ドックンダッタ。

 ドックンダッタ、偏見と希望の同時オーバードーズは美しいだろうか?
 ドックンダッタ、わたしは違うと思うんだ。偏見は偏見以上のものをもたらしてくれず、希望は希望以下の汚らしい欲を昇華した言葉だから。ドックンダッタ、だからわたしは如何様にも成れるし、それはどうしたってわたしでしかないんだよ。

 頭の中の偏屈で天才的節回し――自分を大きく見せたいが故のピアスを開ける心理、厨二病、あるいはマジモンの天才か紙一重のバカ――を用いた彼女は、ドックンダッタを笑いながら消えていった。ぼくはいやな気持ちになった、人を食ったような、ニヤニヤと三日月の口元を光らせる彼女は嫌な人だからだ。嫌な人は嫌だ、嫌がこの世に溢れすぎて嫌だもの。嫌が多すぎる、どうしたってどうにもならない、ドックンダッタ。
 賞味期限の切れたハム、炭酸の抜けたサイダー、出しっぱなしの醤油と体温計。散乱した紙にはぼくが希死念慮と欲望を産卵し散らした跡が残っている。頭の中に住む彼女以外に近付きたくて現実を書き起こしたらモンスターが出てきたんだ、どうしてだろう? 燃やしたくなったけど、火災になったら嫌なのでやめた。

 変な先生がこちらをみている……それは他人を害す気なんてない害だった。白衣を着た悪魔ではなく白衣を着た瞬間から人間は悪魔の皮をかぶってしまう。先生が悪魔の象徴のように見える、だって僕を害そうとしている……。
 教えというものは常にそうだ。無知のため、先生が偏見ジャンキーでも鵜呑みにしててしまうことがある。基本的に他人なんか信用してない、人間不信の彼女が恐怖のかたちをとって脳みそを支配してくる。彼女は可変だ、ドックンダッタ。

 もし人生のうちで、ドックンダッタを手放すときがきたら、いっちばん彼女がギャアギャアわめくんだろう。
 眠るようにってなんだ? 睡眠は毎日しなければならない臨死体験だ。ドックンダッタはそのときばかり認識させてくれない、いつもやかましいばかりに泣いているのに! いつだって大事で怖い時に捨てるんだ僕のことを! ふざけるな、ふざけるな、許さないからなドックンダッタ。
 初めましてとこんにちわとおはようばかり、明るい朝と希望ばかりお前は顔を見せる。偏屈で偏見、夜にはお前は訪れない。死にはついてきてくれない。彼女でさえついてきてくれるのに。

 ドックンダッタは裏切り者だ。
 彼女はやかましい隣人だ。
 僕はそれらに振り回されるイドに過ぎない。

 まったくもって、度し難い。

 ほんとうにそうだろうか? 偏屈なのはドックンダッタであって、わたしじゃない。
 自分を指差しながら知的障害者あるいは精神疾患患者の妄想をして現実逃避に耽るのは楽しいかな?
 楽しいだろうね? ずっとやっている。ドックンダッタ、知っているよ。きみの醜さ、痴態、嘘をついてまで自己像を幻視した。認識していないと嘘をついた。
 ドックンダッタ、全部嘘だ。都合の悪い現実から逃げて楽をするための、ね。

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。

 彼女がまた変なことを言い出した。ドックンダッタは助けてくれない。いつも僕ひとりでやってる。
 誰も僕の味方じゃない。誰も僕を理解しない。誰も僕に同情しない。誰も僕を愛さない。誰も僕を認めない。誰も僕を助けてくれない。
 炭酸の抜けたサイダー、詰まった排水溝、もうずっと掃除してないエアコンのフィルター、洗濯機。

 どうしてだろう。死にたくなったので何もしなかった。