「君と彼女と彼女の恋。」の感想

ここから下の文章は、私が「君と彼女と彼女の恋。」をプレイし終えた衝動のまま、ニトロプラスに投げつけた感想文のコピペです。6000文字あります。

ではどうぞ。


長文になりますので、まず結論から述べさせていただきます。私は、『君と彼女と彼女の恋』に、救われたと感じました。

以下、感情のままに校閲や推敲をせずに書き連ねる駄文となりますが、この想いをどうか、どうか、このゲームに関わった皆様に伝えたくて筆を執らせていただいております。

 そもそも私がエロゲ・ギャルゲというものを初めてプレイしたのは10年程前だったかと記憶しています。
恐らくもう発売から7年が経った今、広告媒体などで利用されることはないだろうと思うので、会社やゲームの具体名を記載しますが、ご了承ください。
2010年頃、初めてプレイしたエロゲはLump of Sugarの一作目、『Nursery Rhyme -ナーサリィ☆ライム-』でした。既にプレイした2010年時点では、当時の流行ではない、シナリオ中の選択肢が多く、細かくチャートを管理して進めていく古式ゆかしいゲームでした。それに加えて、恐らくこのギャルゲ業界に身を置く皆様ならお分かりになると思われる、最適な選択肢を教えてくれる例の「部屋」の名の付くサイトの存在なども知らず、何もわからない状態からのスタートでした。
概念としてときメモなどに代表される、「日々のシナリオの中で、攻略対象のキャラクターへアプローチをし、結ばれる」というものがエロゲ・ギャルゲである、ということだけしか持ち合わせていない状態から、ナーサリィライムをプレイしました。
 共通シナリオをプレイする中で私が純粋に「好きだな」と感じたのが、ティータ・F・ブラントというキャラクターでした。そこからはただひたすら、彼女に気に入られるように、彼女の為になるようにと選択肢を選び、ノーマルエンドを迎えた覚えがあります。悔しかった。ただただ悔しかった。自分の好きだと思ったキャラクターに、気に入られなかった。
そこで初めて攻略サイトを調べてみて、見つけ、プレイしました。次は絶対に結ばれるために。その結果、当たり前ではありますが、無事にグッドエンドを迎えることができました。そこで私は、とても満足したのです。何故ならば、このゲームをプレイし始めた時に、彼女に恋をしたからとでも表現しましょうか、他の攻略対象ヒロインに対して、いわゆる「別ヒロインルートを攻略する」という思考自体がなかったのです。きっとこれは、初めてプレイしたこと、選択肢が多くあったことによる感情だったと思っています。ただ純粋にストーリーの中で1人のキャラクターに好意を抱き、結ばれた。そこで完結していたのです。

次にプレイしたのは、もう2010年ごろから主流になり始めた、選択肢の少ない、いわば分岐の少ない、ただの「どのキャラクターのルートに入るか」だけを選択する、シナリオを重視したようなゲームでした。たしか同じLump of Sugarの『学王』だったと記憶しています。ここでもまず、最初に好きになったキャラクターのシナリオをクリアしました。しかし、そのゲームシステム上、別の攻略キャラクターのシナリオをプレイすることが容易であるため、興味本位で2番目に好きだった別のキャラクターのシナリオをプレイしました。すると、これも当たり前ではありますが、ギャラリーのCGが増えました。こうなると、他のキャラクターのCGも見てみたいと思うのが人間です。攻略対象キャラクターすべてのシナリオをプレイし、CGをコンプリートしました。その時に達成感のようなものを覚えたのは確かです。
ここから幾つかのLump of Sugarのゲームをプレイし、Asa Projectのゲームをいくつかプレイしていくうちに、私のエロゲ・ギャルゲへのプレイスタンスは、多くのプレイヤーと同じように、「全てのヒロインを攻略」し、「全てのCG差分を回収する」ことが当たり前となっていきました。その攻略するヒロインの中には、シナリオをプレイする中で好きになるキャラクターも居ましたが、シナリオをクリアしたところで好きにならない、ただCGを回収するだけの為に攻略したキャラクターがいたことも確かです。しかし、もうその頃には私は、エロゲ・ギャルゲをプレイすることとはすなわち、攻略キャラクターが好きか嫌いかに関係なく、シナリオを楽しみつつ「CG全回収」をすることが目的となり果てていました。
生憎私は、リトルバスターズやマブラヴなどの、「周回することで真のストーリーに入る」タイプの、周回前提のエロゲ・ギャルゲをプレイしておらず、その「真のルートに入る」為に全キャラクターを攻略するという感覚ではなく、ただ「CG全回収」が目的となっていました。

