覚え書き 22 奇跡

 それまでヨチヨチながら歩いていた愛犬が、全く起き上がれなくなった土曜日
 ワタシは自分の欲を捨てきれずに、元々の予定をキャンセルせずに出掛けてしまう。
 待っててね、とお願いした愛犬はワタシの帰りを待っててくれた。

 日曜日 この日は珍しく家業が休みで、ツレアイが夜も家にいる。二人で夕食をとっている際中、そばで寝ていた愛犬が発作を起こしたように痙攣を始める。
 二人で愛犬の名前を呼びながら身体をさする。愛犬の痙攣が治る。
 後日ツレアイは、家業がいつも通りあって、愛犬のそばに誰もいなければ、あの時に愛犬は逝ってしまったと思う。二人で連れ戻したと思った、と、ワタシに言った。

 月曜日。パートの仕事の日。
 待っててね、と声をかけた愛犬はパートも家業の手伝いもワタシの帰りを待っててくれる。
 
 この日は心配で、これからは寝る時にはずっと犬のそばにいよう、と決める。
 2時過ぎ、3時を回ったか時計も確かめられないくらい眠たくて、愛犬の身体に頭をくっつけて眠る。
 元気な時は、ワタシの姿が見えないと、探してきてくれた愛犬だから。
 寂しくないよ。一緒にいるよ。くっついているよ、って声をかけて。

 明け方5時。
 不意に目醒める。
 愛犬の苦しい息が聞こえない。
 ワタシが眠っている間に行ってしまった。
 ワタシに最後の姿をみせないよう、多分ワタシに引き止められないように、静かに息を引き取った。

 ツレアイを呼ぶ。

 窓の外はいきなりのどしゃぶり。
 久々の雨。
 愛犬が、土を掘りやすくしてくれたとツレアイが言う。

火曜日
 本当はパートの仕事があった日が、この日はたまたまキャンセル。
 代わりに家業が昼にちょっと入ったけど、ちょっとだけなら待てるよね。
 よかった、パートが休みで。
 本当によかった、
 今日は愛犬に、愛犬の身体に寄り添っていてあげられる、と、ほっとする。

 前日が春に亡くなった義父の誕生日。
 愛犬が苦しまないよう迎えに来てくれたんだろうか。

 
 早朝の雨が嘘のような、好天。
 まだ暑い昼下がり、愛犬の身体をお墓に横たえる。

 一人で深く深く土を掘るのは大変な仕事だったと思う。
 これで、夜家業があったら、ツレアイの体力的にきつかったかのではないだろうか。
 この日は昼に家業があったので、夜はツレアイが家にいる。早めにシャワーを浴びて身体を休めることができた。

 小さな小さな偶々(たまたま)の積み重ね。
 ツレアイとワタシは、これを愛犬のくれた奇跡だと信じて疑わない。

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