初めていきなりステーキに行った時の話(グロ注意)
僕が初めていきなりステーキに行った時の話を書きます。
6月19日の土曜日、シンプルに「肉が食べたい」と思い、そう言えばいきなりステーキに行ったことがなかったなと思い、人生で初めていきなりステーキに行くことにした。
いきなりステーキの入り口には赤と白の2つの人形が置いてあり、何か訳があるのかなと思ったが、肉を食べることには関係がないと思ってスルーし、店内に入った。
「いらっしゃいませ。」
気持ちの良い挨拶で僕を迎えてくれた店員さん。僕は気分が良くなった。軽快で元気の良い挨拶とは良いものだ。彼に案内され、席へと向かった。
席に座ってふと窓の外を見ると、体長が2mくらいの真っ白で細長い輪郭のぼんやりとした生物が空中を浮遊しており、あれ、僕の目がおかしくなったかなと一瞬考えたが、無視してメニューに目を通し、ステーキを注文した。
ステーキが運ばれてくるのを待つ間、店内で騒いでいる男子高校生のグループを観察していた。
「おれ800g注文したろ!」
「絶対映えるやん!」
無邪気な高校生の姿に心が洗われる。人生の主人公は間違いなく君たちだ。僕は、もう……。 そう思うと自分の指先から徐々に光の粒へと変化し、空気中に溶け出して消えていくような感覚に囚われる。無邪気とは良いものだ。改めてそう思った。
「お待たせしました!」
店員さんの声が聞こえ、自分の席にステーキらしきものが運ばれてくるのが見て取れた。
しかし、何かがおかしい。違和感を覚えた。
鉄板の上にあるはずの肉が無いのだ。しかも、肉が無いだけではない。鉄板の上には3本の小さな塩の柱が立っていたのである。
「あの、これ……。」
確認しようとしたが店員さんはもういない。キッチンに戻ってしまったようだ。
一人、塩の柱と向き合う。何かのメッセージだろうか。何の意味が込められているのだろうか。いや、待て。自分は肉を食べに来たのだ。決して塩の柱を見るためにいきなりステーキに来た訳ではない。ここで抗議の声を上げても問題がないはずである。塩の柱との睨めっこなどまっぴらだ。
「すみません!」
出来るだけ大きな声で、店員さんを呼ぶ。しかし応答がない。
「すみません!!」
やはり応答がない。何かがおかしい。
そう思い、僕はキッチンの中を確認することにした。席を立ち、キッチンへと向かう。
不自然なまでの静寂。ここまで静かな飲食店がかつてあっただろうか。いや、ないだろう。飲食店とはある程度騒がしくて然るべきものだ。しかし、誰の声も聞こえない。キッチンへと歩いて向かう途中、静寂から来る何とも形容し難い不安感に襲われたが、恐る恐るキッチンを覗き見た。
衝撃を受けた。ヤギがいる。
身長2.5mはあろうかという巨体から、虫のような細長い手足を四方に伸ばした、異形のヤギがそこにいた。
そして、ヤギがフランスパンのようなものを食べていた。
違う。すぐに気づいた。フランスパンなどではない。人間の脚を食っているのである。あちらこちらに血しぶきが飛び、人の声は一切聞こえない。どうやら、店員は全員この異形のヤギによって命を奪われ、帰らぬ者となってしまったようだ。
ぎょっとして、動けなくなる。背筋を寒気が伝い、顔に油汗をかいているのが分かる。逃げなければならない。それは分かっていた。しかし、動けない。体が動いてくれない。
しばらくすると、ヤギがゆっくりとこちらを振り向く。目が合った。縦に伸びた虹彩が何とも不気味で、体は硬直したように全く動かない。
異形のヤギは私の目を見て
「evil......」
と呟いた。
記憶はそこで途絶えている。一瞬で視界が真っ黒になり、意識が遠ざかるのが分かった。僕は終わった。僕は死ぬんだ。そんなことを考えながら気を失った。