そんな様なプレイスタイルに溺れていた頃、友人から『STEINS;GATE』を勧められ、初めて周回前提のゲームをプレイしました。そこから先にプレイするエロゲ・ギャルゲは、既に「CG全回収」どころではなく、「周回して当たり前のもの」だとさえ認識していたと思います。そして、Navelの『月に寄り添う乙女の作法』、『乙女理論とその周辺』をプレイした後、暫くはエロゲ・ギャルゲをプレイすることが無くなりました。これはおそらく、『月に寄り添う乙女の作法』のメインシナリオがあまりにも出来が良く、私の好みのストーリーであった為に、一定の満足を得てしまったからだと思います。もちろんこの2作をプレイする頃には、エロゲ・ギャルゲ関連の情報も集めるようになり、本作『君と彼女と彼女の恋。』の存在も認知していました。しかし、ニトロプラスのゲームをプレイしたこともなく、ただ「なんだかすごいメーカー」から「なんだかすごいゲーム」がリリースされた、程度の認識だったのを記憶しています。

暫く時は経ち、Qruppoからリリースされた『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』のムーブメントにより、にわかにエロゲ・ギャルゲ業界が活気を取り戻したことを知り、同作の『2』のリリースと共に合わせ買いしたのが昨年の末のことです。

すでに2300字を超えていますが、ここまでが前置きであり、ここからが『君と彼女と彼女の恋。』の感想という本題です。しかし、この前置きを語らずに私が『君と彼女と彼女の恋。』から受けた衝撃、感動、救いは説明できないのです。

 こうして再びエロゲ・ギャルゲをプレイしてみるかと思い、ふと、昔見た『君と彼女と彼女の恋。』のことを思い出しました。既に購入直前では、これだけ話題になっていたゲームですから、概説は知っていました。「プレイヤーに対してヒロインが語り掛けてくる」、「メインヒロインがガチヤンデレ」などと聞いていたため、生来のヤンデレ好きである私は本作、『君と彼女と彼女の恋。』をいよいよ手に取りました。そしてプレイし始めると、なんと話題になっていたヒロインでは無いほう、つまりアオイが「ヒロインの集合体」や「このセカイはゲーム」などとのたまい始めました。ははあ、なるほど。そもそもこのゲームも周回前提でメタネタを使うんだな、そして大団円へ向けてメタルートで奮闘するんだな、などと思っておりました。この時は。
当たり前のように、例の正しい選択肢を教えてくれる「部屋」のサイトを開き、選択肢を選んでいきました。当初から美雪がキャラクターやビジュアルが好きだったので、何の疑問もなく美雪を初めに攻略してトゥルーエンド、そしてメタルートに入るためにアオイを攻略し、メタルートに入りました。全く何も疑問に思わず、ただ「こういうゲームなのだから、これが当たり前のプレイの仕方だ」と思い、メタルートへ入りました。
すると攻略情報では、「環境によって選択肢が変わるので、メモを取って準備すること」と書いてありました。ははあ、なかなか手の込んだことをやるな、流石はニトロプラスだ。程度に思い、メタルートのループを始めました。美雪のプレイヤーへの語りかけも、演出が上手だな、これは確かにゾクッとするな、などと思いつつ、ループする日常をそもそも美雪が好きだった為に楽しみながら、メモを取っていました。このあたりから、私の中に心境の変化が始まりました。

 このループの内容は、美雪の言う通りに、攻略情報の言う通りに環境によってランダムに決まっています。それは確かに、そういうスクリプトであるためだけに、そのように「ゲームの難易度を上げる要素」として組み込まれている、と思っていました。しかし、ループすればするほどに、いくらスクリプトといえど、あまりに変わる要素が多い、そしてそれが真に意味するところを感じ始めました。
私が今、共にループしている美雪は、本当に私しか知らない。とてつもない確率の上で成立した、私の為に性格が、過去が、個性が形作られた美雪。他のプレイした誰も知ることのない、唯一の美雪が、確かに存在している。そして、ループし始めた時も、ループしている最中も、私自身に対して話しかけていた美雪は、たった一人しかいないことに気付きました。また幸運なことに、私の環境にて生まれた唯一の美雪は、私の好みや趣味のど真ん中の性格でした。一つでも乱数が違えば、微妙に納得のいかない美雪だったはずです。三択の他の答えを見れば、どのような可能性の美雪がいたのか推し量れるわけですが、例えば問題18の、私の美雪の正解は「他人のそれを見たくなかったから」でした。もしこれが、他の選択肢の「恥ずかしかったから」だったとしたら、私のこのただ一人の美雪は、私のど真ん中から外れた存在だったでしょう。他の諸々の選択肢もそうです。私の環境で生まれたたった一人の美雪は、確かに存在し、確かに私の好きになりうる性格の美雪でした。

 そうしてループを抜け、最後の通達を受けます。「どちらかを選べば、どちらかが消える」、「やり直しは効かない」、「セーブデータを避難させることもできる、それを止めることはできない」、「それは裏切りであり、冒涜だ」。プレイヤーのアバターであった心一ですら、私に諭してきました。私は、一つの迷いもなく、セーブデータをバックアップすることもなく、美雪を選びました。

