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interviews#4 ミュージカル俳優・中井智彦 Part2

『ジェーン・エア』の出演

――2023年3月からはジョン・ケアード演出のミュージカル『ジェーン・エア』に出演されますよね。
「『ジェーン・エア』は、「女性はこうあるべき、こうじゃなくてはいけない」ということをジェーンが壊していくんですね。そのなかで僕らの役は、「こうあるべき」と枠に押し込めるような周囲の人間。こういう作品におけるジョン・ケアードの演出も「君たちの個性をまず出して」と、そこから役に入っていくというリアリティを重視する方法です。これまでに『キャンディード』もジョンの演出で出演し、役柄も“押し込めようとする人達”でした。そのなかで“自分を自分として”持って、誰が見た道じゃないけれど、進もうとする人たちの輝きに毎回刺激を受けていて、そのスパイスのひとつになるためには人間臭い“生っぽい自分”を引き出さないといけないと思っています。“生っぽい自分”を引き出すためには役を作っていてはダメなんです。人間にはさまざまな感情があって、苦しみ、悲しみ、楽しみ、喜びとかをそれぞれの役者が引っ張り出してくるからこそ、そこに違いが生まれておもしろいんです。そこが演技のおもしろさで、最近は自分でも引っ張り出せるようになってきたかな、という実感はあります」

――“生っぽい自分”とはどうすれば出せるものですか?
「力まないことですね。極限で力んで何かをやろうとする演技。舞台を観ていて、よく伝わる役者には力みがなく、言ってしまえば、ただそこにいるだけ。役がしっかり入っていて、その役としてしゃべっている。ミュージカルの場合、歌おうとする、踊ろうとするところでセリフの感覚から外れてしまい、リアリティがなくなってしまう。(ロンドンの)ウエストエンドで観た時、ほぼほぼ全員が力んで見せようとしていなくて、歌も踊りも自然。誰もがリラックスして自由に演じているんですね。それをミュージカル『CHESS』で共演したラミン・カリムルーにもすごく感じていて。究極をいうとフリー、自由である以外なにものでもなかったように思います。それは、演出家が彼の声のレンジ、演技力などを絶対的に信じているからこそ泳がせてくれているんだと。そういう演出手法が海外の演劇のすごくいいところだなと思っています」

――海外で舞台をご覧になって、中井さんが感じる魅力は、他にはどんなところがありますか。
「ブロードウェイ作品ですごくいいと思う点は、時代性に踏み込むなど、その作品が存在することに意味があることです。たとえば、少数派の人が生きる意味というものにスポットを当てることで、差別に対する闘いになるじゃないですか。実際には見える世界なのに、本能的に見ないことにしてしまう。そんなこと、私達の日常では多いですよね。でも、そうじゃなくて、真正面から見てディスカッションをして、話し合うことで問題を解決していくカタチが僕は大好きで。ブロードウェイの作品は、それを常に発信しているように思います。デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』にしても、脚本の中に生きている音楽があって、それが人間の生きる意味というところにつながっている。そういう作品が好きです。ただ、そういう作品を作るのは簡単ではなく、ひとりの考え方だけじゃなく、誰もがイーブンでディスカッションすることが大切で、誰のために作っているのか……。ブロードウェイで好評を得たミュージカル『カム・フロム・アウェイ』だったら、9.11当日に大勢の乗客を受け入れたカナダ・ガンダーの人達への感謝のために作られた。その誰か、というものが明確にあれば、あるほど、素敵な作品だと僕は思うんです。そこが自分で作る作品においての難しさです。ひとり善がりにならずに、自分が伝えたいことは何か……」

――もう一度、話を『ジェーン・エア』に戻しましょうか。
「『ジェーン・エア』では歌唱指導でも入らせてもらっていて、音楽監督のブラッド・ハークとは『ナイツ・テイル』の再演の際にも一緒に仕事をさせてもらったのですが、すごく刺激に満ちているんですよ。彼がブロードウェイと日本の違いを話してくれたことがあって、ブロードウェイでは制作側と演者がイーブンな関係が現場で作られているので、たとえば、新曲をやりたいからと俳優を呼ぶと、日本人は「私なんかですみません」という雰囲気で来るけれど、ブロードウェイでは「私は何を歌えばいいの?」って来るからと。僕は、彼ら演者に「あなたは私をどう調理してくれるわけ」という気持ちがあるからこそ、対等な関係が現場で作られているだと、うらやましくなるんですけれども、当事者のブラッドは、「だから、ブロードウェイはこわいんだ」って言っていました(笑)。
 具体的にはミュージカルは「こういう声で歌うべき」という先入観を越えて、もっとウィスパーでしゃべってみよう、マイクを信じてみよう、英語のグルーヴの乗せた日本語詞は本当にわかりづらいものか、ということをどう検証していくか。そういう新しいチャレンジが出来る場にいられることがすごく刺激的です」

