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犬のピピの話 317 勝手口のドアのもんだい

 そんな散歩のあと、うちで夕ご飯をたべたあと、ピピが居間にいる夜のあいだ、台所のわきにある勝手口のドアは、ずっと細く開けてあります。
それは、ピピがおしっこに行きたくなったとき、いつでも外に出られるようにするためです。

ある晩、ピピは、いつものように居間ですごし、いつものように爪音高く、木の床を
ちゃかちゃか、ちゃかちゃか、ちゃかちゃかちゃか!
と歩き回ったあとで、この、勝手口のドアの前に立ちました。
そして、ドアのすき間の闇に顔を向けたまま、静かに立っています。

そのうしろ姿は、それまでのお調子者の、おどけたピピとはまるで違って
しん
と、真摯(しんし)にしずまりかえっています。
「あら、うまちゃん。寝に行くのかい?」
 わたしは、ほとんど冗談のつもりで、大きくドアを押し開けてやりました。

ピピの前には、蚊よけランプのオレンジ色のひかりに
ぽうっ
と照らされて、ピピの寝箱が、黒い闇の中によこたわっています。
箱には、そのとがった角をくるむように、わざとあふれるように、ピンクの毛布がふんわりとしかれています。
その箱までは、台所のあかりに四角くひかるコンクリートのふみ段をおりたら、ひとっとびです・・

でも、ピピはいつも、居間を出るのをいやがるのでした。
みんなと、一緒にいたいのです。


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