エピソード1-11 女王陛下

思うにプライドの高い人は劣等感を人一倍大きく持ち合わせているのではないか。
向上心の高さは裏を返せば現状に納得のいってない事の現れ。空っぽな自身に危機感を覚え、夢だの何だのを宣いネガティブな自分自身をどうにか理屈づけて崇高な者として存在させようとする。
大言壮語はご立派だが、それ故に傲慢なのである。そこが不快且つ滑稽で楽しいのだが。

夏は過ぎ風あざみ。9月の厳しい残暑の中、私は彼女の家に招かれた。どうやら性懲りも無く更に紹介したい商品があるらしい。

地下鉄に乗り練馬区へ。仕事終わりの彼女と合流する。いつもの様に勧めてくるサプリの定期便をやんわり辞退する。

彼女も未だ道半ばである。流石にAmway1本で生活する程には成長していないらしく、会社員として業務に勤しんでいたのだ。

「今日はチーズケーキだっけ」
彼女は例のフライパンを使って私にチーズケーキを振舞おうと言うのだ。先日先輩の家でフライパンについて解説を受けたにも関わらず、またも同じ商品を紹介するとは二番煎じも甚だしい。そんなにフライパンを買わせたくなったのか、彼女。

一緒にスーパーに立ち寄りクリームチーズを購入する。
ここで気付く。コイツ普段お菓子の類を作らないな、と。
果たして彼女は料理が好きだからAmway製品で更なる効率化を図っているのか、それともAmwayを布教したいが為にその都度手の込んだ料理を作っているのか。謎は深まるばかりである。
クリームチーズ“だけ”を購入する不自然。彼女が料理をする“目的”というものが垣間見えた。

帰路の中、話の種に占いを教えてくれた。生年月日の数字を足したり引いたりして結果を出す。
私は「自身の事を1番理解しているのは自分自身であると自覚している、しかしそれを他人に決めつけられるのは嫌うタイプ」だそうだ。
Exactly(その通りでございます)、ならば君がそれを指摘する事に私が煩わしさを感じていることは分かるよね?よね?
この占い、特許を取得しておりGACKT等の著名人も活用しているらしく不用意に他言して欲しくないとのこと。まぁ結果の出し方がうろ覚えなのでグレーってことで。

彼女の家に到着し、炭酸水を一杯貰う。
こちらもAmway製品。水に圧力をかけることで炭酸水に変えるスグレモノ。普通に要らんなぁ。

画像はAmway公式Facebookから拝借

「何か曲でも流す?」と言われたので思いつきでQueenをリクエストする。彼女はYouTubeでQueenを検索して名曲集を選択する。どうせ違法アップロードの類なのだろう、というありがちな動画だ。
バックグラウンド再生に対応してないので非課金勢であると考察するのは容易。
一応副業収入で家賃を賄ってる筈なのに、エンタメには金を払わん!とでも言うのか。いや恐らくサブスクなる物を知らないのだろう、そうであるに違いない。

冷蔵庫から材料を取り出す彼女。庫内に作り置き惣菜を入れたタッパーは無い。やはり料理の頻度は少なさそうだ。

クリームチーズやら小麦粉やらをフードプロセッサーに入れてかき混ぜる。勿論フープロはAmway製。
その後クッキングシートを敷いた例のフライパンに生地を流し込み、蓋をして焼く。
私と同様にTHERMOSのフライパンが好きな読者諸君ならきっと気付いているだろう。そう、シートを使わないとケーキも焼けない雑魚フライパンである。1度フライ返しと油を使わず目玉焼きを作ってみるといい。きっと気に入ることだろう。

完成したチーズケーキを実食。うん、まぁ特筆する程でもないそれなりの美味さだ。休日の昼下がりに我が子が精一杯心を込めて作ってくれたらとても美味しく感じる様な、その程度のクオリティ。まぁ独身なんですけど。

それにしても​───随分と応用の利くフライパンだなぁと零してみる。案の定食いついて購入を促す彼女。しかし私はTHERMOS至上主義の一途な青年。おいそれとあの子を裏切る訳にはいかない。
すると彼女は「そんなモノよりAmwayの方が全然いいって!」と強く勧めた。


食事を終えて彼女の家を出る。駅まで見送ってくれた。
別れ際に「また飲み会やセミナーに誘うね」と言ってくれる。「LINE待ってる、またね」と返す。
私を仲間と認めてくれた事に感謝。

しかし既に私は彼女との別離を決していた。理由はさっきの言葉だ。
私の愛するTHERMOSを「そんなモノ」と軽視し、一笑に付し、否定した。私は私の愛する物(者)を侮辱されるのが大嫌いだ。
あるキッカケによって恋心がプツリと途絶えてしまったかの様な、苛立ちを含んだ虚無感が滝の様に襲った。
これがジョジョ第5分だったら間違いなく彼女は自身の命で代償を払っていた事だろう。それ程に彼女は私の心を侮辱したのだ。

いつか「またね」と手を振り合ったけれど、もう会う事は無いのでしょう。
シドの嘘の大サビの様な最後だった。唯一違う点は既に日は落ちて“茜色”ではなかったことであろう。

こうして彼女と、Amwayとのひと夏は終わりを迎えた。過去何度も予感していた傲慢が大きく露呈したことで、私の燃え盛る心は冷えきってしまった。いや、正気に戻ったのかも知れない。

これからも彼女はどこかで涙ぐましい草の根運動に勤しむのだろう。Tinderの君よ、そのまま我が道を闊歩するが良い。


エピソード1 Amway編        ー完ー


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