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101号室 アサラトと電光掲示板

2020/05/14

最近、アサラトを練習している。ずいぶん前に寺町のコイズミ楽器で買ったのをほっぽりだしていた。20cmの縄の両端に直径5cmの球が結いつけられているだけの素朴な楽器だ。2つ1組をそれぞれ左右の手に持って振り回す。うまくやるとポコポコとリズムを刻むことができる。隙間時間の手遊びにちょうどよく、楽器というよりもヨーヨーやけん玉の楽しさがある。コロコロコミックがプロデュースすれば小学生に流行る。ハイパーアサラト。名前もかっこいい。

というわけなのでここのところは家に籠もって机に向かい、合間合間にポコポコ刻んでは仕事をやり過ごす日々を過ごしている。二日に一度はライフに行き、出来合いの惣菜、それに冷凍食品、野菜や肉を買う。惣菜は今晩の分で、冷食は明日の昼、野菜や肉は晩ごはんの材料で明後日の昼食も兼ねている。ここに絵を描く、楽器を弾く、セラムンを観るなどを乗っけて二日間で一周する。今晩は加えて蜂クリのツイキャス(ラジオみたいなもの)を聴いた。普段通りの二人なのだけれど姿が見えない状態で聴くと新鮮だ。ラジオの距離感ってあるなあ。友人が喋っていても芸能人が喋っていても、僕からの距離はたいして変わらずカーテンの向こうの知り合いの会話のようだ。

二人は散歩の話をしていた。僕は夜に散歩することが多い。好きなのは自然より建物が多いところ。ベランダに打ち捨てられた遊具やコンテナ、干しっぱなしの洗濯物、キッチンのカーテン越しにちらと覗く室内の様子、よその人の暮らしを想像しながら歩くのは楽しい。深夜に歩けば真っ暗な家の中で人々が寝静まっている様子を思い浮かべる。ずっと広がる家々の一つ一つに人が寝ているのを考えるとこわくなるが、ぷかぷかと浮かぶ人と人との隙間を縫って夜の街をうろつくのは愉快でもある。

晩ごはんに焼きそばを作って食べ終わるとアイスが欲しくなった。みなみさんと散歩に出かけて帰りにファミマで「たべる牧場いちご」を買い、外の方が気持ちがよさそうだったので近所の公園に座って食べた。公園には縄跳びやランニング、ダンスの練習など身体を動かしている人がたくさんいた。身体を動かすと生き生きとした気持ちで満たされるんだろうなと考えながらじっとアイスを食べた。少しベンチにこぼした。アイスにはまだちょっと肌寒かった。

犬待荘の部屋に戻り日課のドローイング。ほとんど「同じこと」を繰り返しながら少しずつよく描ければ、、と思っていてもつい「違うこと」をやりたくなる。他人の創作物から刺激を受けたあとなんかは特にそう。一気に進めてやろうと欲をかいてしまう。うまくいかないので描くのを諦め、アサラトをポコポコやっているとガラガラガラと二階の窓が開く音がした。きっと蜂本さんがポコポコの正体を確かめようとしているんだろう。

(みそみそ・そ)

5月中旬になろうとしているのに、まだ花粉症がひどい。最近気温が上がってきたせいでずっと窓を開けているからかな。窓を開けていると、花粉を運ぶ風とともに周りの生活音も運ばれてくる。クリタ氏が庭で洗濯物をバシバシと干している音とか、自転車に乗って通りがかった人の歌声とか。そういう音はわりと好きだ。みんなそれぞれ平穏に暮らせている、と確認できるからなのか知らないが安心する。

今夜も窓を開けていたら、隣からかすかに話し声が聞こえてきた。そういえば蜂本さんとクリタ氏がツイキャスやるって言ってはったわと思い出し、スマホで聴き始めた。2人ともそれぞれの部屋でツイキャスに参加していたようで、物理的距離はとても近いのにネットワーク上で少し時差ができていた。おそらく至近距離でキャス主1、キャス主2、リスナーを頂点とするツイキャストライアングルが発生したので時空が歪んだのかもしれない。散歩の話を聴いていたら外に出たくなったので、ツイキャスが終わった後に草平さんと近所を散歩した。

夜の散歩は特に好きだ。暗い道から家の灯りを眺めると、自分以外にもちゃんと生活している人が存在していることにまず安堵する。それから、家の外観などをヒントにその人の家の中を想像する。そして実際のところどうなのかとお宅訪問したくなるのだけど、この願望は一生実現できそうにないなと現実に帰るという一連の流れを今日もたどりながらふらふら歩いた。途中、電光掲示板上で可能なすべてのエフェクトを詰め込んだような電光掲示板を美容院の横に見つけ、目を引かれた。「シャンプー」がヒュンヒュン回りながら現れたり、「営業時間」がじわっと現れたりしていた。エフェクトの種類だけではなく、情報量も多かった。メニュー、料金、お悩み別のおすすめ、取り扱い商品など、これでもかと情報が詰め込まれていた。泡の絵もドットで表現されていた。1周終わるまで見ようとその場で立ち止まっていたら、結局10分ほどかかった。電光掲示板の文字って誰がどうやって設定するんやろねと言いながら帰った。

(みそみそ・み)

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