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楽天オンライン講演録:"Mindfulness, Ancestors, and Self-Cultivation"

2022年9月に楽天の社員向けに松本紹圭がオンライン講演を行いました。楽天では公用語が英語ということもあり、講演は英語で行われましたが、この講演録では、日本語に翻訳して講演内容を書いています。

Mindfulnessについて~日本仏教におけるマインドフルネスとは?

今日の講演では3つのトピックを用意しました。"Mindfulness, Ancestors, and Self-cultivation"(マインドフルネス、祖先、そして修養)についてです。

まず、Mindfulnessという言葉から始めたいと思います。本日の参加者は外国籍の社員も多いと聞いています。日本に来る前は、日本の仏教はマインドフルネスだと想像していたかもしれません。でも、実際に来てみて、どうでしょう?日本の仏教や文化はマインドフルネスであると感じているでしょうか?マインドフルネスは日本仏教の一部に過ぎません。また、マインドフルネスというとよく瞑想をやっているイメージがあるかもしれませんが、それだけではありません。

日本には、僧侶が修行する「道場 - Monastery -」がたくさんあります。道場では「作務 - Samu -」と呼ばれる日々の努めがあり、その「作務 - Samu -」の中で主に行われているのが「掃除 - Soji -」です。禅では僧侶たちは瞑想よりも掃除や作務に多くの時間を費やします。もし禅寺で修行をみる機会があれば、きっと掃除をしている光景をみることができるでしょう。僧侶たちは寺や床を掃除し、植物の世話をします。生活のあらゆることをマインドフルネスの実践に変えることができます。料理をしているときでさえもです。

これは、日本の仏教において重要なポイントです。瞑想だけが修行ではないのです。生活のあらゆる所作をマインドフルネスの実践に変えることができるのです。つまり、どう生きるかが重要なのです。

そのような日本仏教を体験したいのであれば、わたしはお寺の朝を掃除するというTemple Morningというセッションに参加してみてください。"Temple Morning"でググってもらえれば、わたしのツイート等がみつかると思います。私のお寺は東京・神谷町にあります。もし興味があるなら、月に1, 2回の頻度で開催していますので、Temple Morningに参加してみてください。

Ancestorsについて~お寺の二階建て理論から考える

私は日本仏教の構造を、20年間に渡る僧侶としての経験から考え出した「二階建て理論」を使ってよく説明します。もしあなたが周りの人に「あなたにとって仏教とは何ですか」と質問すると、おそらく「お寺に行ったり、お墓参りして先祖供養をすることだ」と答えるかもしれません。しかし、人によってはこのように答えるかもしれません。「私はマインドフルネスにとても興味があり、良いお寺を見つけては瞑想をしにいっています」。この2つの回答には、異なる物語があります。一つは、日本仏教の土台、一階にあたるグランドレベル、つまり、先祖を崇拝するための空間があります。そして、その上の二階に、今を生きている人のためのマインドフルネスの空間があります。

日本人の中でもシニア世代は、一階が重要だという人は多いです。しかし、若い世代では、二階のマインドフルネスの機能の方がより有用であり、より身近なものとして関係があると思う人は多いです。一見まったく異なるようにみえる、お寺の一階と二階を繋ぐ仏教観とはなんでしょう。

私の質問は、「なぜ先祖が私たちにとって重要なのか」、ということです。先祖は目に見えない存在ですが、実は非常に身近な存在であり、私たちがいかに生きるか(マインドフルネス)を支えるものでもあるのです。

全く異なる人々の間で、共通の存在、目に見えない存在を見つけるのは簡単なことではありません。しかし、先祖というのは、私たちのほとんどに関係するものです。日本人のシニア世代にとって、先祖供養は今でもとても重要です。先祖供養は、私たちの目に見える世界に未知の先祖を招き入れ、未知の何かとのつながりを感じるためのものであることがわかると思います。

「三方良し」、皆さんは聞いたことがありますか?

