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DVD『MULTI MAX CONCERT TOUR 1994 Well,Well,Well』レビュー

 会場の異様な熱気とMULTI MAX3人の勢い。若さと圧倒的なエネルギーが充満するステージがそこにあった。

 それもそのはず。
 1994年のMULTI MAXは、全国的に見ても、まさに旬のアーティストだったのだ。
 チャゲアスブームの真っ最中。MULTI MAXも、ヒット曲を連発していた。

 この年発売したシングル「愛の空で」は、オリコン最高10位、アルバム『Well,Well,Well』も、オリコン最高10位を記録。チャゲアスとして発売したシングル2枚はともにミリオンセラーとなり、CHAGE初の単行本『月が言い訳してる』は、書籍として週間最高2位を記録した。

 売れ始めて勢いがついた旬のアーティストは、とてつもない熱気と勢いを帯びている。

 当時のMULTI MAXは、武道館を満員にできる人気なのに、この日の会場は、あえてライブハウス。オールスタンディングで、最初から会場の誰もがエンジン全開である。
 オープニングの後の「Well,Well,Well」1曲だけで、存分に熱狂が味わえる。MULTI MAX最大のヒット曲「勇気の言葉」では、それ以上の盛り上がりだ。

 聴いていて特に感じるMULTI MAXの魅力は、何と言っても個性的な3人の声が織りなすハーモニーだ。
 MULTI MAXは、男性有数の透き通った高音から哀愁を帯びた低音まで音域が広いCHAGE、甘く透き通っていながらパンチが効いた美声を持つ浅井ひろみと、ハスキーで太く温かみがあるなまり声の村上啓介。
 他に似た歌声のアーティストがいない3人が揃ったハーモニーは、音楽に厚みと輝きをもたらしている。

 男性2人のチャゲアスではできないことを男性2人女性1人の3人で構成するMULTI MAXで実現させたのだ。

 さらに、チャゲアスでできない音楽と言えば、音楽でふざけ倒すほど遊ぶ楽曲の数々である。
 このライブでも披露している「SO SO」や「いいんじゃないのォ」、「I CAN’T STOP EATING ~食わずにはいられない~」、「愛がお前をすくい投げ」などは、チャゲアスでやろうとすれば、周囲からストップがかかりそうな楽曲だ。

 だが、音楽で遊ぶMULTI MAXであれば、自由に作って、自由に披露できる。
 そんな遊び心満載のバンドMULTI MAXは、CHAGEのラジオリスナーを中心に熱狂的な人気を誇った。 

 そして、このライブ映像作品で私が最も注目していたのは「KIGEN GA WARUINO」だ。
 「KIGEN GA WARUINO」は、MULTI MAXファンなら、記憶に残っているだろう。
 この川崎ライブ音源がアルバム『Oki!doki!』に収録されていたからだ。
 まさか、その映像が残っていて、デビュー30周年に視聴できるとは思ってもみなかった。

 驚きは、それだけではない。CHAGEが椅子に座って、サングラスを外し、煙草を吸いながら歌っている。私の想像では、普通にギターをぶら下げ、立って歌う普通の姿だったから、衝撃も大きい。
 CHAGEは、落ち着いた大人の雰囲気を作り出しながら、一気に切なく寂しい夜の風景に同化し、会場全体をブルースの世界に引き込む。
 CHAGEの憂いを帯びた歌声は、後悔と嫉妬と儚い希望が入り混じった複雑な感情を巧みに表現し、退廃的で淋しい世界を絶妙に生み出す。

 さらに、切ない歌声が光る「MILKY WAY BLUES」では、ピアノやギターがソロ演奏の見せ場を作り、彼らの音楽性の高さも見せつけていく。ライブが進むにつれ、MULTI MAXをサポートするミュージシャンも、一流が揃っていることに気づかされる。

 そして、J-POPにヒップホップを組み込んだ、当時としては革新的なヒット曲「愛の空で」から、終盤に向けて再び熱狂に巻き込んでいく。
「愛がお前をすくい投げ」ではCHAGEのボーカルが冴えわたり、「WORKING」では村上啓介のボーカルが冴えわたる。そして、「DEEP」では、浅井ひろみのボーカルが冴えわたるのだ。

 MULTIMAXは、メンバー3人員が誰でもメインボーカルをとれるグループなのだと再認識させられる。

 そして、仕上げは、本編ラストの「組曲WANDERING」とアンコールの「WINDY ROAD」。
 3人がそれぞれメインボーカルをとった3曲のあと、3人が入れ替わりながらメインボーカルをとる「組曲WANDERING」が来て、手の込んだライブ構成にうならされる。

 アンコールの「WINDY ROAD」は、当時から紙飛行機が飛び交い、ライブを締める定番曲。遠くの景色や未来を愛情で満たしながら、爽やかな風を感じるこの曲は、終わった後に残る余韻がとても心地良い。

 このライブの前半、CHAGEは、MCで
「マルチのライブはすごい、というのを見せつけてあげないとな」
と観客に語りかける。
 ライブを観終わった今、私は、まさにあの言葉どおりのライブだったと実感せざるをえない。
 この日のMULTI MAXは、確かに旬のアーティストだけが持ちうる特別なオーラをまとっていた。


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