覚え書き(16)片想い
娘が好き。
多分娘も母として私が好き。
だから、彼女にとって大切だった、してほしかったことを、条件無しで受け入れなかった私を恨んでいる。娘の頼みを、私としてはさほど大切とは思わず、断る結果になったことを根に持っている。
お母さんは何もしてくれない
そう言って帰っていった娘。
小さな頃に愛されていることを背景に
お母さん嫌い
を、母を傷つける最大の武器に使った娘。
久しぶりに母は傷ついたよ。
寝坊な私が実家であなたを起こし続けたことも、お弁当を作ったことも、部下での応援に行ったことも、パウンドケーキを焼いて一人暮らしのあなたを心配して送ったことも、なにもかも、娘とわたしの間にあった直近の記憶でブラッシュアップされた今、〈なにもしてくれない母〉として、私は娘に認識されている。
わたしはあなたのことがすごく好きなのだけど、自分のことがあもっと好き。それが原因なのはわかっている。自分の基準で、動いてしまうから。
ちょうどわたしにとって大事にしている仕事の時期と重なってしまって、その時期じゃなければ大丈夫としか言えなかったの。
正社員のあなたにとって、たかが時給千円のパートの仕事で、って遠回しに言われたね。
あの時期じゃなければ。
あの年じゃなければ。
でも、わたしの優先順位とあなたの優先順位は確かに違った。
だからもう、あなたは、わたしを頼らない、当てにしない、って宣言したのね。
帰る時間を教えてもらっていたら、例えばキッシュとか、例えばアップルパイとか、あなたはあなたの家族と車できたのだもの、何か持って行ける物を作ったのに、と、言った私に、
お母さんは何もしてくれない
と言葉を刺してきた。
それでもなけなしの現金を帰省の交通費として用意したよ。
離れたところで苦労しているあなたを手伝いに行けなくてごめんよ。
あなたにそう言わせた私たちの間にある齟齬だって、わたしにもう少し経済力があれば問題なくクリアしていたんだろうな。大人の問題は本当にお金さえあれば解決するしてるね。
用意した交通費だって大した額じゃない。それでもこのお金があったら、母は色々助かるんだけどな。買い物好きには、毎月毎月、前月の自分の尻拭いが待ち受けている。
渡したところで、帰省の費用にも足りないそんな金額。それでも、気持ちだから、って、用意したの。お金ないなぁ、ってしょぼくれる自分を自分で叱って。
帰ってきてくれてありがとね。
また、来てね。
正社員様には端金みたいな額なのに、そんな額で気持ちを込められるお金も、荷が重いよね。
旦那さんに渡すね。
そんなことしかできないのよ。
やっぱりあなたのことが好きだから。
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