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【”流れ”について考えてみた】セリエA20-21 第16節 サンプドリア−インテル マッチレビュー

本節を短いセンテンスで表現するなら「”流れ”が明暗を分けた」はいかがだろうか。
サンプドリアの勝利は戦略や戦術以外の概念が一助となった感が否めない。が、敗北した側はそれに便宜を得てはならないだろう。

こんにちは!TORAです🐯
今回はセリエA第16節サンプドリア−インテルのマッチレビューです。

●はじめに−戦術以外のモノ

最近すっごく嬉しいことがありました。
下記の引用リツイートです(許可頂いております)。

僕がマッチレビューの核としているところを汲み取っていただけたこと。コレ本当に嬉しかったんですよね。

先ず伝わってるってところ。
次にそれを評価下さってるところ。
とどめにインテリスタで良かっただなんて!
この3連続シュートを本節のエリクセンの代わりに放っていれば…うん。間違いなくネットは揺れていましたね。

はい。
意味不明な前置きをしたのには理由があって、僕はサッカー、というか競技スポーツに戦術がない訳ない!と思っている人間です。

戦術ってことばが誤解を招きやすいと思うのですが要は手段・方法。勝つ為の手段なく臨む競技スポーツってありえなくないですか?プロフェッショナルなら尚更。
ここを例えば、「ゴリ押し」とか抽象的なことばで表現するのは本質を遠ざける非常に勿体ないことだなぁ、とか思ったり。
だから僕は日々マッチレビューにチャレンジして、なるべく”簡単なことば”の構成で言語化していきたいんです。

選手をピッチに配置するだけではない。そこには戦術が必ずあって自チームを優位に相手を不利に働くよう駆け引きする。
それが醍醐味でしょう!それがサッカーでしょう!!!

なーんて感じで、戦術だけでサッカー全てが語れれば世話ないですし、きっと面白さも損なわれますね。
精確無比なロボットなら通用するかもですがプレーしているのは人間。ピッチには戦略や戦術だけじゃなくて様々なモノが渦巻いてます。

たしかに僕は「戦術がない訳ない!」と考えていますが、一方で目に見えない概念が試合に影響を及ぼす力が大きいことも肯定します。

そして身も蓋もないかもしれませんが本節はこの概念が結果を左右したと。

”流れ”を得たサンプドリアが勝点3も獲得した

シンプルイズベスト。
このワードが最も腑に落ちやすいのではないでしょうか。Twitterのインテリスタの方々も使用している方は多かったですね。

立ち上がりは上々だったのにトルスビーのハンドで得たPKを失敗するとトーンダウン。その後、同じハンドでPKをサンプドリアにお返しするあたり不思議な因果を感じます。

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それでもインテルも負けじと攻めました。特に後半は一方的。しかし、シュート数、オンターゲット共にサンプドリアの倍以上を放つもネットを揺らしたのは1度のみ。しかもセットプレー。
この決定力のなさ、ツキのなさは流れが悪い!と逃げ口の一つも言いたくなりますよね。

結局、戦術面で何を語るにしてもここを取り上げないといけないですし、手段だったりスタッツだったりで測れないところを否定できないと考えます。

とは言え、

何がよろしくなかったのか。

を振り返ることは敗北した試合だからこそ重要と捉えます。
色々なモノが渦巻いているとは言え、やはりサッカーはサッカー。ピッチでは何かが起こっているはずのでそれを読み取っていきたい。

ということで、今回は癖になりつつある変則レビュー。
今回は”流れ”にフィーチャーしたいなと考えました。

仮に”流れ”というものが存在して、何がそれを生んだのか。

これを自分なりに分析していきたいと思います。

●そもそも”流れ”って?

「ホットハンドの誤謬」をご存知でしょうか。
アメリカの心理学者ギロヴィッチらは「技術に依存した運動の過程において事前の成功がプレイヤーの心理的なふるまいとそれに続く成功率を変えることは誤謬である」と唱えています。
バスケットボールの試合から研究された現象で、サッカーで例えれば「ストライカーにひとつのゴールが生まれて、ケチャドバが期待できるのは気のせいでっせ!」って感じですかね。ちょっとオーバーですが。

つまりこれに肯定している方々は競技スポーツの”流れ”の存在に懐疑的なんですね。

この研究は議論が続いており肯定も否定もそれぞれ研究や論文が存在するんですが本記事ではテーマ上、ホットハンドの誤謬の否定側に立ちます。=”流れ”の存在を肯定します。

”流れ”を肯定する研究に、「”流れ”は継続性強制性の性質を有している」と唱える説が存在します。

一度チームに発生すると形成が逆転しづらい「継続性」。

悪い流れが発生しているときに特別な措置をとらないと相手チームの意のままにゲームが展開される「強制性」。

これが”流れ”、すなわち試合形勢のファクトだとしています。

この論に乗っかってみましょう。
本節にこれらの性質に該当する事象はあったのでしょうか。

お待たせしました。前置き終了です。
9連勝が嫌な形で潰えたからででしょうか。テンションがおかしいかもしれません。というか単純に深夜テンションです(現在、午前2時)。

