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かんとうへいや

春のにおいと慟哭をつなぐ四月。の、てまえ。彼の歩く歩幅は大きく、私は背が低いので相対的に歩幅は小さい。うしろをついていくと、いつの間にか鉄塔が真っ直ぐ連なる関東平野に到着し、ここがきみの生まれた所だよ、と言われる。田んぼがずっと続き、潮のかおりもない。

私の生まれた所は、私の記憶が確かであれば、鉄塔はたくさん連なっていたけれど、山並みにぐちゃぐちゃと並んでいて、そこには火力発電所があり、潮のかおりがあった。弧を描く砂浜があり、遊泳禁止の海があった。

こんな、寒くて平らな土地で生まれてないよ、と前を歩く彼に伝えても、彼は笑うだけだ。私は焦って何度も伝える。ここではない、私の場所は関東平野のここではない、伝えても、届かなければそれは一方的な、言葉の羅列だ。

きみは雪を知らないからこれから雪を見に行こう、と、彼が言う。おばあちゃんちは雪国だったから知っている、と言っても、彼は笑うだけだ。私の顔も見ず、大きな歩幅でずんずん歩いていく。言葉を伝えても、ただの羅列になる。歩き疲れて足元を見れば、スニーカーだと思っていたのに、いつしか靴はヒールのブーツになって、私の身長が少し伸びていた。

私はいつから、此処ではない此処にいて、此処から夢見た此処にいたのだろう。彼は関東平野をずんずん歩き、私は泣きながらそれを追いかける。月日は止まることを知らない。

#詩 #散文

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