――歌唱指導とは具体的にどんなことを担っているのですか?
「歌唱指導についたのは『ナイツ・テイル』の時が初めてでした。自分が歌うことでいっぱいいっぱいなのに、出演者の誰かがどういうアプローチでつまづいているのか、一緒に考えられるのがおもしろかったです。誰もがオーディションに合格して、この場にいるので、潜在能力は折り紙付きなわけです。そのなかでつまづいている理由のひとつは、やはり力みなんですよね。「やらなきゃ」、「頑張らなきゃ」と思う気持ちが表現力を奪ったり、セリフや歌詞が輪郭だけになって、言葉のニュアンスが届かなくなってしまっている。その力みを取るにはどうしたらいいか、ディスカッションをしていく。ブラッドは、そこを求めているんですね。英語だから、日本語だから、ではなく、「歌おう」とするところからどう解放させてあげられるか。そういうディスカッションが僕の勉強にもなっています」

15周年EP『Singer Song Actor』

――どんなテーマのもとで作られた作品ですか?
「シンガー・ソング・アクターとしての僕に影響を与えた楽曲、歌の中に感じる物語というのを重視して選曲しました。さらに15周年ということで、ファンの方にリクエストを募りました。『翼をください』以外は、全てリクエスト曲です。『翼をください』は、EP制作の中でどうしても僕が1曲目に入れたかった曲です。昔この歌詞に感じていたことと、いまあらためて感じることが全然違っていたんですよね。「翼は生えるだろう」と信じていた昔と、「翼なんか生えない」と考えてしまっている今の自分がいて、子供の時に夢見たことと、今も同じ夢を見ている自分でいるか。自分を振り返る曲になりました。
 『伝わりますか』は、歌詞がつらくていい(笑)。昭和というのはなんて時代だったんだろうか。なぜか女性を自分と照らし合わせる傾向があって、この世界観を表現したい。こういう世界に生きた女性の物語を僕は、描きたかったんです。
 『愛は花、君はその種子~The Rose』も歌詞を読めば読むほど、人間はつらくても、痛みがあっても、それでも生きていく。ある意味で輪廻転生の歌だと思っていて、長濱君のアレンジも心臓の鼓動を意識したものになっています。彼が一番困ったアレンジだったと言っていますが、このアレンジのおかげで僕の『The Rose』になったかなと。
 『心の瞳』も大好きな曲です。お客様に優しさを届けられる曲で、何があっても後を振り返るのではなく、そばにいるあなたと分かち合える、それこそが幸せじゃないかと歌っている。ずっとライヴで歌い続けていきたい曲です」

エンターテイメントは“心の栄養”

――最後に今回インタビューするなかで、番組『WE/LIVE/MUSICAL』をやっている時期に行ったウエストエンドの影響をとても感じたのですが、いかがでしょうか。
「ウエストエンドに行ったことで、演劇に対する僕の観点がすごく変わりました。作品よりも俳優にフォーカスして観に行っていたので、なぜ彼らがあれほどイキイキ出来るのか。観客も誰か贔屓の役者を観に行くというよりは、作品から刺激を受けたいという動機で観劇をしている。だから、自ずと作品に対して厳しくなるんですよね。この脚本による作品を観終わった時に、これだけのものを抱えて持って帰れる喜び。もちろん日本にも素敵な脚本家の方がいらっしゃるので、そこがもっとクローズアップされて、脚本家への期待感から芝居を見に行くという文化がもっと定着すると、エンターテイメントがちょっと変わっていく気がしています。
 好きな人だけを応援するのではなく、自分がこの脚本によって心が動き、明日も頑張れる活力を得たとか。この物語の辛さを受け止めて、人間を考えるとか、ある種哲学的な思いを人として抱えることが出来た。じゃぁ、これから自分はどう生きるかとか。それがエンターテイメントに出来る“心の栄養”だと思うんですね。その時どきの自分の状況によって観に行く作品を変えられる。そういう状況、そういう作品を作れる人間として僕も頑張りたいと思っています」


中井智彦コンセプトライブ【ワタシノコト】
11月20日(日) 
昼公演:13時30分開場 / 14時開演
夜公演:17時30分開場 / 18時開演
会場:吉祥寺ROCK JOINT GB
配信もあります。
詳細は、中井智彦オフィシャルサイト
https://www.nakaitomohiko.jp/