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極楽いぬ生活#3 お散歩デビュー色々

2002年から2008年にかけて「PEPPY」で連載していたものを再掲しています。

お散歩デビューいろいろ

ココアのお散歩デビューは忘れもしない。
私は顔に7cmほどのミミズ腫れを作り、頭から湯気がもうもうと出るくらい怒って帰ってきたものだ。

理由は山ほどある。

まず、引っ張る。
どんな制止法も効果無し。とにかく先へ先へと気が急いて、大人が徒歩で20分ほどかかる公園まで、彼女はずっと二本足で跳ねて行ったのだ。「オマエはサルか!」と言いたくなった。キョンシーってご存知だろうか。古い映画に出てくる中国のお化けだが、散歩中ずっとあの体勢だった。

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そして、道中、すべての家の玄関に入ろうとし、すべての犬と人に挨拶しようとし(そのころはまだ愛想は良かった)、すべてのものを拾って食おうとした。

さらに自分の周り360度、全ての匂いを嗅ごうとした。リードをギリギリまで引っ張って、私を中心とした円を描きながら前進する。キョンシー体勢でのワイパー状態。なかなか公園になんて着きゃしない。

しかし、見かけは小さな(中身は悪魔のような)子犬をキツく叱るわけにもいかず、公園に着く頃には私の頭の上でお湯が沸騰して、フタが吹っ飛びそうなくらいだった。

やれやれとやっと着いたと遊んでいたら、一匹のコーギーがやってきた。

彼女はココアを見るなり「コイツにはヤキいれとかなアカン」と思ったのだろうか(なかなか見る目のあるコーギーだ)、一目散に駆けてきてココアを追っかけまわした。ガウガウ威嚇しながら。

気が強いとはいえその日がお散歩デビューだったココアはパニックになった。「トラウマになってはいけない!」と思った私はココアを抱き上げた。興奮したココアは抱っこされても暴れ続け、私は彼女を落とすまいと必死で抑えた。

そのとき、顎に熱い痛みを感じた。

かくして、顔に7cmのミミズ腫れを携えた私は、相変わらずキョンシー体勢でワイパー状態のココアを半ば引きずりながら家へと急いだ。お風呂を沸騰させられるくらい怒りながら。

早く消毒したかった。顔のミミズ腫れを。

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クーのお散歩デビューはしあわせだった。
私は終始微笑んでいた。

彼は引っ張りもせず、ビビりもせず、楽しげに歩いた。すべての犬や人が自分のことを大好きだと思っているようだった。

前から人が来ると尻尾を全開で振って待っていた。
「ぼく、ぼく、ぼくはここだよ!」
と、言わんばかりに。
触られたり、笑いかけてもらうと心から嬉しそうだった。

犬に全く興味のない人が知らん顔で通り過ぎると、それでも振り向いてくれるはずだと、尻尾を振り続けたまま後ろ姿を目で追っていた。
「ぼくはここなのにぃ!」
「ここだよ!ここ!」
「なんで気づかないの!?」
って、不思議そうに、残念そうに見送っていた。

でも、また次の人がやってくると同じことを繰り返した。
「あのー、顔を見るだけでも見てやってもらえないでしょうか。」
と、頼みたくなるほど健気だった。

犬にも上手に挨拶した。家で迫力ある姐さんたちに鍛えられているので、威嚇されてもへっちゃら。ニコニコしていた。

夢のようなわんこ、嘘のように穏やかなお散歩デビューだった。

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