「三方良し」とは、三方にとって利益となるものです。これは、成功した商人たちの間で非常に古くから言われている言葉です。商売を成功させたいなら、この三方良しの考えを持っておくことはとても大切なことです。

三方とは何か?ビジネスは、「買い手」にとって良いものであることはもちろんですが、「売り手」にとっても良いものでなければなりません。そしてそれだけでなく、第三者である「社会」にとっても良いものでなければなりません。

では「四方良し」といったとき、もう一つは何でしょう?これは、滋賀県のビジネスコミュニティのリーダーから教えてもらったことです。「売り手良し、買い手良し、世間良し、そして仏法良し」。仏法というと仏様(ブッダ)のことです。でも仏様と商売はどう考えたら良いのでしょう?これは、目に見えない存在を私たちのマルチステークオールマイティな思考に取り込む、とてもユニークな方法だと思うのです。

買い手、売り手、社会。しかし、それだけでなく、自己を超えた過去や未来にある目に見えない存在も含まれている、そのような日本の文化的思考が、今日の日本人の日本人の方向性にも影響を与えています。

Self-Cultivationについて~beyond-self and no-self

日本人の自己啓発の方向性は、自己を超えた(beyond-self)経済的なもの、自己を持たないもの(no-self)にあります。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、最終的には、無我(no-self)の境地に向かっているのです。これは、日本仏教の非常にユニークな部分です。そして、それは、日本人の自己修養の文化に強くあらわれています。

このような視点があれば、楽天のブランドコンセプト(https://corp.rakuten.co.jp/about/philosophy/principle/)もより身近に感じられるのではないでしょうか。

大義名分(On a Mission: Empowerment)とは、使命のことですが、これは、自己を超えた何かを超えること、と理解できます。

品性高潔(Behave Ethically: Integrity)とは、倫理的に振る舞うことです。日本人の間では一般的な感覚として、誰もあなたを見ていなくても、太陽や目に見えないものが常にあなたを見ていると考えます。

用意周到(Prepare to Succeed: Professionalism)とは、成功するための準備することは重要であるという意味です。この言葉は、有名なことわざ「人事を尽くして天命を待つ」を連想させます。成功したいのであれば、準備は必要ですが、ときには、十分に準備しても成功しないこともあります。これは決して、成功するために努力をすることを否定しているのではありません。ベストを尽くしたならば、あとは運命に任せようと考え方ます。

信念不抜(Complete Commitment: Get Things Done)とは、物事を成し遂げるということです。これもまた、アンセスターマインドセットにも関係しています。自分の代だけでコミットメントを完結できないこともあります。例えば、お寺では、何百年もの間、森を守り育てています。木を植えるとき、その利益は自分ではなく、次の世代にもたらされます。完全なコミットメントとは、ときには自己や自分の時代を超えることもあります。

一致団結(Solidarity: Succeed as a Team)とは、チームとして成功することです。チームとして成功するには、目に見えない未知のものをチームの中に招き入れれば、より力を発揮できるようになります。

日本仏教からのリーダーシップクエスチョン

さて、最後に、これまでの話を通じて、日本の仏教がマインドフルネスを超えたところにあることを理解していただけたかもしれません。皆さんは、東京タワーの最上階に登った経験がありますか?東京タワーから景色を眺めると、たくさんの墓地が見えますよね。東京の中心部であっても、日本の仏教はあらゆるところに存在します。たしかに、日本仏教は先祖供養の文脈が強く、マインドフルネスや瞑想とはまったく違うものに見えます。しかし、そこには目に見えない未知のものを自分の人生に招き入れ、自分を広げ、さらには自己を超えていく、自己を解放するための修行が基本的な考えとして流れています。

このような日本仏教の特徴から、私たちは非常に重要な問いを持っていると思います。

どうすれば、より良い先祖になれるのか?
How can we become better ancestors?

これは、日本仏教のリーダーシップの問題であり、非常にユニークな質問だと思います。

それでは、この問いを私から皆さんへの贈り物として、スピーチを終わりにしたいと思います。ありがとうございました。


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