序 幼い頃より自他共に認める怠け者であった私の悪癖は、大人になっても決して矯正されるものではなく、常に「がんばらなければ」という焦燥感に苛まれながら、何事も成さぬまま寿命の半分辺りを折り返してしまった。美術家を名乗りながらも、その怠け癖は自身の活動にまで悪影響を及ぼし、一時は表現意欲すら枯渇していたように思う。そうなればもはや社会不適合者の誹りも免れぬただの厄介者……であったはずの私に、最近ある種の依頼が舞い込むようになった。それは妻であるふくしひとみに対する問い合わせ、また
最近ありがたいことに、SNSで妻のパフォーマンスをご覧になった皆様から「すごい才能!」「天才!」などの、過分なお褒めの言葉を頂戴する機会が増えた。その都度コメントの内容を妻に伝えはするのだが、本人はなぜかいつも浮かぬ顔。はじめは照れ隠しの一種かと思ったが、どうやらそうではないらしい。妻が「才能と努力」について語った内容を、今回も対話形式で記していきたい。 補足 これまでの会話を回想し統合したものです。私のセリフがわざとらしく感じる箇所があるかもしれませんが、読み手に伝わり易
~われなべにとじぶた~ ひびが入ったなべにも相応に修理したふたがある。 どんな人にもその人にふさわしい相手がいること。 欠点がある者同士が共に暮らしていることの喩え。 やばいやつ 私と妻は、二人一緒だと「お似合いですよ」「素敵なご夫婦ですね」などと賛辞のお言葉をいただくことが多く恐縮しきりなのだが、私一人だと「この人やべー!」「絶対おかしい!」などと呆れられ、人から疎ましがられることも多い。しかしこんな状況は今に始まったことではなく、妻と行動を共にする以前はずっとそのように
訛(なま)り 我が事ながら「文章が堅苦しい」という認識はある。流行り言葉を好まない姿勢もその原因の一つであるのだろうが、妻の「なまってるからでしょ」という指摘でその本質に至った。蓋しその通りである。「私が標準語話者だったら、口語を書き下してもっとカジュアルな文章が書けるのに」と常々不具合を感じていたのである。という訳で、今回は私の訛り※をそのまま表記した、対話形式をメインに書き進めていきたい。 ※私は基本的に香川県の方言である讃岐弁を使用。上京時にほんの少し標準語寄りはにな
~小さな大妖怪の来訪~ 妖怪絵師 十代の頃より買い集めた妖怪に関する様々な資料が、今では本棚でほこりをかぶっている。以前の私は「妖怪絵師」として妖怪の絵を描く表現活動を行っていたが、今はあまり精力的に行っていない。今回は妻と一緒に暮らし始めて急に増えた心霊現象と、なぜ私があまり妖怪を描かなくなったかについて記していこうと思う。 十年近く前の写真。 以前は『百犬庵 戌一』として妖怪イベントなどに出展していた。 ちなみに『百犬庵』は屋号『戌一』は今も使っている作家名である。
「私、運動音痴なんだよね」 妻と出会った頃、本人がよく口にしていた言葉である。 今でこそ音楽だけではなく、ダンス、ヨガと様々な活動に取り組んでいる妻であるが、当時の私は「ずっとピアノばっかりやっていたからか」と勝手に納得し、その話を軽く聞き流していた。しかし徐々に違和感は増していき、妻の自己認識の歪みとそうなるに至った経緯に、私はまた大いに戸惑うことになるのである。 全部天然の筋肉だった 運動不足解消のために、初めて二人でジムに行った時のこと。ウェイトトレーニング未経験であ
~出会いから今の関係性に至るまでの経緯~ 序 固定記事でも申し上げている通り、最近は各種媒体から執筆依頼を頂戴する機会が増えた。その都度手法を変えお伝えしてきたのだが、自主的にしたためるこの場にもう一度だけ、私と妻が今の活動形態に至った経緯を記しておきたいと思う。今回も別の切り口から振り返ってはいるので、他の媒体をご覧くださった方も、今一度お付き合いくだされば幸いである。 出会い 私が妖怪絵師として(いつか説明するので今回は読み流してください)妖怪の絵を描いて暮らしていた
免責事項 文中ノーリード状態のイヌの描写が見られますが、全て車の通行のない、山間集落の私有地内での話です。 登場する妻の実家の動物たちは、条例に則り然るべき予防接種や処置を受けております。 また妻の回想は数十年前のもので、現代の市街地とは全く異なる条件下での話であることに留意してお読みください。 いろんな動物がなつく妻 以前の記事(下記リンク参照)で、妻と暮らし始めて以来いろんな動物が訪ねて来るようになった話を書いたが、野生動物が集まるだけではなく、実は愛玩動物も異常に妻に
過去のこの日 何事においても後ろ向きな私は、Facebookの「思い出」という機能で「過去のこの日」を振り返ってばかりいる。しかし過去を俯瞰で見ると反省点が浮き彫りになり、今後に活かせるのではないかという前向きな気持ちもなくはない。そして今日も己の来し方行く末を占うべくページを開いたのだが、まず最上段に、大和時代のような髪型をした妻が、砂浜で貝殻を打ち鳴らす姿が現れた。 古事記 何年も前のような気がしていたが、これはちょうど一年前、妻と山陰地方を訪れた時の動画である。その数
動物そして霊の来訪 妻と暮らし始めた瞬間、私の平穏な日常は崩壊し、そして何かが始まった。なぜか人間との交友が減り、代わりに家の周りに動物たちが集まるようになった。郊外とはいえ東京都内、タヌキなどごく稀にしか目にしなかったものだが、月に何度もタヌキやイタチなどが訪ねて来るようになったのである。そしてこれまで心霊体験など皆無、かつその存在に懐疑的ですらあった私をして宗旨替えせしめるほどの、あからさまな怪現象が顕現するようになった。 ネコ、イタチ、そしてタヌキ では具体的に「訪ね