●選手起用

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・サンプドリア
68分トネッリ▶︎ベレシンスキ
74分シウヴァ▶︎アスキルセン(負傷交代?)
75分ヤンクト▶︎レリ
90+2分ケイタ▶︎ラ・グミナ
・インテル 
46分ヤング▶︎ペリシッチ
63分ガリアルディーニ▶︎ルカク
70分サンチェス▶︎エリクセン
81分シュクリニアル▶︎ダンブロージオ
81分バレッラ▶︎ヴィダル

●継続性-ハマらなかったプレッシング、許し続けたボール前進

最初に取り上げたいのはインテルのボール非保持。具体的に前からプレスです。

サンプドリアはオーソドックスなフラット4-4-2。インテルのお馴染みの3-5-2。プレスの噛み合わせのベースは下図のように見ました。

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✔︎前線と右側は割と明確に対面の選手を担当。
✔︎左は良く言えばフレキシブル。悪く言えば曖昧。
✔︎左はガリアルディーニが肝だった。彼のポジショニングや判断の良さには期待していた感。

タスクが左右非対称な感じです。
左はSBにガリアルディーニが行ったり、SHにバストーニが行ってスペースをヤングが埋めたりとマークの受け渡しが右よりも流動的。

僕は当初、ガリアルディーニのスタメンを「ヴィダルは懲罰的にスタメン外されちゃったか」と思っていたのですが、前半が進むにつれて「もしかしたらガリアルディーニの特性ゆえ、スターティングチョイスか」と考えるようになりました。

こう書くとなんだかポジティブな感じですが実際はハマっていませんでした。
原因はそのガリアルディーニかヤングなんですがコンテ監督がどう指示を出していたかによります。

外から見ている僕には決して知る由はありませんが、何が起きてしまっているかは32分のシーンをその代表例として紹介させてください。

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✔︎バックパスでGKから仕切り直し。
✔︎前線2枚はCBのパスコースを切りつつGKに圧をかける。
✔︎幅を取った吉田に展開。ガリアルディーニが出ていく。
✔︎縦パスをカンドレーヴァに付けると、フリーになったトルスビーを使い、中央へ展開される。

このシーンで疑問なのがガリアルディーニとヤングの距離。前から捕まえようとするガリアルディーニに対しヤングはブロック形成の位置取りです(ちなみに直前のプレーの影響はありません)。
結果、カンドレーヴァにはバストーニが圧をかけに行くのですがタイミングが遅くなってしまった上、ガリアルディーニが出たことによってトルスビーがフリーなったので、いとも簡単にパスを繋がれます。

このように前半は前から捕まえに行くのか、ブロックでしっかり迎撃するのかの意識統一がふわふわしてました。
おかげで前線の2枚や2列目以下の特定選手は圧をかけるんだけどサンプドリアのビルドアップ隊の数的優位であっさり躱され、ぽっかり空いた中盤を使われバーティカルな進軍を許す。サンプドリアの縦展開はまるでクロトーネ戦のインテルを見ているようでした。

・サンプドリアのパス総回数:SCAを比較
本節▶︎339:16
平均▶︎430.9:16.6
普段よりも少ないパス総回数でシュートを創造できていたことが分かる(尚、質は別のお話)。
※SCA=シュート直前の2つのプレー関与。シュートに繋がるドリブル・パス・シュート(途中で味方が触ったり、ポストに当たったケースなど)、セットプレーからシュートに繋がった被ファウルを指す。

ガリアルディーニとヤング。
どちらがコンテ監督にとって誤算だったかは後半に答えが出ました。体力的な問題やターンオーバーなどの側面を踏まえてもHTでの交代はネガティブな意味合いが濃いでしょう(後述しますが他の狙いもあったと思います)。

年齢ゆえプレー強度も継続的なスプリントやクイックネスも期待できない彼は攻守におけるポジショニングの良さでボールに関われることとキックの精度という残った武器で戦っている印象を持っていましたが(最近の守備の稚拙さはポジショニングは良くても身体が付いてこない結果かと)、本節の守備時におけるポジショニングはかなり厳しいように見えました。残念ながらHTでの交代は妥当でしょう。

「継続性」のあるボール前進

サンプドリアは先制点も相まって”ホットハンド”が発生しているように見えました。成功が新たな成功を呼ぶ。
2得点目のきっかけとなったダムスゴールのドリブル突破はやはり”流れ”あってこそ、勢いやモチベーション由来の選択、ポジティブな「継続性」が実を結んだゴールに僕は見えました。

●強制性-再現されたトラウマ

続いてはサンプドリアのボール非保持を。

その選手配置通り4-4-2ブロックかと思いきや、要所要所で可変していました。

ⅰ)トルスビーのライン間埋め
まずはトルスビーがDF-MF間に降りて4-1-3-2ブロックを形成するパターン。

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主にインテルが中央やハーフレーンから崩そうとする際に可変していました。
中央をソリッドに締め、サイドに追いやる目的でしょう。
なんといってもインテルはルカク不在です。サンプドリアのCB(コリー、トネッリ)は屈強ですし、放り込みのクロスは望むところだったということです。