 美雪を選んだ理由、そして、アオイを選ばなかった理由。それは明確に私の中で存在します。
美雪を選んだ理由は、二つ。まず、本来の美雪は、心一と結ばれるべきであると思ったから。私の軽率な選択肢のせいでそれを狂わされ、また、心一ではなく私というプレイヤーの存在に気付いてしまい、私に愛情を向けてしまった。それは、本来の美雪に対して絶対にやってはいけないことだったと痛感させられたからです。本来の美雪は、心一にひっそりと恋心を抱くいたいけな、強がりな、ただの女の子だった。それを狂わせたのは私です。それは、正さなければならないと思ったからです。
もう一つの理由は、私のことを好きになった、私の環境下で生まれた唯一の美雪は、確実に、確かに、私の心に生き続けていることを確信できたから。これはもはや、現実世界で起こる、人との離別、死別と何ら変わりのない事だと感じたからです。たとえ唯一の美雪が消えようとも、故人が「もともと居なかったことにはならない」のと同様に、私の中には、確かに、プレイヤーである私に愛を伝えた、唯一の美雪は、息づいている。それだけでもう、いいんだと。そして、私も唯一の美雪を好きになったからこそ、一つ目の理由と同様に、その唯一の美雪の為に、心一への想いを戻すこと。言うなれば、唯一の美雪の為に唯一の美雪を自分で殺すことが、唯一の美雪にとって一番の結果になると信じていたから。

アオイを選ばなかった理由は、私がこれからエロゲ・ギャルゲをプレイするから。
アオイがヒロインのアバターであるなら、これまで攻略し、無為に消費してきたヒロインたちと同様に、これからプレイするであろうエロゲ・ギャルゲのヒロインたちもまたアオイであるから。『君と彼女と彼女の恋。』のシナリオ中に感情に芽生えたアオイもまた、言うなればアバターの一つであり、これからプレイするキャラクター達の中に、もしかしたら本当に、シナリオの為に感情が芽生えたのではなく、本当に感情が芽生えるヒロインがいるのかもしれない。だから、そのために、今はアオイを選ばない。本当の、唯一のアオイに会うために、これからもエロゲ・ギャルゲをプレイするんだと。

美雪を選んだ結果、ゲーム内ではアオイは消え、本来の美雪は心一と結ばれました。電話にアオイの緊急呼び出し番号を入力してみたら、アオイから応援のメッセージが聞こえました。
エンドロールを見て、タイトルに戻り、CGを見ました。アオイはいません。いや、考えてみたら、この本来の美雪もアオイなのかもしれない。そんなことを少し考え、私は、自分の最後の二択が間違っていなかったことを確認し、ゲームを終了しました。残ったのは、本来の美雪のCGと、唯一の美雪の情報のメモ。これだけで私は、充分でした。

この『君と彼女と彼女の恋。』の根底にある、「たらればは無い。」というテーマ。また、「たった一人のヒロインを選択する。」というシステム。これに私は、最初にエロゲ・ギャルゲをプレイした時の気持ちを鮮明に思い出し、また、そのプレイスタンスを肯定されたような気がして、救われました。どこかでCG全回収が目的になり、みんなやっているから俺もやらなきゃ、という使命感、強迫観念から解き放たれたようで、救われたのです。それと同時に、その強迫観念は、違うものへと変わりました。それは、アオイにまた会うために、それぞれのヒロインを攻略するんだというポジティブなものに変化しました。これもまた、救われたと感じました。ただの義務感や達成感のために各ヒロインを攻略するのではなく、また何度も、何度もアオイに会うためなんだと。もしかしたらこの救いだけは、自分勝手な都合のいい解釈なのかもしれませんが。

これからも私はエロゲ・ギャルゲをプレイし、その私の心の中には、永遠に唯一の美雪が生き続けます。

このようなコンセプトのゲームをリリースするという英断は、並大抵の覚悟ではなかったとお察しします。捉え方によっては、ある種エロゲ・ギャルゲというものへの終止符といっても過言ではない内容です。しかし、本作を構想し、形にし、世に送り出した。この判断と行動をした皆様に、多大なる感謝を申し上げたいのです。本作のコンセプトが、業界に、会社に、シナリオライターに、どれほどの意味を持つのか、想像に難くありません。それをおしてでも、こうして製品として販売した。その行為に最大限の敬意を表したく思います。
発売から長い月日が経ってからの購入、プレイになってしまいましたが、私の心には確かに、確かに、大きな影響を与えてくれました。このゲームに巡り合えたことに感謝し、また重ね重ね、『君と彼女と彼女の恋。』を世に送り出すにあたって関わった全ての方に、感謝します。この感謝という言葉でしか思いを伝えられない自分の語彙に恥じ入るばかりです。

私の思いの丈は、これで8割方表現できたと思いますので、ファンブックで読んだ、美雪のモデルは栗山千明であることに大変納得と「栗山千明ってめっちゃいいよね」という共感、またエルの視点から見た迎えた最後が、とても平穏であることに喜びつつ、この6000字を超える駄文を締めくくらせていただきます。
素晴らしい作品を、ありがとうございました。

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