ASKA「cry」レビュー ~これ以上泣けない極限の表現力~

 ASKA初の自選ベストアルバム『Made in ASKA』。

 私が最も楽しみにしていたのは、CD初収録となるASKA版「cry」だ。

 私と同様、待ち望んだファンは多く、e-onkyo musicの配信ランキングでは1位を獲得。

 私は、コンサートツアー『My Game is ASKA』で「cry」にはまって以来、ずっとCD化を待ち望んでいた。
 「cry」は、2000年のASKA全国ツアー『GOOD TIME』、2005年から2006年にかけてのASKA全国ツアー『My Game is ASKA』、さらには、2010年のASKA『東京厚生年金会館~10DAYS SPECIAL~』ライブでも披露された。

 10DAYSバージョンの「cry」は、聴いたことがないが、『My Game is ASKA』バージョンが素晴らしかっただけに、『Made in ASKA』バージョンにかける期待は、非常に大きかった。

 そして、実際CDとなった『Made in ASKA』バージョンの「cry」。
 期待以上の出来栄えである。

 「cry」は、歳月と共にどんどん進化している。今回の「cry」も、やはり過去最高だ。

 歌い方やアレンジも、原曲の頃と大きく変わってきている。中でも、私が最も注目したのは、大サビのラストである。

 原曲の大サビのラストはこれ。
「死ぬほど泣いても 生きていた」

 何度もサビで繰り返し歌ってきたフレーズだ。黒田有紀バージョンやASKAライブ初期バージョンは、これだった。歌詞カードは、今もそうなっている。

 しかし、『My Game is ASKA』バージョンでは、大サビのラストのメロディーと詞を変えてきた。
「死ぬほど泣いて泣いても 生きていた」 
 このたった3文字の詞の追加により、メロディーが大きく変わり、楽曲全体の印象さえも大きく変わった。

 原曲で既に女主人公は、大きな失恋で傷つき、涙が枯れるまで泣いていた。
 それなのに、涙が枯れてもまだ泣き続ける苦しさをさらに3文字加えてこれ以上泣けないところまで高めたのだ。

 私は、てっきりこのバージョンで『Made in ASKA』に収録されると思っていたので、『Made in ASKA』バージョンを聴いたとき、大きな衝撃を受けた。
「泣いて泣いて泣いても 生きていた」
に大サビのラストが変わっていたから。
 
 この楽曲は、サビで「死ぬほど泣いても」を最後まで繰り返す歌唱により、極限の苦しみを表現していた。
 そこから、もっと上の表現を追求してラストが「死ぬほど泣いて泣いても」になり、さらにもっともっと上の表現を追求して「泣いて泣いて泣いても」にたどり着いた。

 最もシンプルな表現にたどり着いたにも関わらず、最も心に響くようになった。

 楽曲は、ほんの少し表現を変えるだけで、印象が大きく変わる。

 ASKAは、楽曲の細部にまでメロディー、詞、歌唱において、繊細なこだわりを見せる。
 だから、聴いていると楽曲の世界にのめり込むように入っていけるし、各場面の情景が鮮明に浮かんでくる。

 今後、ASKAが「cry」の大サビのラストをどのように歌っていくか、楽しみで仕方ない。

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