これはめちゃくちゃ効果的でインテルはクロスゲーを強制されました。スタッツにもしっかりと表れていましたね。


・インテルのクロス本数:PA内の味方に合った回数を比較
本節➤31:6
平均➤14.9:3.38
クロス本数は平均のなんと倍以上の値に。FBref.comより参照。

尚、ヤング▶︎ペリシッチの交代はこの盤面を読み取っての交代という側面もあると思います。ファーのヘッダータスクですね。実際ペリシッチは何度か惜しいヘディング見せてました。
交代策が指摘されがちなコンテ監督ですが、この交代に関してはタイミング、メンバーのチョイスともにジャストだったと考えています。

ⅱ)ヤンクトの最終ライン入り
左SHヤンクトが最終ライン入りして5-3-2で守るパターンもありました。
主にサイドに流れた際と自陣深くまで押し込まれた際に可変。

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前者はファー対策。後者はインテルの嫌いな5レーン埋め立て+ゾーンディフェンスが目的でしょう。
サンプドリアはゾーンとは言え、一度警戒エリアに入ったら人に厳しめですし、可変せず4-4で守る場合もあるので中分類はちがいますが、大分類で言えばシャフタールと同じ。

尚、シャフタール戦もやはりサイドに追いやられ不本意なクロスゲーを強いられています。CL第6節クロス本数は27。
悪い流れが発生しているときに特別な措置をとらないと
相手チームの意のままにゲームが展開される。

嫌な思い出がフラッシュバックしました。あの試合の再現となると「強制性」の性質が強く作用していそうと感じてしまいます。
ルカクやエリクセンの投入による3-4-1-2は現時点では特別な措置とは言えないでしょう。他ならぬシャフタール戦で証明されました。

プランBの欠如。
サンプドリアの「強制性」を振り払う術がインテルにはありませんでした。
オンプレーでゴールに迫れどあと少しでネットが揺られなかったのは、少なからずここに影響があったのかもしれません。

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・本節のゴール期待値
期待値通りであれば2-1ではなく、1-2のスコアが妥当。組織的なチャンスの質は勝ち点3に値するもので足りなかったのは決定力であったことが窺える。
尚、PKの期待値は統計的に0.76固定なのでサンプドリアの期待値は半分以上がPKの値。
understat.comより引用。
(ちなみにFBref.comの期待値はサンプ1.2−2.5インテル)

チームは違えど似た守備戦術で生まれた”強制性”はもはや戦術の域を超えて、呪いのような概念でインテルを雁字搦めにし、苦しめる。
もはやオカルト的な思案を巡らせている中、タイムアップの笛を聞いた僕は思いました。
「結局、根深い課題にアンサーを出さないまま8連勝を飾ったツケが一気に回ってきたんだな」と。

・スコア
サンプドリア2-1インテル 
(23分カンドレーヴァPK、38分ケイタ、65分デ・フライ)


●おわりに−あくまで結果論である

本記事で扱った”流れ”、そして2つの性質、特に「強制性」は事象後の主観による結果論です。
さらに付け加えれば、なんとも脆く曖昧な見解でもあります。
スタッツも引っ張ってきましたが、今回は裏付けではなく、なんとか概念化してやろう!と、その根拠の弱さには僕自身、気づいております。

加えて、誤解しないで頂きたいのはサンプドリアがラッキーで勝てたという訳ではありません。
上述のように彼らはボール保持も非保持も効果的でしたし、なにより勝点3の為にとにかく献身性を見せました。

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・本節の走行距離
総合距離もスプリントもサンプドリアが上回っています。セリエA公式HPより引用。

こうした勝利への渇望、気合、姿勢なんかも目に見えない概念となってインテルを苦しめたんでしょう。

冒頭で述べたようにこういった概念を僕は否定していません。
加えてこれもサッカーの面白さだとも感じます。

ということでたまにはこうゆう切り口もいいんじゃないかなー!という試みでした!
まさかサッカーのレビューで呪いなんて単語を使うとは想像もしていなかったです笑

しかしながら「もう1回ゼロベースで書き直し!」となってもやっぱり同じ内容を書くと思います。
やっぱりこの試合は戦術以外のナニかがあった。レビューの為に試合のおかわりを見ても考えは変わりませんでした。

本節をご覧になられた方、特にインテリスタの方に「同じ思いの方がいるといいなぁ」と淡い期待を持ちつつ、「まったく刺さらなかったどうしよう」という不安いっぱいで記事を公開することにします。なんというかお手柔らかにお願いします笑

次節は苦手としているローマ戦。
ただでさえ重要なゲームが本節、インテルが勝点を逃したことでさらに重要になりました。
この後、イタリアダービーも踏まえてますし正念場ですね。

FORZA INTER!!⚫️🔵

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