寄り添うことすらできないけれど

「たいしたことじゃない」

私は一瞬聞き間違えたのかと思った。

けれども、目の前の彼女はたしかに笑いながらそう言った。

私は戸惑いを隠さずに言った。

「何言ってんの？たいしたことでしょう」

私の言葉を聞いて、今度は彼女がキョトンとした。

久しぶりに会った友達は、ある出来事をキッカケにとても苦しんでいた。

「時々無性に話したくなって、おしゃべりが止まらなくなる」

「おばちゃんが誰彼かまわず話しかける気持ちがわかるようになった」

彼女はまるでオモシロイ話でしょうと言わんばかりに苦笑しながらそう言った。

おどけて話す彼女とは裏腹にSOSのアラームが鳴り響いているような違和感を感じて、それが結局一体どこからやってきているのか私にはわからなくて、上手く返事をすることができなかった。

「ある出来事」は一般的にも大変だと思われるケースで、彼女の抱える苦しみは至極当然のように思えた。

けれども、別れ際に彼女から「たいしたことじゃない」と聞いて、「ある出来事」はただのキッカケにすぎないんだと確信した。

そして、彼女にとっては当たり前過ぎてマヒした自身の感覚に気付かない限り、その苦しみを和らげることは誰にもどうすることもできないのだと感じた。

私には彼女の苦しみに寄り添うことすらできないのだと。

それでも彼女の心が晴れやかになるよう祈らずにはいられないから、自分のために今日も彼女のことを想っている。