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【講演記録】第3回「10日間で作文を上手にする方法」(Part4-15:書き起こされた会話)いぬのせなか座連続講座=言語表現を酷使する(ための)レイアウト

承前

2-4.理科:認知され、テキストデータになる身体

私のメディウム、息つぎするたびに砂に溶けてくような生き方

山本くんのいう〈作者〉は僕の語彙だと〈部屋〉だろう。あるいは法人、家、館。志向を持ったチームを名指す複数形の名詞。デュシャンを読んだ荒川が、「とりあえず、“作者”とは一個人の空間の意味であるといおう」と書いたのを受け、「デュシャンはVRコンテンツを制作したいと思うか?」と考えることは示唆に富む。彼はチェスのプロゲーマーになりたかったと再解釈するということ。
 明滅する群体としての〈作者〉は、コンテンツ産業のデータ流通構造をアップサイクルに描写したときの「喩」である。音声認識、物体認識がその要素技術として提案される。「喩」を数理化することは有用だ。可塑性を残したまま、曖昧性を取り除けるから。実際に計算を終える必要はなく、計算できると証明できれば事足りる。
 美術館ネットワークを分析した例がある。距離と配置の表現。高品質なデータセットがあれば、同じことは〈作者〉にもできる。これを踏まえた問い。〈作者〉は「何を」書くべきか。答えはひとそれぞれだとして、その総体たる「何を」はどんな形をしているか。

1.「制作的空間と言語―「あそこに私がいる」で編まれた共同体の設計にむけて」からの引用

〈作者〉とは、すなわちデュシャンが大量生産品に見出したような、毎秒失われていく同一性に伴う《空間の意味》である。それを踏まえて考えれば、「作者が死に続けるのなら、誰がそれを新たに作るのか?」という問いは、すなわち「私が私であること」における自己同一性の問題に近づきます。もちろんそれは、先ほど特権的な画家を否定したように、単純な個人の自己認識の問題ではない。事物の知覚に伴う遠近法=〈作者〉らがどのように関係していくのか、その接続の動きの内部に働く法則性を、やはり問うている。その上で、この私においてそのような〈作者〉間の持続的関係が容易に生じてしまうこと、あるいはそれが物質的死によって断絶される可能性があること、が議論の焦点になっている。これがまさに、荒川における不死への試みの端緒である。
――山本浩貴「制作的空間と言語「あそこに私がいる」で編まれた共同体の設計にむけて」(エクリ, 2018/12/13)

2.「私的なものへの配慮No.3」からの引用

そのとき僕たちが読み、書くことは、日々を寝起きし、暮らすことそのものの輪郭とぶつかり、重なり、溶け込むだろう。自動車は管制通信に溺れながら、三次元地図と高解像度気象情報を盲目の潜水夫みたいに読み耽るだろう。あなたの絶え間ない私生活を撮りためた分電盤が、深夜の長電話みたいに途切れない独り言を、外気圏で泳ぎまわる無数の小型衛星めがけて吐きだすだろう。その独り言はかつて群生した消費行動の圧縮-抽出器が、無毛の仮想人種を育てた宙空の地下室へ書き送られるだろう。地理空間と識別番号はその積層と残滓を部屋中の画面に知らせるだろう。どの画面もひっきりなしに視聴者を更新し、錆び付いた新聞紙の鉱山みたいに積みあがった広告在庫を、不眠不休の不正検知器が飽きあきした顔で眺めるだろう。
――笠井康平『私的なものへの配慮No.3』(いぬのせなか座, 2018/5/6)

3.美術館ネットワーク分析

人間の活動が行われる領域では、資源や報酬へのアクセスを決定づけるのに、ある客観的な流行や評判、影響関係が鍵となる役割を演じたことを測定するのは難しいことです。それらの要因の役割を理解するために、私たちは50万人の芸術家の展覧会の歴史を再構築し、美術館と美術館の間の芸術運動を捉えた、共通-展示(co-exhibition)のネットワークを図示しました。このネットワークの中心性は美術館の名声を捉えており、私たちは「念願の美術館に辿りつく」という観点で、芸術家個々人のキャリアの軌跡を探求できるようになりました。名声ある中心的な美術館に早く辿りつければ、長きに渡って高名な舞台にアクセスでき、離脱率も下がります。対照的に、ネットワークの周辺から出発すると、離脱率が高まり、中央の美術館へのアクセスは限られるという結果になりました。マルコフモデルで、芸術家個々人のキャリアの軌跡を予測したほか、芸術の評価における「有力な道筋」と「過去への依存」についても文書化しています。
――サミュエル・P・フライバーガー・他「芸術の名声と成功を測定する」(アメリカ科学振興協会「サイエンス」, 2018/12/08, 私訳)

4.〈作者〉を認識するための要素技術

音声分析は、音声から音声認識に必要な特徴量を抽出する処理です.特徴量抽出の役割は大きく分けて2つあります。1つは計算資源の節約です.生のデータは多くの場合そのまま扱うには多くの計算資源が必要です.特徴抽出を行い,必要な情報を絞ることで,記憶領域は小さくなり,また,計算も速くなります.もう1つは,ノイズ(雑音)の除去です.応用を特定した場合,その応用に関係ないデータの変動はノイズとなります.例えば音声の認識では音韻性を表す特徴は重要ですが,話者性を表す特徴はノイズです.ノイズを除去することにより,認識の精度が高くなります.」
――篠田浩一『機械学習プロフェッショナルシリーズ 音声認識』(講談社、2017/12/7)
 このモデルは主に2つのコンポーネントで構成されています.1つ目は説明文とOCRで検出した単語の関連度を推定するtext2ocrモジュールです.ニューラルネットワークを用いて説明文とOCRで検出した単語群をそれぞれ特徴ベクトルに変換し、その距離を計算します.距離が近いほど関連度が高いとみなします.[…]具体的には図のように各単語をword2vecを用いたベクトル表現にします.次に説明文とOCRで検出した単語ベクトルの内積を計算し、OCRで検出した単語ごとに和をとります.最後にsoftmaxをとり単語ごとの重みとします.このとき単語のベクトル表現の重み付き和をOCR結果の特徴ベクトルとしています.
 text2imgモジュールでは説明文と広告画像の視覚的な特徴から関連度を推定します.説明文はtext2ocrモジュールと同様CNNで特徴ベクトルに変換します.画像特徴抽出にはFaster RCNNを使います.Faster RCNNで複数の画像領域から特徴ベクトルを抽出し、説明文を使って領域ごとのattentionを計算しています.今回はattentionを使った画像領域の重み付き和を広告画像の視覚的な特徴としています.
――大谷まゆ「[CVPR Workshop] Automatic Understanding of Visual Advertisementsコンペティション解説」(サイバーエージェント, 2018/12/14)

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