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さよならブロン よろしく貝印


DXMの無限螺旋地獄からなんとか帰還した後、
一睡もできるわけがなく朝を迎えて
インターネットに接続して心を落ち着かせてた。
今日は水曜日、ただ1人の家族である母親が
午前休でお昼まで家にいる日だな、なんとか夢の世界に逃げ込んで目を背けれたらな、と思いながら
インターネットで休息を得る。

ふと部屋の扉が開き人影が私の巣に侵入してきた。
少し音楽の音量を下げて、少しでも小言が飛ばないように対策し、一層インターネットに目を背けた。
どうやら部屋に転がるペットボトルや空き缶を
集めに来たらしい。もうすぐゴミの日みたいだ。
何故か安心して手に持つ板に意識を向けてた。
その隙に人影が大切な巣の大切な領域に近づく。

私の耳に1つの音が飛び込んできた。
瓶同士がぶつかり響く綺麗な音。
大切な領域にあった、飲みきったブロンの瓶。
紫色のドレスを着飾る綺麗で透き通った肌の
お姫様達が互いに手を取り踊り合う音色。

一瞬で体が凍てついた。私のお姫様達が攫われる。
なのに私は動けない。助けに行くことはおろか、
声を出すことも腕を伸ばして武器を手に取ることも
ままならない。地獄から帰ってきたあとろくに休んでいなかったから力が残っていなかった。
かろうじての思いで人影に手を伸ばし、待って、それだけはやめて、と伝えようと努力したけれど。
そんな無力な抵抗はなんの意味も成さず。

奪われてしまった。攫われてしまった。
私の大切なお姫様達。私が生きていた証。
この部屋にはその薬で平静を保っていた人間が、
それを飲んで耐えていた人間が居たという証拠を。
間違いなく私の人生の一欠片を。
間違いなく私を象徴する1パーツを。
いつも他人にもらったりねだったりだった私が
なんとか自分の力で買った立派で大事な宝物を。

私の巣には黒髪の一般女性が佇んでいる。
彼女とお姫様達の相性は抜群で、一緒に並ぶ姿を
ずっとこの目に収められる聖域が侵食され、
跡形も残らなくなってしまった。

在りし日の聖域。奥に少しお姫様が見えるね


奪われてしまった人生の一欠片。生きていた証。
今まで一度も捨てずに残していたからこそ、
生きた証と感じられた。こんなに飲んでいた、と
一目で理解することができたから。
それがリセットされてしまったのだ。
ならそれはもう完璧な生きた証にはなり得ない。

奪われたのなら何を証にすればいい?
二度と奪われないもの。奪わせないものを探す。
何故今回奪われたのか、それは形があったからだ。
そして自分とは別の物体で、完璧に自立していた。
それなら他人に触れられ持ち去られる事も起きる。

そうであるならば、必然的に答えは出る。
絶対に奪われずまともには消えないもの。
これしかないと思った。完璧だと思った。
ならば早速実行するべきだ。
そうして私は左腕を伸ばし、右腕で武器を持つ。

刻みつける。生きた証を。苦しんだ証を。
可愛らしい桃色の刃物で。
己が体ならば奪われることも絶対に無いのだから。

さよならブロン。私の大切なお姫様達。

よろしく貝印。私の人生を共に歩む新しい武器達。


一生忘れられない傷をつけてやるから



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