよ、と競うように教えた。
 母が向日葵が好きなのは、太陽に向かって胸を張って咲いてるからな。たまに、俯いてるのもあるけどね。
 色々知ってるんだ。言うと馬鹿にされるだろうけど、知っているのは、全部ぼくにとって大切なこと。
 そんなことを毎回思い出しつつ、でも、ちゃんと周りにも目を配って注意して乗る自転車は楽しい。
 母が嬉しい顔をするのが見たくて、たんほほとシロツメクサがあると、摘む。ハルジオンとヒメジョオンはダメ。母を喜ばせる大事なことを知ってて良かった。
 母はぼくが花を持って帰ると、コウちゃん、ありがと、って言って100円ショップで買ったガラスの花瓶に入れてくれる。これはぼくが初めて幼稚園で花を摘んで母に渡した時、真っ直ぐ家に帰らずにその足で100円ショップに寄って母が買ったモノだ。
 母が喜ぶのが嬉しかった。
 もしかすると、母が喜んでくれるのだから、たんぽぽとシロツメクサなら、他の人も喜んでくれるのではないかな。ばあちゃんはダメだけど。でも、もし、ぼくが摘んできたってわからなかったら、たんぽぽとシロツメクサは、アカツメクサもね、、誰かを喜ばせるこたができるんじゃないかな。ぼくは自転車で出かけるたびに、そんなのとを考えるようになった。

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